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「手作り葬」価格すっきり 情報集め、納得の式 130万人のピリオド(4)

 

2016/2/22

冠婚葬祭研究所のサイトで取り扱う商品は葬儀用品の卸会社から仕入れる(熊本市内の卸会社、マルケンウィング)

 ひつぎや骨つぼを個人で調達し、弔う人が増えている。「手作り葬」ともいえるそのノウハウはインターネット上にある。葬儀用品の通販サイトには、質素だが納得の価格で故人を送りたいと問い合わせが相次ぐ。既存の葬儀会社の間では、分かりにくかった価格の中身を透明にする動きがでてきた。

 2015年8月、熊本市内に住む会社員男性(55)は病死した父(88)の葬儀を自力で行った。葬儀用品の通販サイト「冠婚葬祭研究所

 ひつぎや骨つぼを個人で調達し、弔う人が増えている。「手作り葬」ともいえるそのノウハウはインターネット上にある。葬儀用品の通販サイトには、質素だが納得の価格で故人を送りたいと問い合わせが相次ぐ。既存の葬儀会社の間では、分かりにくかった価格の中身を透明にする動きがでてきた。

 2015年8月、熊本市内に住む会社員男性(55)は病死した父(88)の葬儀を自力で行った。葬儀用品の通販サイト「冠婚葬祭研究所」を通じて、ひつぎ、骨つぼ、骨つぼカバー、骨上げ用の箸を購入。木製、布張りといった商品写真を見比べて選んだ。

 サイトには「手作りのお葬式で気をつけたいこと」というコーナーがある。運営するモミジアンドカンパニー(熊本市)顧問の日高知宏さん(41)のアドバイスを受け、会社員男性は火葬場や亡きがらを運ぶ寝台車の手配、市や区役所への手続きまでこなした。葬儀費用は締めて7万円ほど。「お金をかけない葬儀ができた」と話す。

 天草で団体職員だった父は10年前、妻を亡くして一人になったのを機に、3男の男性を頼り熊本市内へ引っ越した。やがて認知症を患い有料老人ホームに入った。「何度も生死の境をさまよい、死の備えはできていた。天草には父を知る人はもういない。兄姉、親戚だけで心のこもった葬儀をしたいと思い、手作り葬を選んだ」という。

 男性は父の装束を整えながら「天草の言葉で、おおきんな(ありがとう)と呼びかけた。自分で葬儀をすることで、親子のきずなを確認できて良かった」と振り返る。

 死に備えて行動する「終活」が広まり、曖昧にしがちだった葬儀代について、意識を向ける人が増えた。スマートフォン(スマホ)で「低価格、葬儀」と検索すると、数多くのサイトが出る。モミジアンドカンパニーには高額支出の代名詞である葬儀費に疑問を持つ顧客が3000人ほどいる。「うちで提案している手作り葬に共感するのは首都圏の資産家、高額所得者が多い」(日高さん)

 資金をかけない、簡素な葬儀サービスはほかにもある。13年7月に設立したベンチャー企業、アメイジングライフ(東京都武蔵野市)はその一つだ。提携する葬儀社とのやりとりをネットに集約し、人件費と固定費を削る。費用の見積もりと申し込みはネットと電話で完結する。

 同社の火葬のみで見送る「直葬」は都内で22万8000円(税別)。一般の葬儀会社とさほど変わらない価格だが「通常は遺体の安置日数が延びたり、搬送車の走行距離が長くなったりすると追加料金がかかる。当社はとらない」と社長の篠原豊さん。クレジットカードでの支払いが可能だ。「交流サイトを駆使し、情報感度の高い団塊の世代が顧客層」という。

 もっともネットを駆使した手作り葬は一部の動き。東京都品川区に本社がある大成祭典社長の勝山宏則さんは「悲しむ遺族を心から支え、儀礼文化に熟知した社員がそろう」と葬儀会社の利点を話す。その上で、既存の葬儀社には不透明な料金や情報開示への不満をなくそうという試みが広がる。

 「(遺体安置の際の)ドライアイス代は私が新たに負担するのですか」「先ほどは無料ととられる言い回しでした。すいません。料金について何でも聞いてください」。2月中旬、千代田セレモニー(東京・荒川)の斎場で、終活についての座談会があった。参加者は次々と疑問点をぶつけ、担当者が一つ一つ答えていく。

 同社は首都圏にある多くの斎場で定期的に座談会を開く。総額請求が慣例で不透明だった葬儀用品の単価について聞くのも、この場ではタブーではない。ざっくばらんに話し合おうという趣旨だ。担当者は「規模の大小を問わず、納得のいく葬儀をするには、早いうちから家族と話し合ったり、調べたりして準備してほしい」と指摘する。

 会葬者がいる一般葬から、家族やごく親しい友人で通夜・葬儀をする家族葬、直葬、そして火葬に必要なものだけを個人で用意する手作り葬。葬儀は簡潔に、小さくなりつつある。死に直面した人も、死を仕事にする人も意識は変わる。

   ◇   

■小規模化…家族で簡単に 減りゆく会葬者の接待費

 葬儀の小規模化が進んでいる。冠婚葬祭互助会、くらしの友(東京・大田)が2015年7月に調査した「15年版・現代葬儀白書」によると、葬儀費用の総額は平均212万1000円と、10年の調査より12.4%減った。

 東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県に住む40~70代の中で、葬儀をした400人に聞いた。費用の内訳をみると、会葬者への接待費が28.0%減った。家族葬といった葬儀の小規模化が、費用の総額と会葬者数の減少につながっている。

 葬儀の費用の実感について、304人の回答者のうち「妥当」と答えた人が最多で全体の45.7%を占めた。だが「やや高い」(36.2%)、「非常に高い」(11.8%)と感じる人を合わせると48.0%となり、「妥当」をやや上回った。

(保田井建)

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