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「ふふ・・・」




今度は親指じゃなく、あたしの手を握ったままで、丸く曲げた人差し指が、あたしの頬を撫でる。




「んふふ・・・ほっぺ・・・ふわふわ・・・。」




あたしは・・・・、もう、何度も、姫の“好き”を感じて・・・、それが幸せで泣いてるんだって、気づいた。




「ほっぺ・・・。」


「、」


「ふわふわに見えんだもん・・・。いっつも・・・」




ずっと指を滑らせ、嬉しそうに笑ってくれる姫が、嬉しい。




「さわりてぇなあ・・・・ってオモッテタ・・・いっつも・・・。」


「……、」


「明日も・・・・さわらして」


「ん・・・」


「あ・・・・。」


「、」


「にこ・・・。してる・・・。」


「ぁ・・・、」


「んふふ」




街灯が・・・、あたしと姫を白く照らしだす。もう、夜が・・・いつの間にかやって来てた。あたしの立ってる位置から、また・・・・月は見えないけど。きっとあたしの願いは叶うはず。だってあたしのお願いは・・・・知らなかっただけ。本当はいつも叶ってたから。




「寒くない?」


「はい・・・」


「、」


「ん?」


「、」




明るい未来へと、歩いて行こう……。


自分から。自分の足で。未来は勝手にやって来る。だけど、自分の望む未来は・・・自分の足で。だから・・・・




「何、?」




待ってないで、聞いた。




「、・・・ぎゅって、」


「…」


「しよっかな、って・・・思ったけど、やめとく・・・・」


「、、」


「んふふ」




あたしは・・・・まだ、子供のまま。姫の言葉に恥ずかしくて俯いてしまうから。今は繋がる手にさえ、ドキドキするから。抱きしめられる事を、想像しただけで・・・膝が震えだす。


だけど、それでいい・・・・。だって、神崎さんが・・・そう言ってたから。あたし達には、明るい未来が、待ってるはずだから。




「も、……、もう、行かないと、だめ、ですよね、」




もう離れても大丈夫。また会えるから。絶対に。




「・・・・。」


「、ぇ…、?」


「ぇぇー・・・・、逃げてる・・・・、」


「ぇ、?」


「ぎゅーする、言った、から・・・、?」




姫と。時々情けない顔をして、あたしをきゅんきゅんさせるこの人との、明るい未来が待ってるから。




「違います・・・、」


「ぜってぇそーだ・・・、」


「ふふ」


「・・・じゃあ・・・送る・・・」


「大丈夫です、大野くんは行って下さい」


「ん、でも、もう暗いし、」


「時間、まだ早いし大丈夫です、」




話しながら、あたしの頭の中は・・・もう、みんなが集まってるだろう、卒業パーティ会場へ。




「あ・・・・、」


「ん?」




そこに居る人達は、みんな・・・




「ぁの、っ、ごめんなさい、神崎さんも、ひ、メ・・・・」


「ん?」


「神崎さんも大野くんも、あたしのせいで、着替えないまま、」




頭の中の、3年8組の人達は、制服じゃなく自分の服を着てた。だけど、あたしに付き合ってくれた2人は、せっかくのパーティなのに制服を着たままになる。




「ゴメンナサイ、」




せめてもと、羽織ってるパーカーを脱いで姫に渡した。




「んん?なに・・・、?」


「制服より、こっちのほうが・・・、ごめんなさい、着替える時間、なくしちゃってみんな着替えてるのに、」


「……、ぅう、んん、制服、だから、」


「ん・・・?」


「パーティ、でしょ、?みんな制服だから、」


「そー、なんですか、?」


「うん。最後だから・・・みんな制服のままって決まってんの」




だけど、何故か姫は羽織ってる学ランを脱いで、パーカーを受け取った。その学ランは、あたしに掛けられる。




「え、?」


「そっちのがぬくいから、」


「でも、」


「いーの。聞かれたら・・・・依織ちゃんが着て帰った、って言いてぇから、」


「、、」


「ちゅーか、一緒に来る?」


「ぃ・・・・。」


「…」


「ぃけません・・・っ」




“きゅんきゅん”や“嬉しい”は、いくらでもあたしに体当たりする勢いでぶつかって来るけど、姫はさっきまでと違っていつも通りの姫に見える。だけど・・・そんな余裕も、子供なあたしには姫が凄く大人に見えてドキドキする。




「なぁ。俺もそろそろ帰っていーか?」


「「!?」」




何か言いたげな姫の顔を見てたら突然、下のほうから聞こえた声。あたしと姫の立ってる位置の、少し横。川へ降りる階段に座った河野さんが、地面から顔だけ出てるみたいな、気持ち悪い事になってた。




「リン、ダ・・・、居たんだ、」


「……。」


「、ワスレテ……、マシタ・・・・、」


「……。」




あたしの日常の意識の中に居る姫や神崎さん。神崎さんは出発し、姫はここに。


河野さん。忘れてた。ごめんなさい。