中国・上海株の暴落が加速していた昨年7月、習近平国家主席が手書きの文書で、株価維持を事実上命じていたことが分かった。異例の指令書で重大な危機感を示したにもかかわらず、国内外の投資家は総スカンで、株価対策も失敗に終わった。一方、人民元の国際通貨化も看板倒れで、当局は買い支えに必死という惨状だ。共産党一党独裁下の市場経済という大いなる矛盾が浮き彫りになっている。
習主席による異例の「株価維持指令」を報じたのは米経済メディアのブルームバーグ。
上海株総合指数がバブル的に暴騰した後、雪崩のような暴落が続いていた昨年7月、株価対策を話し合う会議で、習主席が「個人投資家の利益を確実に保護するように」という内容の指示を調査報告書に走り書きしたという。
「国のトップが株価に危機感を持つこと自体は悪いことではないが、習政権の場合は意味が違う」と語るのは、中国経済に詳しい評論家の上念司氏。
「リーマン・ショック以降、実体経済が悪いことを隠して無理やり相場を支えてきたが、いよいよ隠しきれなくなったことへの危機感という側面が強いのではないか」とみる。
習主席の指令を受けてか、中国当局は空売りの取り締まりや大株主の保有株売却禁止、国内メディアへの報道規制などの株価維持策を矢継ぎ早に打ち出した。そして証券会社などに株を買うよう要求、当局の資金によるとみられる買い支えも続けた。
これでいったん株価は下げ止まったものの、今年に入って再び暴落、株価を安定させるために導入した値幅制限制度「サーキットブレーカー」もかえって下げを加速させた。2月には市場混乱の責任を取る形で、証券当局のトップを事実上更迭してしまった。
習政権は反腐敗運動を大義名分に官僚や企業経営者らを次々摘発しており、同じ手法を市場経済にも持ち込んだ形だが、上念氏は「株価も関係者を取り締まれば維持できると誤解している節があるが、やればやるほど投資する人がいなくなるだけだ」と指摘する。