。.*橙空*.。

。.*214*.。


朝、来弥にお礼を言って、教科書を返して付き合った事を報告した。


学校に着いたら、みんなが飛んであたしの周りに集まって来る。幸せな報告は、女子高生達の顔を簡単に緩ませた。


朝のホームルーム。女子のほわほわした雰囲気と、あたしの顔を見た福田先生は・・・段々眉が上に上がって、「へ・・・?」って顔のまま、何秒か目が合ったままになった。


あたしの日常は・・・・続いて行く。どんな未来へも、続けて行ける。それは・・・全部、自分の努力しだい。




「清水ー。彼氏でも出来たか」




呼び出すのは面倒くさかったのか、あたしの顔を見て確信があったのか・・・みんなの前でカマをかけて確かめた先生。




「きゃっ!!」


「福ちゃん!何で知ってんの!」




答えは、ハッピーガール達の抑えきれない喜びの声。頑なに「他は無い」って言ってたあたしの彼氏が・・・・姫だって、先生には分かる。




「マジか・・・。」




一日中、姫の事を想い、休み時間の度にメールが来てないか確かめた。現実は・・・そんなにもロマンチックな出来事ばかりじゃないのかも、って思いながら行った放課後の職員室。「大野はやめとけ。」あの日、先生が言った言葉の意味を・・・聞かなくちゃ。



「おう。報告な。ちょっと待って、」




書いてた何かを、閉じながら・・・福田先生が立ち上がった。




「お前・・・・一発逆転だな、」


「逆転て」




野球か何か知らないけど、そんなものに例えられても意味が分かんないし、第一・・・同じ日に恋しちゃったのに、逆転も何も最初からホームランじゃないの・・・?




「大野はやめとけ、ってどういう意味だったの?」「お前、どうやって大野口説いたの?」


「「……。」」




気が合うのか合わないのか。黙り込んで、お互いの目を見つめ合った瞬間、きっと合わないから遭うんだろう、体育の玉井があたし達の前に立った。




「お前・・・・それは、向こうの大学に取りたい学生が居るっつって、俺聞いたから、」


「うそっ・・・・、あたし、そんなの聞いてない、」


「……。」




玉井ちゃん。話がややこしくなるからあっち行って。




「あ、先生、そう言えば彩野もラビットフットの話聞きたいって、教室で待ってるんだけど、」


「……・・・」


「おま、えっ、それは・・・彩野“は”だろ、お前の専門はラビッ・・・、イングリッシュアンゴラ…、だろーが、ったく生物は得意でも国語は弱いなお前。じゃ行こー行こー教室に。みんなが待ってるから。」


「……。」




うだうだと、言い訳がましく2人で歩きだす、職員室前。




「ラビットフットって何」


「知らねぇよ、何だようさぎの足って・・・無駄にビビらせんなよお前」


「ごめん」


「で?どーやって一発逆転したの?」




2人で笑って廊下を進みながら、1年8組へと向かう。




「違う、先生が先。なんで「大野はやめとけ」って言ったの?」


「だって、あいつ、大野・・・好きなやつ居て、神崎がなんかすげぇ落ち込んでるっぽい感じで、お前と神崎仲いいし、まさかお前だなんて、」


「出た。また神崎・・・・」


「キタ・・・。また神崎か!?」


「ね。」


「せんせー!」




笑いながら顔を見合わせてたら、さっき歩き出した職員室の前で、福田先生を呼ぶ人たちが居た。




「お前まだ居る?」


「うん。カバン取りに行かなきゃだし、」


「じゃ、ちょっと待ってて」


「うん。ここで待ってる」




6組と7組の間の廊下だけど、もう生徒はほとんど居ないから、そこで・・・窓の壁にもたれかかって、走って職員室に戻る先生を見てた。


幸せが、体全部に詰まってる今日のあたし。だけど・・・・ちょっとだけ寂しいのは……いつもの、野球部の掛け声が聞こえるから。開いた窓から温かい風がゆっくり入って来るから。吹奏楽の練習音がずっと鳴り響いてるから。


いつもの・・・・今までと同じ学校なのに……姫は・・・・、もう、居ないから。




「……」




夕方の優しいオレンジが、今日もグラウンドを照らし始める。


少し裾を上げたスカート。窓から入る暖かい風が、あたしの膝小僧を優しく撫でて通り過ぎる。


先生の姿を追った廊下の先に、もう・・・姫は居ないけど。昨日までは確かに姫はこの学校に居たのに、って寂しくて涙が滲みそうになるけど。



あたしには明るい未来が待ってる。




「依織ちゃん。」


「…。」


「今。福ちゃんと浮気してただろ。」


「え・・・・、えぇ!?、ひ、姫!?」




笑って、明るい未来に歩いて行くんだ。自分の足で。なんて……、食堂の交差点を見つめて真剣に考えてたら、姫が真後ろに立ってた。