休職中には多くの方が「うつになって、以前のように頭が働かなくなった。このまま仕事に戻れる自信がない」とおっしゃいます。
前回(http://www.asahi.com/articles/SDI201603020342.html)までに「身支度をしてスーパーへ外出すること」ができるようになった ミカさん(会社員・20歳代女性)もまさにそうでした。
昼夜逆転生活を送っていたミカさんでしたが、徐々に起きる時間を早めて昼の12時に起床し、カフェで1時間程度文章を読むことができるようになりました。
しかし、ミカさんはこう考えていました。
ミカ 「たしかに私は少しずつ生活リズムを取り戻して来た。でも、仕事をしていた頃はもっと朝から晩まで働いていた。まだまだ頑張りが足りない。1時間集中するのもやっとなのに。元通り復帰するなんて無理だ」
ミカさんのように、絶望的になる気持ちはよくわかります。
今のご時世、のんびりマイペースに仕事ができる職場なんてありません。例外なくどこも過重労働。うつを患っていなくても、目が回りそうなスピードです。
ただ、ミカさんのように、「前のように即座に回復しなくては」「それができなければ、仕事が全然できないのと同じ。絶望」という白か黒かの考え方をしてしまうと、もうそれ以上前に進めなくなってしまいます。たしかに回復の道のりは険しそうですが、まず今できるところからやっていきましょう。
回復途中の絶望感を取り払うために、こんな集中力トレーニングはいかがでしょうか。前回ご紹介した集中力トレーニングよりも目新しさがあり、飽きませんよ。
ご紹介するのは「n-back課題」と呼ばれる認知機能トレーニングです。これは、作業記憶とよばれる「頭の中に情報を保持しながら仕事をすることができる能力」や「集中力を持続する能力」を鍛えるもので、パソコンやスマホでアプリを使ってゲーム感覚で行っていきます。
内容は次のようなものです。
まず、画面にアルファベットのような記号が1つずつ、順に表示されます。今表示されているN個前の記号が、今の記号と同じかどうかを答えるというものです。
たとえば「4back」の課題で、以下のように記号が16個表示されたとします。
A → B → C → D → A → B → P → A → G
→ H → A → D → J → C → A → D
「4back」の場合、チェックするのは「その時表示されている記号」と「その4つ前」の記号です。
たとえば、5番目の「A」を見てください。その4つ前の記号は同じく「A」(1番目)です。だから、5番目の「A」が表示されたタイミングでは、ボタンを押すなど何らかの反応を返す必要があります。
一方、8番目の「A」の時は、4つ前は「D」ですから何も反応しないのが正解となるわけです。
つまり、常に画面に表示される記号を見ながら、同時にそのN個前の記号を覚えながら判断するという課題なのです。やってみるとけっこう難しいものです。
ちなみに、上の例ではボタンを押すタイミングは4回あります。みなさん、おわかりになりましたか?
この「n-back課題」ですが、ある研究によれば「1日あたり25分の訓練を19日間にわたって毎日受けた」ところ、正解数は40%以上向上し、平均14.7個にまで増加したそうです。そして、この課題とは全く別の課題であるIQテストの成績も上がったそうです。
IQはともかくとして、うつになるとどうしても落ちてしまいがちな「集中力」や「記憶力」を回復できるのはうれしいことです。日本の復職デイケアでも、この認知機能トレーニングを取り入れている施設もでてきました。
フリーのソフトウェアやアプリがありますので、今日から個人でもお試しいただけますよ。
(例)iPhone・iPad向けアプリはこちら → http://app.hasshokukou.com/nback/
ミカさんはこれまで、カフェで芸能人のブログやニュースを読んでいましたが、そろそろ張り合いがないなと感じているところでした。半信半疑でスマホに「n-back課題」のアプリをインストールしました。正解数が表示されるので、それを手帳に書き留めていきました。
日々少しずつですが成績が上がって行くのを数字で確かめることができると、復職への焦りが多少解消して行きました。
ミカ 「眠っていた脳が活動し始めたかんじ。あと、トレーニングしてる! っていう充実感もある」
ミカさんも手応えを感じているようです。このお話は次回も続きます。
<アピタル:上手に悩むとラクになる・ケーススタディー「ミカさん(会社員・20歳代女性)」>
1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部などを経て、現在は福岡県職員相談室に勤務。福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪加害者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。趣味はカフェ巡りと創作活動。
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