人工知能(AI)はすべて同じに作られているわけではない。3月9日から始まった韓国での囲碁戦に挑戦したAIは、今日のオンライン推奨エンジンや顧客サポートシステムに使われている月並みなAIよりも興味深いタイプのものだ。このAIが喧伝(けんでん)されている期待に沿えれば、実世界でのAIの使われ方に大変革を起こすかもしれない。
■現実社会での利用促進にはつながらず
米グーグルの子会社ディープマインドは今月10日に囲碁の世界王者である韓国の李世●(石の下に乙、イ・セドル)棋士との第1局に続き、第2局も制し、5局勝負の対戦での勝利に大きく近づいた。ディープマインドのプログラム「アルファ碁」はすでにAIの世界では注目されてきたが、今、コンピューターが画期的な勝利を収めようとしている。
人間と機械を戦わせる宣伝行為は今に始まったことではない。米IBMが19年前にその手本を示した。同社のスーパーコンピューター「ディープブルー」がチェスの世界王者ガルリ・カスパロフ氏を破ったのだ。当時は人間の知能の砦(とりで)がコンピューター科学の手に落ちたように思えた。だがディープブルーは、知能の基盤と考えられているアルゴリズムによる勝利というより、むしろ強力なハードウエアの勝利だった。
コンピューターのチェスプログラムは、何年も厳密な演算を用い、先々可能な手をすべて予期し、実行可能な最善の一手を計算することで進歩してきた。半導体の処理能力が18カ月ごとに倍増するとした「ムーアの法則」の進展がコンピューターの性能を飛躍的に高めた結果、ディープブルーが最後に人間の対戦相手を倒すのはほぼ必然と言え、勝利は時間の問題だった。
以来20年、ディープブルーの勝利は広く知られたものの、AIの現実社会での利用促進にはほとんどつながらなかった。ディープブルーは狭いチェス盤上では奇跡を起こせたが、実世界の乱雑で「構造化されていない」性質の現象には通用しなかった。
IBMは2011年に全く異なる活動を始めた。創業者の名を冠したコンピューター「ワトソン」が米国のテレビクイズ番組「ジョパディ」で、人間の歴代優勝者を相手に戦った。IBMはこのとき、難解なことで有名な「自然言語処理」――しゃれや言葉遊びにくるまれて不明瞭なときでさえ、言葉の意味を理解すること――の課題を解決することを目標に定めていた。