世界最悪レベルの事故から5年、福島第一原発では敷地内の放射線量は下がりつつあるものの、廃炉作業は試練が続く。今夜の時論公論は福島第一原発廃炉の課題について水野倫之解説委員。
5年が経ち、現場は事故直後の放射性物質や汚染水が垂れ流されていた火事場状態よりは落ち着いてきてはいる。
今回現地を取材、作業員の被ばく低減対策が進んでいることを実感。敷地内を初めて防護服なしで歩く。粉じんなどが舞い上がらないよう地面を舗装する対策で放射線量が下がってきたから。
しかしそれはあくまで建屋から離れたところ。
建屋に近づくと放射線量は急激に上がり1時間当たり200μSvを超える。
防護服にマスクは必須。
溶けた燃料はこの建屋内、格納容器内部に。
政府と東電がまとめた廃炉工程表では取り出し開始予定は2021年。
今は、どこにあるのか確認して取り出し方法を決める準備期間。
その準備作業も、予想外の事態が次々と発生。
東電は政府の協力も得て去年、1号機の格納容器内に初めてロボットを投入。
続いて2号機用にもロボットを開発。格納容器を貫通する配管から投入し、原子炉の真下に行き、サソリのように尾っぽをせり上げて炉内に燃料が残っているかどうか確認する計画で、夏の投入目指して作業員の操作訓練も。
そして投入を前に、貫通配管の前にあって作業の邪魔になるブロックを別のロボットで撤去しようとしたところ、なかなか壊せなかった。
東電が現場での作業経験者を探して確認すると、ブロックの裏側が鉄板で補強されていることが判明。結局方法をかえて撤去するまでに時間がかかり、現場の放射線量も作業ができないほど高いことがわかり、東電は今年1月になって投入延期を発表。調査は仕切り直し。
なぜこのようなことになるのか。
ブロックの場所や大きさは東電も建設当時の図面で確認、カメラでも把握。しかし鉄板での補強は原発完成後しばらくたって行われたようで図面には記されておらず、ブロックの裏まで撮影していなかったため把握できなかった。
福島第一原発は古いものは1960年代に建設され、図面が紙の場合が多く、その後の設備変更が書き加えられていないこともある。
事故が起こりうるということが念頭にあれば、こういう対応はあり得ないわけで、安全神話ということだと思う。
今後は格納容器周りについては図面に頼らず、現場の状況を事前にロボットで隅々まで確認した上で前に進む慎重さが必要。
このほか1号機の追加調査も格納容器内の状況から見直しを迫られており、今年中に溶けた燃料の姿を捉えるのは困難な状況。
政府と東電は2021年取り出し開始に向けて、来年中には取り出し方法について方針を決めるというが、状態確認さえできないのに、はたしてそれが可能なのか。
そして同じように根拠がはっきりしないのが、40年で廃炉を完了させるという計画。廃炉は建屋を解体後、放射性廃棄物も処分して初めて完了。敷地内には毎月数千トンずつ放射性廃棄物が溜まり続ける。
最も量が多いのが防護服です。コンテナ6万6000個分が積み上げられ、東電は焼却設備を建設、今月中には本格運転に入る計画。ただ燃やしても放射性の灰は残る。
タンクを建設するために伐採した木の幹。放射性物質が付着しているため外部に持ち出せずに仮置きされており、この日は火災に備えて消火訓練が。
枝や葉っぱは、白いシートの中で保管。醗酵してできるガスを抜くパイプを設置しているほか温度も常に監視し、80度以上になれば火災を防ぐため自動的に窒素ガスが封入される。
そして最も厄介なものの一つが、高濃度汚染水を処理した後のフィルター。62種類の放射性物質を吸着しているため濃度が極めて高く、放射線を遮るステンレス製の容器のまま敷地の一角にトレーラーで集められ、ラックに仮置き。
工程表ではこうした廃棄物の処分について来年、基本的な考えを出す方針が示されていますが、処分のための安全基準づくりもまだこれから。
あと5年で溶けた燃料の取り出しに着手し、35年で廃棄物も処分して廃炉を完了できるというのは根拠ある計画か。
東電は、見通しの甘い所がある。
汚染水処理が技術的に難しいにもかかわらず、安倍総理に短期間での処理を約束し、工程厳守のあまり、去年作業員の死亡事故が起きて作業全体が遅れることに。
そして先月も、事故から2か月間認めようとしなかった炉心溶融・メルトダウンについて、今になって判断基準を示したマニュアルが見つかり、事故から3日後には判断できたことを明らかに。
当時、放射線量などからみてもメルトダウンは明らかだったが、東電は過小評価したと言われても仕方がない「炉心損傷」と言い続けた。
早くからメルトダウンと発表していればより深刻さが伝わり、社内はもちろん関係機関の対応も変わっていたかも。
まずは厳しい現実を直視。そして「何とかします」と言うだけでなく、時間はかかっても安全第一に、着実に廃炉していけるよう計画達成にむけた詳しい道筋、そして根拠を示す必要。
難しい場合には速やかに実態にあった計画に見直す柔軟さが求められる。
(水野 倫之 解説委員)