。.*三日月姫*.。
- 。.*言葉*.。
。.*198*.。
。.*198*.。
「ふふ・・・」
今度は親指じゃなく、あたしの手を握ったままで、丸く曲げた人差し指が、あたしの頬を撫でる。
「んふふ・・・ほっぺ・・・ふわふわ・・・。」
あたしは・・・・、もう、何度も、姫の“好き”を感じて・・・、それが幸せで泣いてるんだって、気づいた。
「ほっぺ・・・。」
「、」
「ふわふわに見えんだもん・・・。いっつも・・・」
ずっと指を滑らせ、嬉しそうに笑ってくれる姫が、嬉しい。
「さわりてぇなあ・・・・ってオモッテタ・・・いっつも・・・。」
「……、」
「明日も・・・・さわらして」
「ん・・・」
「あ・・・・。」
「、」
「にこ・・・。してる・・・。」
「ぁ・・・、」
「んふふ」
街灯が・・・、あたしと姫を白く照らしだす。もう、夜が・・・いつの間にかやって来てた。あたしの立ってる位置から、また・・・・月は見えないけど。きっとあたしの願いは叶うはず。だってあたしのお願いは・・・・知らなかっただけ。本当はいつも叶ってたから。
「寒くない?」
「はい・・・」
「、」
「ん?」
「、」
明るい未来へと、歩いて行こう……。
自分から。自分の足で。未来は勝手にやって来る。だけど、自分の望む未来は・・・自分の足で。だから・・・・
「何、?」
待ってないで、聞いた。
「、・・・ぎゅって、」
「…」
「しよっかな、って・・・思ったけど、やめとく・・・・」
「、、」
「んふふ」
あたしは・・・・まだ、子供のまま。姫の言葉に恥ずかしくて俯いてしまうから。今は繋がる手にさえ、ドキドキするから。抱きしめられる事を、想像しただけで・・・膝が震えだす。
だけど、それでいい・・・・。だって、神崎さんが・・・そう言ってたから。あたし達には、明るい未来が、待ってるはずだから。
「も、……、もう、行かないと、だめ、ですよね、」
もう離れても大丈夫。また会えるから。絶対に。
「・・・・。」
「、ぇ…、?」
「ぇぇー・・・・、逃げてる・・・・、」
「ぇ、?」
「ぎゅーする、言った、から・・・、?」
姫と。時々情けない顔をして、あたしをきゅんきゅんさせるこの人との、明るい未来が待ってるから。
「違います・・・、」
「ぜってぇそーだ・・・、」
「ふふ」
「・・・じゃあ・・・送る・・・」
「大丈夫です、大野くんは行って下さい」
「ん、でも、もう暗いし、」
「時間、まだ早いし大丈夫です、」
話しながら、あたしの頭の中は・・・もう、みんなが集まってるだろう、卒業パーティ会場へ。
「あ・・・・、」
「ん?」
そこに居る人達は、みんな・・・
「ぁの、っ、ごめんなさい、神崎さんも、ひ、メ・・・・」
「ん?」
「神崎さんも大野くんも、あたしのせいで、着替えないまま、」
頭の中の、3年8組の人達は、制服じゃなく自分の服を着てた。だけど、あたしに付き合ってくれた2人は、せっかくのパーティなのに制服を着たままになる。
「ゴメンナサイ、」
せめてもと、羽織ってるパーカーを脱いで姫に渡した。
「んん?なに・・・、?」
「制服より、こっちのほうが・・・、ごめんなさい、着替える時間、なくしちゃってみんな着替えてるのに、」
「……、ぅう、んん、制服、だから、」
「ん・・・?」
「パーティ、でしょ、?みんな制服だから、」
「そー、なんですか、?」
「うん。最後だから・・・みんな制服のままって決まってんの」
だけど、何故か姫は羽織ってる学ランを脱いで、パーカーを受け取った。その学ランは、あたしに掛けられる。
「え、?」
「そっちのがぬくいから、」
「でも、」
「いーの。聞かれたら・・・・依織ちゃんが着て帰った、って言いてぇから、」
「、、」
「ちゅーか、一緒に来る?」
「ぃ・・・・。」
「…」
「ぃけません・・・っ」
“きゅんきゅん”や“嬉しい”は、いくらでもあたしに体当たりする勢いでぶつかって来るけど、姫はさっきまでと違っていつも通りの姫に見える。だけど・・・そんな余裕も、子供なあたしには姫が凄く大人に見えてドキドキする。
「なぁ。俺もそろそろ帰っていーか?」
「「!?」」
何か言いたげな姫の顔を見てたら突然、下のほうから聞こえた声。あたしと姫の立ってる位置の、少し横。川へ降りる階段に座った河野さんが、地面から顔だけ出てるみたいな、気持ち悪い事になってた。
「リン、ダ・・・、居たんだ、」
「……。」
「、ワスレテ……、マシタ・・・・、」
「……。」
あたしの日常の意識の中に居る姫や神崎さん。神崎さんは出発し、姫はここに。
河野さん。忘れてた。ごめんなさい。