こんにちは、かんどーです。
※長文です。読むのに5分くらいかかります。エロネタ無し。
本音トークしていいですか? 最近退屈なんです。いえ、言い換えると幸せだってことなんです。若いころのわたしは、ジェットコースターみたいな人生だったから…。
今、本の原稿を書いていて、なにか参照できるような過去の出来事ないかなーって、思い出巡りしたりしてるんですよ。いじめられた現地訪問とか、呪われた物件訪問とか、自分的黒歴史ツアーですね。
それで、改めて思ったんだけど、自分、濃すぎた。
特に、呪われた物件に住んでいたときの自分の人生が濃すぎてもう、笑うしかなかった。いや、当時はそんなふうには思いもしなかったんだ。ただ転がるがままに生きていたから。それが転落なのか天国への階段をのぼっているのかもわからない。当事者ってこわいね。本人は自分の人生が驚愕のものだと気づいていないんだから。
わたしは24歳から27歳くらいまで、呪われた物件に住んでいた。確か3年くらい住んでいたはずなんだ。
どんな部屋かはこちらの記事を見てほしい。激安・駅徒歩1分の2DKアパート。2分で読める短い記事。
この部屋でわたしはクラブシンガーをしていた。ここに入居したのも、千葉の家からでは通いにくい六本木のライブバーまで通うためだった。そして、この部屋に入居してすぐにわたしは淫乱のケが出た。男がいれば見境なく色目を使うような女になっていった。キスの回数とセックスの回数はイコールだった。キスまでしたのにセックスしない理由がわからなかった。
クラブシンガーの仕事をしているときも、心の闇と向き合いながら歌うものだから、とにかく暗かった。ステージで明るくパフォーマンスすることが求められるお店は辞めて、場末のスナックみたいなお店で歌うようになっていった。衣装もカジュアルな若い女の子らしいものから、ホステスっぽいロングドレスに変わった。
クラブシンガーの仕事より水商売のケが強くなり、時給は少し上がった。しかし心の闇は深くなる一方で、病的にダイエットをして痩せようとしたり、飲酒量がどんどん増えたりした。
そんなわたしの救いが、インターネットだった。
正確に言うと「ケータイサイト」だった。当時のわたしはまだ、パソコンの接続とかできなかったから。だからケータイサイトで、水商売の人が書き込みをする掲示板を見てた。
その掲示板には定期的に目立つ人が現れた。ある者は知識をひけらかし、ある者は死ぬ死ぬと書き込みをする。そこに集まる人はみんな水商売や風俗だったから、少し文章を書けるだけですぐに「声の大きな人」になることができる場所だった。
わたしは当時、ほんの少し文章を書いていた。そして、掲示板を介して話す相手は大抵病んでいた。ダイエットのことを語り合ったり、アルコール依存症のことを語り合ったりした。ハンドルネームも持たず、「235です」みたいなレス番号で自分をあらわして、断続的な会話をした。
あるとき、家の無い人が書き込みをした。その人は1か月後に自殺すると予告をした。それまでよろしく、と始まったスレッド。
その日が来るまでの間、さまざまな人がスレ主を引き留めようと説得を試みた。最初のうちは、からかいや批判も混ざっていた。会話の内容は主に、死ぬ方法はどうするのかとか、彼の生い立ちを問うものだった。彼は一日に1回か2回だけスレにやってきて、いくつかの質問に答えてまたいなくなった。そんな日が1か月続いた。
いざ「その日」がやってくると、みんな完全にスレ主を止める方向で一致団結していた。
「お願いだから生きてください」
「あなたが死のうとする明日は、誰かが生きたくても生きられなかった明日だ」
「頼む…やめてくれ…」
もう、死ぬ方法も発表してしまい、完全に準備万端の彼は最後に、
「こんなにたくさんの人にあたたかい言葉をかけてもらえたのは初めてです。いい夢を見ながら眠りにつけそうです」
と書き込み、以降彼からの書き込みは途絶えた。
わたしは彼がまだ生きているときに、スレ主に宛てて携帯のメールアドレスをスレッドに公開した。いわゆる「捨てアド」ではなくて「本アド」だった。そんなことをしている人は他にいなかった。
スレ主は、死んだ。
スレ主からのレスがずっとなかったので、みんなそう思っていた。
…しかし、1か月ほど経ったある日、わたしの携帯に、スレ主…彼からの連絡がきた。
「死に損ねてしまいました。土壇場であなたの呼びかけが強かったのかもしれない」
という内容のメールだった。わたしは彼が生きていたことを喜び、スレッドに生存報告をしてほしいと頼んだ。彼は自分の言葉で、自分がまだ生きていることを書いた。しかし、死ぬと言っていた者が生きていたことにより、スレは若干熱が冷めてしまっていた。そのスレッドは以前ほど盛り上がることはなく、彼も何人かの信者にあいさつをして、スレッドは放置された。
しかし、わたしと彼のメールの応酬は続いた。
「主様はどのあたりに住んでいるんですか?」
「今身を寄せているのは〇〇県ですが、もう出ます」
「出てどこへ行くんですか?」
「仕事のあるところを探します」
「良かったら、わたしの部屋へ来ませんか?」
こんなやり取りで、わたしと彼は会うことになった。
まず、有名な公園で待ち合わせをした。待ち合わせに現れた彼は、正直「負のオーラ」をまとっているのが感じられた。なんというか、生きている力が弱い。この世に存在しないのかと思うくらい、なにもかもが彼を素通りするような存在の軽さを感じた。
そして、何をしても基本的にツイていない。歩いていて鳥のフンが頭に直撃したりしていた。本当に驚いた。食事の場所はわたしが決めた。さすがに食事所ではハプニングは起こらなかった…と言いたいのだが、彼のメニューだけ間違ったものが届いた。彼はいつものことのように、「これでかまいません」と言い、食べ始めた。
この不幸の重さはなんなんだろう。彼は前世でなにかしたのだろうか? しかしそれを聞くのもなんだかおかしい。
食事をして、わたしの部屋へ彼を案内した。呪われた部屋で彼はたいそう落ち着いているように見えた。
当時わたしの部屋には猫がいた。彼は猫をやさしくなでてくれた。そして、
「とても疲れているから、横にならせてほしい」
と言い、床に横になった。わたしはベッドに寝てほしいと何度も言い、ようやく彼がベッドに身を横たえると、わたしもとなりへもぐりこんだ。
この人を、癒したい。
とても強い想いがわたしを満たした。
彼はベッドの中で確実にわたしを見た。そして、とても怖いものを見るような顔をしていた。わたしは彼の手を握り、履いたままのデニムを撫で、彼の重く苦しい人生を支えてきた体の線を手のひらでなぞっていった。
ずっと彼の目をみていた。彼の目は怖いものを見る目のまま変わらなかった。いきおい、抱きついて彼を包んでみた。彼はホームレスのようなにおいがした。こんな男を部屋に入れるなんてどうかしていると思った。しかし当時のわたしは彼を癒したくてたまらなかったのだ。
夏だったので、彼は薄いTシャツとデニムだけを身にまとっていた。じっとりとかいた汗が乾いて、独特の異臭にまざりこんでいく。しかしわたしは、それさえ官能的に感じてしまっていた。わたしは頭がおかしいのかもしれない。
わたしは彼を、心ごと包むようにして、ベッドでただじっとしていた。彼が手を出してきたら何でも受け入れようと思っていた。彼の顔には、わたしの小さな胸の膨らみが当たっていたはずだ。自然な流れで胸に手を当て、やがて服の下から手を入れて…目があったらキスをして…わたしは頭の中でこれから起こるであろうことを順序立てて想像した。この男の不幸をすべてわたしの膣に埋めてしまえばいい。わたしが浄化する。わたしは彼の手が動くのを待った。
しかし、彼は何もしてこなかった。
いつのまにか二人とも眠ってしまい、朝になった。目を覚ますと彼がいない。猫はいつもと同じ場所で寝ていた。テーブルの上に、書置きがあった。
「こんなに親切にしていただいたのは初めてです。ありがとうございました」
それきり、彼は姿を見せなかった。服についた異臭だけが、彼の存在を証明した。
その後一度だけ、わたしの誕生日に彼からメールが来た。
「スレ主です。今、部屋にいますか?」
「はい、部屋にいます」
「玄関のドアを開けてください」
玄関を開けると、大きなフラワーアレンジメントが置いてあった。「さおりさん、お誕生日おめでとうございます」と書いてあった。
「今、どこですか? 会えませんか?」
「もう、離れたところにいます」
「元気ですか?」
「はい、大丈夫です。お元気で」
これで、この物語は終わった。
自分の人生にこんなことがあるとは予想していなかった。
このあと、この呪われた部屋でスズメバチが巣を作ったり、度重なる不幸があったり、バイクで事故にあったりした。
しかしわたしはまだ生きており、精神科へ通ったりしながらも、何とか身を立ててやろうと必死になっていた。このころ、クラブシンガーをやめて、光ファイバーの飛び込み営業の仕事に切り替えた。
その仕事でわたしは営業の世界にどっぷり浸かり、実際問題稼げたのだが、1年半で疲れ切ってしまった。猫がどんどん弱っていった。猫を実家に帰した。
そして、インターネットの仕事をするようになり、やっと仕組みがわかったわたしは、自宅にネットを引いた。パソコンを準備し、インターネットに接続したのだ。
そこでもわたしは、2ちゃんねるのスレッドで男と出会ってしまう。
その男と結婚直前まで行くのだが、その話は後編で書くことにする。
それじゃあ、また明日!
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