。.*三日月姫*.。
- 。.*橙空*.。
。.*217*.。
。.*217*.。
「子供に話せる思い出・・・いるじゃん、だって、おんなじ学校なのに、」
「……。」
「俺の・・・嫁、やだ、?」
「やじゃ・・・、ありません、」
「……、」
「だけど・・・、その気持ち……頑張って、失くさないように、頑張って……下さい。」
「・・・なんじゃそりゃ。」
「ふふ。」
気持ちなんて・・・・いつ、変わるか分からない。だけど、自分の足で。努力して。気持ちを伝えて。
望む未来に、行けばいい。
「そしたら・・・・依織ちゃん、触りたいほーだいじゃん。」
「なっ、!」
「どこまでって、めんどくせぇ事考えなくても触りたいほーだい。」
「大野くん!」
「いーじゃんか・・・。抱きしめたい女の子、俺初めてなんだから・・・。」
立てた膝に腕を乗せ、そこにまだ顔をくっつけたままで、姫が拗ねたように、可笑しそうに笑う。半分怒って、半分照れて焦るあたしの頬に・・・姫の手が伸びて来て、するすると指が滑りだす。
触れられてる頬も、嬉しくて恥ずかしくて、俯くけど。それよりも、あたしを見つめる姫の表情が・・・熱くて、照れくさくて、あたしを俯かせるんだ。
「いつになったら・・・・、ここに……ちゅーできんのかなぁ……。」
姫は、違う。なんて・・・。福田先生に言ってたけど、なんか・・・姫もそうみたい。だけど、抱きしめたいのあたしだけだって言ってるから・・・・いい。それに・・・あたしだって姫に触りたい。
姫の、いつも綺麗に流されてる・・・耳の後ろの髪を・・・じっとしてる今なら……、って顔を上げて手を伸ばした。
あたしだって・・・姫に、触れたい・・・、
「だから、バカかっつーんだよ、」
「え、」
「そんな顔して・・・・手出すな、」
「、」
「襲いたくなる。我慢・・・してんのに・・・。やめろ。」
「ふふふ」
「よっ。依織ちゃん、もう立てる・・・?」
本気で「いつ ちゅーできんのかな」って言ってなかったのか、あっさりと姫が立ち上がる。
「うん、」
「プロポーズもしたし。他・・・回ろっか。」
「思い出話・・・出来るように?」
「ううん。俺がまだ依織ちゃんと青樟いてぇから。だって何ヵ月も・・・無駄にした。」
「うん」
手を持って立ち上がらせてくれて、姫と一緒に並んで見たのは・・・
向かい側の南校舎のその向こう。学校の道路を挟んだ場所にある市営のグラウンドや、そこから駅まで続く家も、遠くの線路も、赤い欄干も。
並んで手を繋いで見たのは・・・・もう、全部がオレンジに染まる景色。
いつもの部活の声。いつもの楽器の音。日常の中にまだ・・・姫が居る。あたし達にはまだ見えない、未来を約束した人が。
「俺らがいつも見てたのは・・・・、青空だけだった」
「……」
「この色は・・・・依織ちゃんとだけ。」
今は・・・・、キンモクセイの香りはしないけど姫の甘い香りが、あたしの横で香る。
「きっと・・・・いつか話すと思う……。」
「、、、……」
「キンモクセイの匂いがしたら・・・・俺、絶対……依織ちゃん思い出すんだ、」
「、、……、」
揺れ出すオレンジ色の視界。同じ匂い中で恋をしてた。
「だから・・・・そん時、話す・・・。」
「、、…、…、」
「依織ちゃんは・・・すぐ、泣いてたって・・・」
「……、、、、、」
「俺が・・・月に帰らせなかったからかなぁ、って・・・言うよ・・・。」
「……、、ん、、、」
「んふふ。」
この人との・・・・未来を望む高校生のあたしは、バカな子供だろうか。
だけど信じたい。あたしの未来は、明るいって。
そしてきっと・・・いつか思い出す日が来るだろう。それが、あたしの望んだ未来じゃなかったとしても。孫を抱いていつかバッタリ会ったとしても。
どんな未来だったとしても。
キンモクセイが、香れば・・・・切なく恋した季節を。
夕陽の中で、優しく見えた・・・恋しい人の瞳を。
自転車の後ろで、舞った風を。
遠くで、目が合っただけで、ドキドキしてたあたしを。
何度も、視線が合い・・・離せなかった、あの瞬間を。
何度も、視線が合い・・・すぐに逸らした、あの瞬間を。
初めての星空の下で、並んで笑ってくれたあの優しい笑顔を。
好き、と言ってくれた声を。
いつか・・・・思い出す。キラキラと光る、高校の頃のあたしを。
この、一面のオレンジを、手を繋ぎ・・・・ただ、屋上に立ってるだけで、泣いた、あたしを。
きっと・・・・
この人の・・・明るい未来の、横で。
。.*三日月姫*.。 全217話 完結