つい先日、ある地下鉄の駅で「線線線、線を守ろう」というキャッチコピーを目にした。この「線」とは何を意味するのだろうか。駅のホームに設置された点字ブロックか、あるいは道路の車線か。このキャッチコピーは警察による安全意識向上キャンペーンの一環で、線が3回出てくるが、この三つは何なのか気になった。後から知ったが、三つの線とは車線など交通安全のためのさまざまな線、秩序維持のための線、配慮や譲り合いのための線だという。これらを守らないといけないことは誰でも知っているが、実際に守る人は少ない。このような基本秩序を守ることこそ、個人や家庭の安全を守り、市民社会の秩序を維持し、韓国経済発展にもプラスになるはずだ。
現在、韓国における自動車の登録台数は2000万台を上回る。警察庁によると、年間の自動車事故発生件数はおよそ22万件で、自動車保険で取り扱われた事故件数はおよそ400万件に上る。その結果、支払われた保険金は年間10兆ウォン(約9100億円)に達している。
韓国における自動車1万台当たりの交通事故死者数(2012年)は2.4人で、これを経済協力開発機構(OECD)加盟国と比較すると、米国1.3人、英国0.5人、ドイツ0.7人、日本は0.6人で、先進国とは非常に大きな開きがあり、またOECD加盟国平均の1.3人と比べても2倍近い差がある。韓国における年間の交通事故死者数は長い間5000人を上回ってきたが、2014年には4762人と初めて減少し、昨年は4621年と過去最低の数字を記録した。非常に喜ばしいことだ。もちろん交通事故死者数を減らすための努力は今後も続けていかねばならない。
交通事故は幸福な個人や家庭を一瞬にして破滅に追い込み、同時に巨額の社会的費用の負担を強いられる。この費用は年間約26兆5000億ウォン(約2兆4000億円)に達しており、これは国内総生産(GDP)の1.8%、国家予算のおよそ9.7%に相当し、国の競争力を大きく損なっている。国富の評価は以前のように目に見える経済活動の成果だけではなく、最近は社会的信頼度など、無形の資産を含めるケースも増えている。交通秩序はこのような無形資産の中でも基本中の基本といえるだろう。
韓国社会はこれまで誰もが無意識のうちに一定の線を越え、国民の生命と財産を大きなリスクにさらしてきた。時にはそれが大きな災害をもたらすケースも何度かあった。社会における安全と秩序を守るには、巨額の資金を投入して人を使い、機械や装備を設置するだけでは不十分で、何よりも国民の一人一人が社会の秩序や安全に対する意識を高めることが必要だ。つまりわれわれの心の中にある一定の線を守ること、これこそがこれら全ての問題を解決する第一歩になるのだ