ネットのメディアに関わっていると「はてブ受けする記事書いてー」と言われることがあります。はて?
はてなブックマーク(以下はてブ)とは、2005年にデビューしたソーシャルブックマークサービス。自分のブックマークを公開したり、人のブックマークを見ることができるサービスです。記事の拡散に効果アリ! とのことで、TwitterやFacebookのシェアアイコンに加え「はてブ」のアイコンも設置しているブログやWEBメディアが多い。
そういえば意識して「はてブ」狙いの記事って作ったことなかった。なんかそういうのはあざとい気がしていて。でも、確かに「はてブ」のホットエントリー(ブックマーク数が多い=多くのはてブユーザーが評価しているエントリー)入りした記事は喜怒哀楽をくすぐるものが多い。
ふむ。「はてブ」向けにチューニングした記事を作るか(作れるか)どうかはさておき、「はてブ」のことを勉強するのは悪くないかも。いちライターとして大事でしょう。ということで株式会社はてな……ではなく、昔からはてなブックマークをディープに使ってきた方に、昭和の時代から続く東京・渋谷の名店でお好み焼きを焼きながら聞いてみることにしました。
よく知らないからこそレジェンドに聞いてみよう
インタビュー場所に選んだのは渋谷・道玄坂の途中、百軒店商店街にあるお好み・もんじゃ・鉄板焼き屋「渋谷 たるや」さん。
創業はなんと昭和6年!
和な空間のなかに、処狭しと貼られているジャズライブや古き渋谷のモノクロ写真がイカしてます。BGMもジャジーで、大人な雰囲気を醸しているいい店なんですよ。
ではご登場いただきます。おおつねまさふみさん。東京BBSやNIFTYといったパソコン通信を経て、1995年からはネットウォッチャーとして(も)知られる、まさに生きるレジェンド。2007年の時に以下のようなotsune伝説が(ネタとして)記されるほど、濃ゆい。
パソコンを起動した瞬間に100フィード読み終わってた
ライブドアリーダーのリロード中に5000エントリ読み終わってた
ライブドアがfastladderで海外進出したのは、id:otsuneがかけるサーバ負荷を分散させるため
FirefoxとSafariでそれぞれライブドアリーダーとfastladderを立ち上げていて、CPU負荷と描画負荷を分散させるために地球シミュレータを使っているらしい
寝ている間にもtwitter更新
ひと睨みしただけで30のブログにコメント
軽くdisっただけで300のブログが閉鎖
id:otsuneがブクマした記事はどんなつまらなくてもホッテントリ
あまりの速度でブクマするのではてなブックマークのサーバがダウンしたのは有名
今でもはてなブックマークとdel.icio.usのサーバリソースの4割はid:otsuneが使っている
無限図書館の司書長を勤めていたという噂も
はてなおやがはてなブックマークを作ったのはid:otsuneの牙指令
似たようなサービスが乱立したときは、数日前にid:otsuneの牙指令がtwitterで飛んでいたとき
グッとガッツポーズしただけで5つくらいウェブサービスが生まれた
id:otsuneのtumblrはすでに5億ページあるらしい
(引用 狐の王国)
「はてブ」でウケやすい記事って?
――で、さっそく「はてブ」のことをお聞きしたいのですが、どんな記事が人気となるのでしょうか?
おおつね:はてなブックマークで盛り上がるのは、だいたい異性関連、学校、年収ネタとか。それらの要素が2つ3つ組み合わさっていると炎上……いやちがう(笑)、はてブで盛り上がる確率が高まります。
――最近、飲食関係ではググっときたのってあります?
おおつね:食関係で盛り上がったのは……東京の外食はコスパが悪いとかそういうネタだったかな。こういうのはだいぶウケる。
お好み焼き(580円)に豚トッピング(50円)
おおつね:はてブで盛り上がりやすい記事を書くブロガーの特徴に、褒めて欲しいという気持ちと、その裏返しで「お前らは俺と比べてダメだ」というのがあるんですけど、このセットが鉄板ですね。東京の外食に何千円も出しているのは意味がわからない、ウチのほうならもっと安い。みたいな記事はそれこそ毎年恒例ぐらいに盛り上がります(笑)。
――承認欲求とディスり融合みたいな。
おおつね:ほんと定番なんですよ。
ただの当たり前すぎる正論はそのままスルーされる
――コストパフォーマンス絡みの内容が効くんですかね。
おおつね:すげー昔、某グルメ評論家の人が「うまいものは高い」と言ったわけなんですけど、これってでも全然ウケないんですよ。
――バズらないと。
おおつね:うん、広まらない。正当な、当たり前のことを言っているだけなので。東京で、相応のお金さえ出せば美味いモノが食えるのは事実。でも一方では高いじゃん? っていうのもあって、郊外とか田舎に住んでいる俺らのほうが幸せだよと思いたい。その感情の裏返しからきているですね、刺さる記事は。
別に1万円だろうが2万円だろうが、美味いモノが食えれば俺は気にしないから、という人にとっては何の訴求力も影響もない話なんですけど、俺らの漁港(笑)で揚がった伊勢エビに1万円も2万円も出してるなんてバカじゃねーの、と書きたいわけですよ。
――ぐ、具体的ですね。
おおつね:年収の高い人が伊勢エビに3万円払ってるとか本当は知ったこっちゃない。どうでもいい話なんですけど、地方の漁港近くに住んでいる自分は、いかに恵まれているかというのをみんなうらやましがってくれ! という論旨でいくと。ゆえにあくまで一例ですけど、東京での外食はお金ばかりかかって仕方がないという一方向の正論というか、煽りが入っている記事が「はてブ」のホットエントリーに入ったりしてますね。そういうのはマクドナルドのグラコロのように、まったく変わらず毎年好例のシーズンメニューがごとく出てきますね。
ネット上の口コミ拡散の起点にもなっている「はてブ」
――今まで一番印象に残っている食の記事ってなんですか?
おおつね:2005年に始まった「はてブ」は10年になるんですけど、スタート当初はちょうど低糖質ダイエットのブームとかぶっている気がするんですよ。これがネットで話題になっていたのが2004年から2005年くらいまでで、はてブみたいなサービスによってネットの口コミによるひろがりがあったのではと。
低糖質ダイエット自体はその昔からあったはずで、「はてブ」がメインで盛り上がったかというとちょっと疑問はあるけども、ブームの一端は担っていたかなと思うんです。
――情報が拡散されやすくなったというのもあるのでしょうか。ネットを使う人も増えて、層も広がって。
おおつね:中国産の段ボール餃子事件とかは完全にネットで盛り上がったものだし、まぁ「はてブ」がなかったらなかったで、ワイドショーとか週刊誌を軸として盛り上がったんでしょうけどね。でもあの事件が出たとき、「はてブ」があったからネットを中心に盛り上がったのでは。
ただ、盛り上がるのは「はてブ」に限らないんですけどね。ダイエットとか筋トレとかは、それこそカメラやクルマと同じく自慢ネタなので。
――ダイエットは女性の話題というイメージがあるんですけど、「はてブ」ユーザーは男性が多いイメージがありまして。
おおつね:そうですね。まあはてブを使っている女性が、女性であることをさほどアピールしていないというのもありますが。
とにかくホッとする味なのです
「ネット民の寿命は7年」説
――しかしもう10年ですか。「はてブ」というか、ネット全体で変わったという感覚はありますか?
おおつね:経年変化するんだな、というのはありますね。ネット上でブログを書いている人の、ブロガーとしての寿命はだいたい7年なんですよ。それ以上続くブログ、ブロガーは別の種族みたいなもの。一般的な寿命は長くて7年ですね。そこでモチベーションを消費しつくしてしまう、やりつくしてしまうと。そしていなくなる。それは、はてブのユーザーも同じだと感じます。
おおつね:「新入社員が退社しやすいのは3日後、3ヶ月後、3年後」みたいな言い方って、よくあるじゃないですか。そういうちょうど良い時期が7年なんでしょうね。大半はいなくなります。2ちゃんねるのような匿名掲示板で、特定の芸能人だったりに粘着している人も7年でいなくなっちゃうんですよ。まれに、100人に1人くらいの割合で7年以上やる人もいますけどね。
――続けられる人ってどういう方でしょう?
おおつね:そうですねー。はてブとかネットとか関係なく、ゲームや旅行とかの趣味に関しても、普通の人よりも長く続けられる傾向がある人ですね。例えば「まだ真空管のアンプ自作しているの!?」みたいな(笑)。いまは高音質なUSBのデジタルアンプが数千円で買える時代なのに、真空管の音が好みだからこだわりつづけている、続けられる人というか。
おおつね:あとは、はてブでブックマークした記事がホットエントリーに入ることに喜びを感じているとか。
おおつね:1ゲットに燃えている、他人のブックマークがまったくついていない記事を最初に見つけて自分でブックマークし、後からそのエントリーに数百ブックマークがついてホットエントリーに入ることに喜びを感じるユーザーもいるんですよ。ただ、その達成感に喜ぶ人の寿命はだいたい4年くらいかなー。
――4年!短くなってる!(笑)
おおつね:誰もしらない記事などを発掘する、ピックアップするセンスって、編集者的な努力とか調査といったスキルが必要です。でも毎日うまくいくわけじゃないから、失敗が続くと凹むんですね。仕事じゃないからお金がもらえるわけじゃないし。それで消耗しきっちゃうんですね。
趣味の報酬は達成感や承認欲求とかですけど、それを目標でやっていると、次第に自尊心貯金が減っていって、自尊心が赤字になったときに耐えられなくなってやめていっちゃうんですね。
「はてブ」ユーザーの大好物、それはコスパ
――「はてブ」ユーザーの傾向ってありますか?
おおつね:うーん。「はてブ」ユーザーってみんなが想像しているよりも多いんですよ。層が広いというか。まぁ各ブログサービスによって特定のイメージってありますよね。アメブロ書いている人は改行が多いとか(笑)、芸能人が好きとかフワっとしている、ライブドアブログのユーザー層は年齢層が高めでとか、いろいろイメージはあると思うけど。
――わかるわかる!
おおつね:人間褒められるよりも、悪口を言われるほうが敏感です。進化論的なところで、自分に好意をもってくれる人には鈍感というか死なない相手だから大丈夫だけど、自分に悪意を持っている人を一人でも見逃すと命の危険にさらされるから。動物として敏感にできているんですね。だから100個はてブがついているとして、そのうちの2つくらい「こいつバカじゃね」というのがあったら、傷つくようにできているんですよ人間って。そういうのが、はてブは〇〇だ、という印象に繋がりやすいんですよ。
この20年くらいのネットの普及によって名前も知らない、住んでいる場所も知らない相手からの「こいつバカじゃねーの」という悪口をキャッチすることができちゃうようになってしまいました。ネットを使わなければ、リアルに繋がっている人とだけ付き合っていたら、そんなに悪口を言われることはない。だけど、現在は間接的に人と繋がることが増えたのにも関わらず、人間の繊細さは変わっていない。
定番のもんじゃ焼き(580円)に、もち、明太子、ベビースター、チーズをトッピング(各50円)。安くてうまい!
――たいていの共同体では、悪口を言うほうもリスクを負います。
おおつね:荒らしは別にして、すべてのサービスがFacebookのような本名登録制になろうが、自分に対する悪口や悪意に対するセンシティブさは変わらないでしょうね。「本名登録制にすれば済むはずだ」と学者さんとか著名な人が言っていましたが、完全にうまくいってないですよね。ネットで生じる弊害は解消されていないわけです。もし2ちゃんねるのようなサービスが本名登録制になっても、本名を明らかにした上で悪口を書く人が出てくると思いますよ。
おおつね:さっきの話にもどりますが、東京で高い金を出して魚介類を食べるのはバカじゃね、という記事の本音は、みんな田舎に住んでいる僕のことをすこしは慰めてくれよというのがあるんだけど、その本音と建て前がその人の中でも乖離するんですね。「東京はコスパが悪いんだ!」というのをガンとして譲らない。
――それが、その人の立ち位置になると。
おおつね:コスパって便利な言葉なんですよ。例えば東京から大阪まで飛行機で移動しましたという話をしたとき、LCCを使って成田から関空まで行ったというと「羽田便を使えば時間が節約できるのに」とディスることができる。逆に羽田発のJALやANAを使ってという話をすると「正規料金で乗るとは、何てコスパの悪いことをするんだ」とディスれる。お金を使ってもバカにできるし、節約をしてもバカにできる。どっちにしてもケチのつけようがあるんですよ。何かしら贅沢なことをしたら「コスパが悪い」と言えばいい(笑)。
ただし例外もあります「昔からポルシェが好きで、ついに買いました!」という記事には、どれだけスポーツカーのコスパが悪いかでつっこめるけど、今は車を所持することそのものがコスパが悪いという風潮があるのでそれはそれでスルーされがちなんですね。だから……やはり学歴年収勉強ネタですかね、はてブ向きでいうなら(笑)。
牛すじねぎ焼き(800円)。こういう濃い話するときゃやっぱ肉に限る
――モテもあるとか?
おおつね:ああ、恋愛、結婚、出産ですね。「子供がコスパ悪い」はいまちょうど流行ってます(笑)。恋愛コスパ悪い、結婚コスパ悪いも(笑)。
――人生そのものがコスパ悪いと(笑)
おおつね:非モテで一生パートナーを作らず、一人で趣味に没頭するのがいい、と。
きのこ盛り(1,600円)。バターとの相性がまた絶妙で
はてブで次にウケそうな記事テーマは……親!?
――「はてブ」で次にくるのは何だと思いますか?
おおつね:家族からきて、親かなぁ。「自分はそこそこ人間としてわがままな点はあるけど控えめなところもあって、突出した能力はないけどバカというわけでもなくて、でもいま私がそんなに幸せじゃない……というのは、親に抑圧されて育てられたからだ」みたいなブログがあるとするじゃないですか。これは万能ですよ。「わかるわかる!」という人が多い。
ただストレートに書くと効果が薄いので、ちょっとドラマティックにひねるんですよ。あまり景気の良くない過疎の町に住んでいるとか、親が高卒だけど勉強熱心だったとか、母親が娘のことを大切に思っているからあなたの人生に干渉するんですよみたいなことを書き出すと、バンドワゴン効果が作用しますね。
――ところで釣りの技術は昔より向上しているんですか?
おおつね:釣りのエントリーのことですよね。とりあえず目の引くタイトルつけて読ませる、という。10年前と比べたら確かに複雑化していて、文化として成熟してきていると思いますよ。10年前は「6大学以外の大学は意味ないよ」ぐらいのことでばくばく釣れていたのが、今じゃ30~40くらいのブックマークしか集められないみたいな。「またこういうヤツかー」とバレちゃうんですね。
「はてブ」より前のことを考えるといくつかターニングポイントがあって、’97年くらいのホームページブームの時もコスパネタとかで炎上はありました。それこそ1つのネタで3週間から1ヶ月くらいは盛り上がっていたんですよ。当時は意見交換の場が1行チャットみたいなもので、しかもみんな夜しかネットをやっていなかったのでウォッチの展開もスロー。今にたとえるなら、Twitterのリプライが1日単位といえばわかりやすいかな。
――当時、まとめみたいのはなかったんですか?
おおつね:源流を探すと、NIFTYのフォーラム……いやあれはご先祖かな。あめぞうの頃から「過去ログはどうなっているの?」というのがあったので、その頃でしょうか。ICQが出るまでは消化速度がゆっくりしていましたが。
しかし現在は、いろんなブロガーたちの書き込みをみていると、釣り技術の進化の度合いが10年前と比べたらケタ違いに速い。「前のはウケなかったから、他の手法でやってるんだな」とか、レスポンスが速い。周囲の反応を見ながら修正して、あっというまに進化しています。
牛すじ煮(750円)。意外にあっさり味で一番の人気メニューだとか
――飲食の自慢ネタで、最近「はてブ」ウケしたものってありますか?
おおつね:ローストホースがいい例ですね。
――makuakeでクラウドファンディングしたお店ですね。
おおつね:場所も秘密、会員じゃないと予約できない。行ってみると美味しい馬肉が適正価格で食べられる。すべての要素がネットの自慢文化と合致したんですよ。「ローストホースでいい馬肉食っているぜー」という写真アップして、周囲からうまそう、うまそうとコメントが寄せられて。「お前ら、ここは出資していないと予約できないからな」と言えて。俺も食いたい、ずるいという心理をつきましたね。ネット上では伝説級のBUZZになりましたね、あれは。
――貴重なお話、ありがとうございました!
期せずして、ネットユーザー全体の歴史を教えてもらった気がする……。取材が終わっても、あれこれ聞いてみたのですが、それはまた別の機会で
お店情報
渋谷 たるや
住所:東京都渋谷区道玄坂2-20-6
電話番号:03-3461-3325
営業時間:18:00~24:00
定休日:不定休、基本的には日曜日(月2回)
ウェブサイト:http://www.hotpepper.jp/strJ000140841/
書いた人:
武者良太
昼はモノ系のレビューやニュース記事作成、夜はディープな居酒屋巡りを嗜む、1971年式フリーライター。CHEAP BUT FUNなオッさん旅を楽しむオジ旅チームメンバーでもある。
- Twitter:@mmmryo