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「伝わった?暁が依織ちゃん大好きなの、伝わった?」




泣きながら何度も頷いてたら、自転車のかごに入ってる姫のパーカーを掴んで、顔をぎゅーっと押された。




「私の話なんて、ほんの一部なんだろうけど、それでもね伝わってたら嬉しい。暁くん分かりにくいからさ」


「…、…・・・、」


「依織ちゃんはね、泣きすぎて酸欠か過呼吸かしんないけど、倒れてたよ?」


「!」


「え、?」


「ほらぁ。暁くんが卒業式なんて日に、他の女と帰っちゃうからぁ・・・。いや、好きすぎて?ううん、大好きなのにもう会えないから?もうなんせボロボロ。」


「ゃ、ぁ、、の、、」


「、大丈夫だよ、俺、依織ちゃん、すげぇスキだから・・・、」


「、、」


「、ヨシノギ、は、・・・ン…、…っと、・・・ぁー、・・・、頼まれ、・・・、てたから・・・、」




俯いて見えてる地面から、神崎さんの自転車が走り抜けた。夕闇と、気温の冷たさが・・・あたしと姫を包む。


春の・・・・そこまで来てる、夜の匂いの中で。




「俺が好きなのは、依織ちゃんだけだよ…」




あたしが恋した時間の・・・・あの、キンモクセイの、甘い匂いが・・・


春の匂いに、変わる。




「俺・・・・いっつも、好きだったんだ、」




姫の・・・優しい、甘い匂いの中で。「いつも好きだった」と響く声は、低く・・・甘く、あたしの耳に届く。


見上げたら・・・、神崎さんが乗せたのか、姫の肩からパーカーが落ちた。




「んふふ・・・……・・・・拾う・・・?繋いだまま?」




繋がった手は、もうずっと繋いだまま。お話の中なら、映画の出来事なら・・・この繋がった手のまま、ハッピーエンドで終わる。


だけど現実は、このままじゃ居られない。落ちたパーカーは持って帰らなきゃいけないし、姫だってもうそろそろ会場にそろそろ行かなきゃいけない。




「連絡・・・しても、いいですか、」


「してくんなきゃ困る。」


「うん・・・。」




繋がった。


卒業しても、姫に・・・また、ちゃんと会える。だから・・・、繋いだ手を放して、落ちたパーカーを拾ろおうとした。




「依織ちゃん。」


「、」




放しかけたら、ぎゅっと、握りなおされた手。




「にこ・・・、して、」


「ん、?」


「俺にも、にこ・・・・って、して、?」


「…、」




さっきは笑ったのに・・・・、悲しそうな目に見えるのは・・・、気のせい・・・?辺りは、どんどん暗くなって来てて見えにくいけど、姫の瞳が潤んでるように見える。




「に、こ、・・・?」


「俺には・・・、してくんなかった・・・の、」


「え、……?」


「……、みんなには、・・・してたけど、・・・俺、は……、俺には・・・、してくんなかった、」




なんでだろう・・・・分からないけど、涙が零れた・・・。


あんなにも・・・・、あんなにも、姫を好きだって思ってたのに。こんなにも泣いて、恋しいって思った人なんて居なかったのに。そんな風に思ってたなんて・・・、そんな風に、悲しんでたなんて……・・・




「い、ゃ・・・・、だよね、・・・、、ゴメン……、」




違うの・・・、多分上手く笑えなかったんだと思うの……・・・自分で、そんな意識はなかったけど・・・大野くんの前では笑えてなかったのかもしれない、あたし、好きだから・・・凄く好きで・・・、ちゃんと・・・・


繋いでた手を放し、姫がパーカーを拾った。




「……、泣かないでよ・・・・、」




笑えてなかった上に、ちょっとの事で泣いて・・・・あたしは、いつになったら成長できるんだろう。


「好きだから、笑えなかった」そう言ったら、姫は笑ってくれる・・・?言い訳に、なる・・・?




「・・・・今度……・・・、笑って・・・」




泣きながら見つめた姫は、優しい顔で笑ってた。拾ったパーカーは、あたしに掛けられて姫の両手はあたしの両頬を包む。卒業式の後、泣いて・・・・頭を撫でてくれた手が今は頬に。


親指が、滑るように、何度も、涙を拭ってくれる。




「ゴメ、ン…、ナサ、イ、」


「なんでだよ・・・・、」




謝ったあたしを、可笑しそうに笑ってくれる。あたしは・・・・、あたしの為に、今までいっぱい泣いた。だから・・・明日からは、この人の為に・・・いっぱい笑いたい。


“好き”って、伝わるように。“明るい、未来”の為に。




「…、ちゃんと、笑える、よう、に、・・・、なります、」


「んふ・・・。使命じゃねぇし」


「ウン、……、」


「依織ちゃん、いっつも……みんなに、にこにこしてしてたから・・・、いいなぁ、って・・・思っただけ、」


「、…、、…、」




ごめんなさい・・・、こんなあたしで、こんなあたしなのに、好きになってくれて、




「いーんだ、もう・・・笑わなくても、俺のだから・・・・。」




姫が、笑う。綺麗な唇を、自慢げに尖らせて・・・・嬉しそうに。




「、、…、…、ッ、、」


「今日・・・・。泣きすぎだよ・・・」


「……、ん、、・・・、」




笑ってみたけど、やっぱり・・・ちゃんとは、笑えなかったと思う。だって、姫の・・・・大野くんの、前だから……