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司法、原発止める 県内首長ら「住民の不安を認めた」

2016年03月10日 09時49分

高浜原発3、4号機の運転を差し止める仮処分決定を、涙ぐみ喜ぶ住民側の関係者ら=9日午後、大津地裁前
高浜原発3、4号機の運転を差し止める仮処分決定を、涙ぐみ喜ぶ住民側の関係者ら=9日午後、大津地裁前

 再稼働したばかりの原発を司法が止めた。東京電力福島第1原発事故から5年。大津地裁は9日、関西電力高浜原発3、4号機の運転差し止めを命じた。原発と長年向き合ってきた住民側の弁護団長は「全国の裁判官に受け継いでほしい」。住民らも「福島から学んだ判断」と喝采したが、政府は再稼働の方針継続を強調した。

 稼働中の原発の差し止めを命じる司法判断に、拍手と歓声が湧き起こった。「歴史的」「福島から学んだ当然の判断」。関西電力高浜原発3、4号機の差し止めを申し立てた住民には、東京電力福島第1原発事故の被災者も。大津地裁の決定を踏まえ「政府が進める原発再稼働の歯止めになる」との声も上がった。

 「再稼働差し止めの画期的決定!」。冷たい雨が降る午後3時半すぎ、地裁から駆けだした弁護士らが旗を掲げると、住民や支援者は「やったぞ」「おめでとう」と次々と喜びを口にした。

 井戸謙一弁護団長(61)は地裁前で「裁判官に深く敬意を表したい」と評価。住民代表の滋賀県長浜市の辻義則さん(69)も「歴史的だ。裁判長の勇気に感謝したい」と涙を浮かべた。

 住民側はその後、大津市内で報告集会を開催。辻さんは「運転してはならないという一節を目にした時、鳥肌が立つような感動を覚えた」と顔をほころばせた。「速やかに原発ゼロを実現することは、市民の大多数の意思である」。辻さんが弁護団の声明を力強く読み上げると、会場は大きな拍手に包まれた。

 申立人の1人で大津市に住む青田勝彦さん(74)は事故直後の2011年5月、福島県南相馬市から家族3人で移住。「高浜の再稼働にはなぜ福島に学ばないのかと怒りが湧いた。天にも昇る気持ちだ」と語った。

■県内首長ら「裁判所の判断は疑問」「住民の不安を認めた」

 大津地裁が関西電力高浜原発3、4号機の運転を差し止める仮処分決定をしたことを受け、九州電力玄海原発を抱える佐賀県内の首長らは「司法が住民の不安を認めた結果」「裁判所の判断は疑問」とさまざまな受け止め方を見せた。九電に玄海原発の操業差し止めを求める訴訟を佐賀地裁に起こしている原告団は「二度と原発事故を起こさせないという司法の決意を示した」と評価した。

 山口祥義知事は「司法にはそれぞれの判断があるので、これからも注視していきたい」と冷静に受け止めた。決定の「関電は安全性の確保について説明を尽くしていない」という指摘には、「一般的に説明責任を果たしていくのは大切なことだ」との認識を示した。

 原発がある東松浦郡玄海町の岸本英雄町長は「まさかという思い」。福井地裁で再稼働を禁じた判断が後に覆った事例に触れ、「納得しづらい。司法は一定の判断になるべき」と主張。「差し止め仮処分は大きな力を持つ。そのことを裁判官が分かって決定を下しているか疑問」と憤った。

 原発30キロ圏内の伊万里市の塚部芳和市長は「原発周辺住民の不安を司法が認めた結果。国や電力事業者には重く受け止めてもらいたい」とコメントした。

 原告団の長谷川照団長は新規制基準などの問題点も挙げ、「裁判所は原発事故や住民の不安に向き合わない電力会社の姿勢を批判している」と強調した。その上で「原発訴訟で他の裁判官も出しやすくなる。運転差し止めを退ける司法判断が続いていただけに、脱原発の運動に力を与えてくれる」と語った。九州電力に対して玄海原発の再稼働の申請取り下げを求める声明も出した。

=識者談話=

◆双方の主張公平に比較

 吉岡斉九州大教授(科学史)の話 関西電力の主張にも一定の合理性を認め、住民側の主張には不十分な点もあると指摘した上で理詰めの判断をしている。双方を公平に比較し、裁判官が自分の頭で考えて是々非々の結論を出した。行政や電力会社は、東京電力福島第1原発事故前の基準を少し厳しくすればいいと考えているのだろうが、裁判官ははるかに厳しい基準で臨まなければならないとの前提に立った。福島の事故の歯止めになれなかったことを悔い、自立して責任ある裁判をやろうとの流れが司法界にあると感じさせる。

◆結論決まっていた印象

 元東京高裁判事の升田純中央大法科大学院教授(民事法)の話 原発のような高度に科学的な議論を含む争いが、早期に結論を出す必要がある仮処分になじむかそもそも疑問だ。通常の訴訟に比べて提出できる証拠にも制約があるのに、決定は関電側に厳しい立証責任を課した上で「主張が足りない」と判断しており、説得力に乏しい。決定を出すための大前提となる住民への「著しい損害」や「急迫の危険」に関する判断もほとんどない。結論が最初に決まっていたような印象で、分量、内容とも肩すかしだ。

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