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「頑張ったら・・・」



自転車をクルっと方向転換させてた神崎さんの動きが姫の言葉で・・・止まる。神崎さんのくせに、恐る恐る姫のほうを見た。




「手に・・・入る?」


「、」


「、」




この時、急激な不安に襲われた。「頑張ったら手に入るか」って問いかけは・・・、あたしにじゃなく、神崎さんを見つめて言ったから。


だって、「頑張ったら」って・・・、だって、姫はあたしの「好き」は、もう知ってる・・・、




「必ず手に入るんじゃなくて、頑張らなきゃ手に入らないって、言ってんの。」


「……。」


「、」




それでも神崎さんを見つめる姫。




「暁は・・・頑張った、?」


「……」


「……、」




姫が・・・・神崎さんを見つめる。


お願い・・・・、お願いだから、あたしを……、見て・・・




「好き・・・は、ずっと前だけど・・・、伝えた」




心臓が・・・握り潰されるみたいに、痛い。苦しくてぎゅっと、瞼を瞑った。このまま。また、あたしの恋は終わるんだって・・・・


神崎さんに、姫への想いはなくても・・・姫はあたしの両手を握ったまま・・・神崎さんに好きを伝えるのかなって、




「ずっと前じゃなく、今。今伝えなきゃ、」


「今・・・は、さっき言ったけど、」


「んん・・・?言った・・・の?」


「だけど、頑張るとは・・・違う……。」


「ん??え?」


「俺、どしたらい?どしたら頑張るに…なる?」




誰も。何も喋らないから、顔を上げた。そしたら、姫は・・・神崎さんじゃなくて、あたしを見てた。


前は・・・、あたしの知ってる前なのか、それよりも前の話なのか分からないけど、姫は、神崎さんを好きだった。


“今”は・・・あたしになっただけ。




「大野くん……、」


「うん」


「あたし・・・、大丈夫です、」




笑ってさよならを。今なら、神崎さんのように出来る気がした。




「大野くんは・・・、頑張って下さい……・・・」




手の力を・・・ゆっくり抜いて、姫の手に包まれる感覚を、覚えておこうと思った。




「待っ、え…、だめ!なんで放すの!俺頑張るっつってんじゃん、」


「、」


「何…、ちょっと、あんたらどうなってんの、」




絡んだ指を外した途端、離れないように、またぎゅっと包むように握られた両手。




「嫌。だめ。いやだ。依織ちゃん俺の事好きっつったじゃんか、なんで、」


「大野くんは・・・、神崎さんが、好きだっ、」


「「はぁっ!!?」」


「「好きじゃねぇよ!」」




2人が、声を揃えて叫ぶ。




「だって、」


「なんでそーなんの!」「依織どっからその妄想出てきた!」


「、」




違う、の……、?




「なんで俺がちあき好きになる話になんの!?」「なんねぇよ!友達だよ!友達は好きになんねぇよ!なんの誤解だ!」




2人がわーわー叫んでるから、内容がよく分からないけど、なんだか勘違いだって事は、分かる。




「ちあき好きになった覚えは1回も!無い!」「どんだけのマイナス思考だよ!依織の脳みそ!色!人と違うんじゃね!?」


「、」


「お前言いすぎ。」


「あぁん!?全っっ然!言いすぎじゃねぇし!好きー言われて手繋いで大野くんどうぞ。て!私が好きて!バカじゃないの!?依織バカじゃないの!?」


「バカはお前だろ!なんっで依織ちゃんと話してんのに入ってくんだ!ちあき絡むとぜってぇどんな簡単な話でも、話ややこしくなんだよ!」


「!!!」




神崎さんが、姫の頭を思いっきり叩いた。




「ってぇ、な!」


「どあほうが!依織ここまで連れて来てやったの誰だと思ってんの?!さっさと諦めやがって根性なし!好きなら好きって、あんたがとっとと言わないからややこしくなってんでしょーが!俺のせいじゃねぇよ!」


「……・・・・、」




姫が・・・急に黙り込んで・・・唇が、“むっ”、ってとんがった。




「ほぉら!当たってるから言い返せないし!」


「だって・・・。」


「なによ。」


「依織ちゃん……・・・俺なんかが好きつっても、迷惑だし、」




ぎゅ~~~って、ぎゅ~~~って・・・、嬉しい苦しいが来る・・・。ほんとに・・・、神崎さんじゃなくて、あたし……、?あたしで・・・いいの、?




「あんたら揃いも揃ってどんだけのマイナス思考だよ。そらーそんなもん、いっこも話も進まんわ。」


「進める気……、あった時は、あった・・・。言ったけど、依織ちゃん泣きそうな顔して俯いてたし・・・」




姫の・・・唇は、スネたようにとんがったまま。可愛い顔を、たまんない唇を・・・・、いつまでも見てたいけど・・・・あたしには、考えなくちゃいけない事がある。


さっきから、姫が言ってる「好きを伝えた」いつ・・・?知らないよ。