『限界集落温泉』
鈴木みそ氏の『限界集落温泉』(ギリギリおんせん)。
舞台は伊豆・下田、作者のふるさとです。
すでに廃業となった温泉宿に住む親子。
ここに入り込んだゲームクリエーター溝田が、同じく迷い込んできたネットアイドル「あゆ」を利用して、宿を再興させるお話です。
口八丁・手八丁の溝田、まずは「あゆ」のおっかけであるオタクを客として呼び込み、次には彼らの持つさまざまなスキルを使いながら、宿を盛り上げていくというもの。
主人公・溝田は、大変なアイデアマンであり実行力を持った人物ながら、実は仕事から逃げ出し放浪の身だった元ゲームクリエーター。
ネットアイドル「あゆ」は、自殺願望をもつ病んだ美少女。
モラトリアムな旅館の主人と、聡明な小学生の息子。
ここに、売れない漫画家やモデラー、ゲーム作曲家、そして、新興宗教信者である美少女などが、絡んでいきます。
一方、ヒール?として出てくるのは、川端康成にそっくりの保守派の温泉組合理事長に、頭のキレるその息子、後半ではスケベな市長。
そして、どっちつかずの良く分からない元暴走族ヘッドの役場の職員も登場します。
このように屈折した人たちやクセのある人たちが、ドタバタを繰り返しながら、宿の復興を果たしていく、いわば「オタクが過疎化の進む限界集落を立て直す」物語です。
作中、随所にサブカルチャーやSNSが用いられ、いわゆる地下アイドルの伝播と衰退なども描かれています。
このあたりの描写は、まさに作者・鈴木みそ氏の真骨頂だと思います。
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鈴木みそ氏の作品
氏の主戦場はいわゆるゲーム雑誌であり、大変失礼ではありますが、決してメジャーな漫画家とは呼べないと思います。
しかしながら、氏が手がけられた作品は実に奥深く、おもしろいのですね。
『銭』
こちらのエントリーでも紹介しましたが、
大人におすすめする漫画 私的にためになった・どっぷりはまった厳選20作品 - ちょっと自由に生きるコツ
身近にあるけれど、実情があまり知られていない業界の内幕を、お金という観点から紹介されています。
『おとなのしくみ』
ゲーム関係の裏話などが多々、えぐりとるように紹介されています。
子どもの読者も多かったと思うのですが・・・。
『オールナイトライブ』
こちらは、ゲーム業界の話もありますが、サブカルチャー系の裏話も含む、いろいろな話がごった煮状態で掲載されています。
- 外国人目線で描いた日本の風習
- チョコエッグのおまけなどのリアルなフィギアを作っている会社の現場
- 返品された本の行き先
- パチンコ店の話
などなど。
また、
- う○この話
- ムダ毛(デルタ地帯)の処理の仕方
- AV制作や風俗の裏側
など、下ネタ系も多々あります。
私が一番衝撃を受けたのは、奥さんの水中出産に立ち会う話でした。
リアル過ぎる内容であるのとともに、よくぞここまで身内話を書ききったな、との感想を持ちました。
『オールナイトライブ』、特にブログを書かれている方には一読の価値は十分あると思います。
『アジアを喰らう』
氏がご夫婦で、1年間アジアで遊んで暮らしたときのお話。
タイトルは、食べ物紀行のように読めますが、バックパッカー的な旅行記で、実際に長く逗留していないと書けない話が随所に出てきます。
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鈴木みそ氏の作品は、メインを外れた領域での裏話系が多いのですが、特筆すべきは、自身が突撃取材をし、実体験されたことを作品化されているという点だと思います。
生々しい内容を、小奇麗に取り繕うことなく、軽い絵柄でギャグぽく描いているのですね。
電子出版と売り上げ実数の公開
鈴木みそ氏のすごさは、その着目点とともに、行動力にもあると思います。
上述の『限界集落温泉』は、氏自らが電子出版された作品です。
プロの漫画家自らが、amazonで出版するという発想自体、いわば奇抜なものと思いますが、その背景には「出版不況」が大いに関係しているようです。
出版に際しての格闘は、ブログで掲載されています。
また、いろいろと風当たりもあったようで・・・。
ご自身のブログにも
教祖(鈴木みそ)
2013年2月 1日
とのコメントが書かれていました。
電子出版に関しては、下記の作品を出されています。
そして、『限界集落温泉』の実際の売り上げを、ブログで公表されているのですね!
ブログ掲載時点で、第一巻が10298冊、第二巻から第四巻までが9880冊。
売り上げ合計が283万円。
さらにさらに、電子書籍化された作品のトータルの売り上げも発表されました。
額にして1000万円突破しています。
クラウドファンディング・プロジェクト進行中
今、次なる実験的取り組みをなされています。
それは、
鈴木みそ新作マンガ『内定ゲーム』連載支援&めざせ単行本化プロジェクト!
1月から連載が始まった『内定ゲーム』という就活をテーマにした作品の連載と単行本化を支援するための資金集めです。
支援金額によって、得られるプレゼントが決まっていますが、これがまた、実にユニークなのです。
オリジナルTシャツからサイン入り生原稿、作者も参加する懇親会に似顔絵、極めつけは作品中に登場する権利!(すでに売り切れ・・・)など。
こういうことをやりきってしまう鈴木みそ氏、本当にスゴイの一言です。
まとめ
電子出版の話は随分前のことで、今更のネタではあるのですが・・・、先日、『内定ゲーム』の連載記念トークイベントの記事を見つけ、掘り返してみました。
鈴木みそ氏、作品はもちろんのこと、そのユニークな活動からも目が離せません。
それでは、また!
風当たりは強そうでも、進むしかないからねっ。
捨石ですよ(笑)
ドンキホーテだと思って風車つついたら、見てた人からおひねりがたくさんもらえたという感じですね。
みんなで風車つつきにくればいいですよ。
出版関係の人は直接だれも言ってこないので、風当たりはわからないんですけど。