。.*三日月姫*.。
- 。.*言葉*.。
。.*197*.。
。.*197*.。
「伝わった?暁が依織ちゃん大好きなの、伝わった?」
泣きながら何度も頷いてたら、自転車のかごに入ってる姫のパーカーを掴んで、顔をぎゅーっと押された。
「私の話なんて、ほんの一部なんだろうけど、それでもね伝わってたら嬉しい。暁くん分かりにくいからさ」
「…、…・・・、」
「依織ちゃんはね、泣きすぎて酸欠か過呼吸かしんないけど、倒れてたよ?」
「!」
「え、?」
「ほらぁ。暁くんが卒業式なんて日に、他の女と帰っちゃうからぁ・・・。いや、好きすぎて?ううん、大好きなのにもう会えないから?もうなんせボロボロ。」
「ゃ、ぁ、、の、、」
「、大丈夫だよ、俺、依織ちゃん、すげぇスキだから・・・、」
「、、」
「、ヨシノギ、は、・・・ン…、…っと、・・・ぁー、・・・、頼まれ、・・・、てたから・・・、」
俯いて見えてる地面から、神崎さんの自転車が走り抜けた。夕闇と、気温の冷たさが・・・あたしと姫を包む。
春の・・・・そこまで来てる、夜の匂いの中で。
「俺が好きなのは、依織ちゃんだけだよ…」
あたしが恋した時間の・・・・あの、キンモクセイの、甘い匂いが・・・
春の匂いに、変わる。
「俺・・・・いっつも、好きだったんだ、」
姫の・・・優しい、甘い匂いの中で。「いつも好きだった」と響く声は、低く・・・甘く、あたしの耳に届く。
見上げたら・・・、神崎さんが乗せたのか、姫の肩からパーカーが落ちた。
「んふふ・・・……・・・・拾う・・・?繋いだまま?」
繋がった手は、もうずっと繋いだまま。お話の中なら、映画の出来事なら・・・この繋がった手のまま、ハッピーエンドで終わる。
だけど現実は、このままじゃ居られない。落ちたパーカーは持って帰らなきゃいけないし、姫だってもうそろそろ会場にそろそろ行かなきゃいけない。
「連絡・・・しても、いいですか、」
「してくんなきゃ困る。」
「うん・・・。」
繋がった。
卒業しても、姫に・・・また、ちゃんと会える。だから・・・、繋いだ手を放して、落ちたパーカーを拾ろおうとした。
「依織ちゃん。」
「、」
放しかけたら、ぎゅっと、握りなおされた手。
「にこ・・・、して、」
「ん、?」
「俺にも、にこ・・・・って、して、?」
「…、」
さっきは笑ったのに・・・・、悲しそうな目に見えるのは・・・、気のせい・・・?辺りは、どんどん暗くなって来てて見えにくいけど、姫の瞳が潤んでるように見える。
「に、こ、・・・?」
「俺には・・・、してくんなかった・・・の、」
「え、……?」
「……、みんなには、・・・してたけど、・・・俺、は……、俺には・・・、してくんなかった、」
なんでだろう・・・・分からないけど、涙が零れた・・・。
あんなにも・・・・、あんなにも、姫を好きだって思ってたのに。こんなにも泣いて、恋しいって思った人なんて居なかったのに。そんな風に思ってたなんて・・・、そんな風に、悲しんでたなんて……・・・
「い、ゃ・・・・、だよね、・・・、、ゴメン……、」
違うの・・・、多分上手く笑えなかったんだと思うの……・・・自分で、そんな意識はなかったけど・・・大野くんの前では笑えてなかったのかもしれない、あたし、好きだから・・・凄く好きで・・・、ちゃんと・・・・
繋いでた手を放し、姫がパーカーを拾った。
「……、泣かないでよ・・・・、」
笑えてなかった上に、ちょっとの事で泣いて・・・・あたしは、いつになったら成長できるんだろう。
「好きだから、笑えなかった」そう言ったら、姫は笑ってくれる・・・?言い訳に、なる・・・?
「・・・・今度……・・・、笑って・・・」
泣きながら見つめた姫は、優しい顔で笑ってた。拾ったパーカーは、あたしに掛けられて姫の両手はあたしの両頬を包む。卒業式の後、泣いて・・・・頭を撫でてくれた手が今は頬に。
親指が、滑るように、何度も、涙を拭ってくれる。
「ゴメ、ン…、ナサ、イ、」
「なんでだよ・・・・、」
謝ったあたしを、可笑しそうに笑ってくれる。あたしは・・・・、あたしの為に、今までいっぱい泣いた。だから・・・明日からは、この人の為に・・・いっぱい笑いたい。
“好き”って、伝わるように。“明るい、未来”の為に。
「…、ちゃんと、笑える、よう、に、・・・、なります、」
「んふ・・・。使命じゃねぇし」
「ウン、……、」
「依織ちゃん、いっつも……みんなに、にこにこしてしてたから・・・、いいなぁ、って・・・思っただけ、」
「、…、、…、」
ごめんなさい・・・、こんなあたしで、こんなあたしなのに、好きになってくれて、
「いーんだ、もう・・・笑わなくても、俺のだから・・・・。」
姫が、笑う。綺麗な唇を、自慢げに尖らせて・・・・嬉しそうに。
「、、…、…、ッ、、」
「今日・・・・。泣きすぎだよ・・・」
「……、ん、、・・・、」
笑ってみたけど、やっぱり・・・ちゃんとは、笑えなかったと思う。だって、姫の・・・・大野くんの、前だから……