共通するパターンが見つからない
分析の対象として、特に重視したのは「チームワーク」であったという。
ビジネスがグローバル化し、複雑化の度合いを深めている今日、多くの業務は単独の従業員ではこなしきれない。どうしてもチームによる共同作業が多くなるからだ。
このためプロジェクト・アリストテレスでは、社内の様々なチームを観察し、上手く行っているところと、そうでないところの違いを明らかにしようとした。
たとえば「同じチームに所属する社員(チームメイト)は、社外でも親しく付き合っているか」「彼らはどれくらいの頻度で一緒に食事をしているか」「彼らの学歴に共通性はあるか」「外向的な社員を集めてチームにするのがいいのか、それとも内向的な社員同士の方がいいのか」「彼らは同じ趣味を持っているか」など、多岐に渡る観察を行った。
人員分析部では、これらの観察結果を図式化して、そこから業務目標を上回るチームに共通するパターンを見出そうとした。しかしパターン抽出が得意なはずのグーグルなのに、自らの社員の労働分析からは、目立ったパターンを見出すことができなかったという。
たとえば同じく生産性の高いチームなのに、片方は「社外でも仲良く付き合う友達同士」のような関係であり、もう片方は「まともに会話するのは会議室の中だけで、そこを出ればアカの他人」というような関係であった。
また、あるチームでは、強いリーダーのもとに階層的な人間関係を築いていたのに対し、別のチームではもっとフラットな人間関係を敷いていた。それでも両者の生産性に、ほとんど違いは見られなかったという。
正反対のやり方でも上手くいく
結局、上のような「チーム編成の在り方」と「労働生産性」の間には、ほとんど相関性がないのではないか――そう考えたグーグルの人員分析部は、今度はチームのメンバーが従っている「規範(norm)」にこそ生産性のポイントがあるのではないかと考え、そこを洗い出すことにした。
ここで規範とは、チーム内で共有する「暗黙のルール」や「行動規準」、あるいは「チーム・カルチャー」のようなものを指す。
しかし、この点でも目立ったパターンは抽出されなかった。
たとえば、あるチームでは、会議中にリーダーがチームメイト全員に等しく発言する時間を与え、それを別のチームメイトが途中で遮ることを許さなかったのに対し、別のチームでは互いに発言の途中で割って入るのが常態化していた。
また、あるチームでは仕事時間中に雑談したり、他人の噂話をしたり、週末のプランを話すなど私的なコミュニケーションが交わされていたが、別のチームでは「オフィス内では仕事に専念し、私語は厳禁」といった雰囲気が形成されていた。
このように数百に上るチームが各々従う規範を観察したが、そこから成功するチームに共通するパターンを見出すことはできなかった。それどころか、同じく生産性の高いチームなのに、全く正反対の規範に従っているケースも珍しくなかったという。