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【社説】

3・11から5年 フクシマから日出ずる

 原発の代わりはそこにある。省エネは最強の再生可能エネルギー源−。そうと決めたら、この国は資源の宝庫。フクシマから始める風と光と大地の時代。

 福島県いわき市の「いわきおてんとSUN企業組合」が保有する「おてんと号」は、世界に一台しかない特別な自動車だ。

 元は広島の民放テレビの中継車。使用済みの廃食油を回収し、製油して、ディーゼル発電機を回せるよう、改造を施した。

 太陽光、風力、マイクロ水力といった各種発電システムや、蓄電池、直流を交流に変換するインバーターなども搭載された、まさに究極の電源車。

 目の前でつくりたての電気を使って料理をしたり、映像を見せたり、音楽を流したり…。コンサートの音響や夜間イベントのライトアップなどにも威力を発揮する。

 はんだごてを用いて太陽光パネルの手作りを試みるレトロな「おでかけ教室」は、子どもたちにも特に人気が高い。

 ボディーに描かれた笑顔満開の子どもたちのイラストは、遠くからでもよく目立つ。

 おてんと号を操って、県内や隣県を駆け回るのは、事務局長の島村守彦さん(58)である。

◆省エネから始めよう

 十年前に関西からいわきへ移り住み、オール電化住宅の普及をなりわいにした。

 阪神大震災を経験し、「電気は火よりも安全だ」と信じたからだった。

 広野町以北。後に避難区域や帰還困難区域と呼ばれたところが主な仕事場だった。

 「電気を使え、たくさん使え」と言い続けてきたような仕事にも、便利、快適、速さを過剰に追い求め、肥大しすぎたエネルギー社会にも、何となく息苦しさを感じ始めていたころに、今度は原発事故に出くわした。

 島村さんは、NPOの仲間たちと考えた。

 国や東京電力を責めるだけでは、本当の解決には至らない。ある意味、私たち自身が求め、許してきたことの結果じゃないか。

 原発はもうこりごりだ。だとすれば、代替手段を示さねば。地産地消の電気をつくること、それは、地域の未来をつくること−。

 「誰にでも電気はつくれます。こんなにたくさん種類もある」

 おてんと号が、一番伝えたいことだ。

 自分で電気をつくってみると、電気が見えるようになる。その大切さを実感できる。むだづかいはしたくない。

 自然エネルギーの教室は、省エネの学校でもあったのだ。

 ドイツは福島の事故を教訓に、二〇二二年までの原発全廃を決断した。

 そのためにも「まず省エネを進めよう」と考える。

 一昨年、発電に占める再生可能エネルギーの割合が26%を超えて、電源構成比のトップに初めて躍り出た。五〇年までに八割にするのが目標だ。

 それと同時に、エネルギー消費を〇八年の半分に減らすという。

 高緯度のドイツは寒い。家庭部門のエネルギー消費の大部分を暖房と給湯が占めている。

 福島の事故が、「パッシブハウス」の新築に拍車を掛けた。

 窓は三重ガラスにし、天井や壁に断熱材を分厚く仕込み、太陽の貴重な熱を外へ逃さず、燃料を節約しながら快適に暮らせるように工夫を凝らした“厚着の家”だ。

 省エネが脱原発の基礎にある。そしてその省エネの土台になるのが、お日さまの恵みなのである。

 フクシマは告げている。誰でも電気をつくっていいと。

◆日本をエネルギー大国に

 その気になって周りを見れば、お日さま、風、光、地熱に森林(バイオマス)…。日照時間は年平均ドイツの一・二倍。“日出(い)ずる国”は未利用資源の宝の山だ。厚着にせずとも、心地よいパッシブハウスを建てられる。

 原発はエネルギー大量消費時代の申し子だった。しかし、いつまでも続くものではないと、多くの人がうすうす感じてきたはずだ。

 あれから五年。エネルギーのつくり方、そして使い方ともに、大きく変えてもいいころだ。

<訂正> 2月26日社説「フクシマで考える(上)」の文中、モニタリングポストの停止理由が「線量が下がった」とあるのは「機器に問題が起きた」の誤りでした。

 

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