ライターの大崎真澄さんから、取材記事をいただきました!
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東京から約1000km離れた九州最南端に位置する鹿児島県。この鹿児島から「地方にいることがデメリットではない社会を作る」をテーマに挑戦しているユニマルというスタートアップがあります。
主にデザイナーやエンジニアを中心としたWeb制作に関わる人の作業を効率化するuniversionsというサービスを運営しながら、地域を盛り上げるコミュニティとしてさくらハウスというコワーキングスペースも同時に運営している同社。
今回はそんなユニマルのストーリーに加えて、地方でスタートアップを起業する際のポイントをリアルな体験談を基に紹介していきます。
今回お話を伺った共同創業者COOの永田さん(写真左)とディレクター兼さくらハウス管理人の鶴田さん(写真右)
どうせなら地元鹿児島で面白いチャレンジをしたい
ユニマルはの永田さんと今熊さん(現CEO)の2人によって始まった鹿児島市に拠点を置くスタートアップ。現在はインターン生含め5名のメンバーで構成されていますが、全員が鹿児島県出身というまさに生粋の鹿児島発ベンチャーです。
創業者の2人とも実家や父親の仕事の関係で小さい頃から家にPCがあったので、エンジニアという仕事に漠然とした興味はありました。ただ最初から将来はエンジニアになる!って感じではなかったです。
永田さんは高校から県外へ出て自衛隊関連の特殊な学校に進んだ後(防衛大学の高校版のようなものとのこと)、心機一転、IT系の専門学校で学び東京のIT関連会社へシステムエンジニアとして入社。
鹿児島にいた時はそこまで思わなかったのですが、東京で働くようになってから将来は鹿児島で面白いことをやりたいと思うようになりました。地元に帰った時に同級生と話しても、鹿児島で本当にやりたいことにチャレンジしてる人は少なくて皆都会にでている現状を受けて、地元でも何かやりたいという気持ちが徐々に芽生えてきて。
ITの分野に関しては場所を問わずできることもありますし、東京は飽和状態ということもあって埋もれてしまう可能性もある。それなら地方でやることが何らかのメリットにもなるのではないかなと。
そこで東京の会社を退職し、鹿児島に戻りまずはフリーランスをやりながら新しいチャレンジについて考えることに。そんな時、永田さんに1つの転機がやってきます。
1つの勉強会から全てが始まった
それが、ユニマルが生まれるきっかけともなった「かごハック」という開発者向けの勉強会。そしてこの「かごハック」を主催していた人こそが、後に共同創業者となる今熊さんでした。
初めて話した時に、「こんな考えを持った人が鹿児島にいたのか」と思いました。今熊は自分に持っていないスキルを持っいて優秀だったことはもちろん、起業して鹿児島県内を対象としてビジネスをやろうというのではなく、全国さらには世界も見据えたサービスを創りたいという強い想いを持っていて。その場ですぐに意気投合して起業の話がトントン拍子で進みました。
今熊さんは文系の大学に進むも、就活時にスーツ着たくないという理由もあり、小さい頃から何となく興味もあったエンジニアとしてキャリアをスタート。かごハック当時はまだ新卒で入った会社に勤務されていたものの、当初から将来的に起業は考えていたそうです。
そんな時2人は偶然出会いいざ起業をすることに。そこで実際に開発していくサービスを検討する中で、永田さんがフリーランス時代に感じていた課題を解決する「universions」のアイデアが生まれました。
(universions: ファイル共有を始めとしたweb制作に関わるクリエイター向けの業務を効率化するサービス。離れた場所で作業するメンバーとも効率良く協働できるように作られています。)
主な部分は2人で開発しながら、その後正式にフルタイムで参画する中山さんや今でも付き合いのある社外のエンジニアさんの協力も得つつ半年程の開発期間を経てまずはサービスのα版を公開します。
中山さんは今熊さんの前職の知り合いで、創業時からユニマルに関わるメンバーの1人。創業当初は東京からリモートで開発に携わっていたもののユニマルに本格ジョインするため、鹿児島へ戻られたとのこと。
またユニマルの成り立ちを紹介する上では”勉強会”というコミュニティの存在もかかせません。創業のきっかけとなっただけでなく、初期から関わっている人達の多くが勉強を通じて出会っています。
今回お話を伺った4人目のコアメンバーである鶴田さんもその1人。
元々は鹿児島のweb制作会社で働いていて勉強会を通じてメンバーと知り合いました。知り合った当時はまだユニマルができる前だったのですが、起業したと聞いた時は「鹿児島で起業するなんてびっくり」という感じでしたね。
やっぱりWeb関連の会社を起業したとしても鹿児島県内で完結することが普通だったので。会って話を聞いたり、実際にサービスを使ってみてとてもワクワクしました(鶴田さん)
現在は自社で後述するさくらオフィスというコワーキングスペースを設け、鹿児島のスタートアップやテックコミュニティを盛り上げるべく勉強会やイベントの運営・サポートを積極的に行っているそうです。
地方×ITスタートアップのリアル
ここまではユニマルの創業ストーリーをざっと紹介してきましたが、ここからは「地方でITスタートアップをやっていくことのリアル」というテーマで、苦戦した部分や反対に鹿児島でやったことで良かったことを紹介していきます。
ITスタートアップならではの部分もあるとは思いますが、地方で起業を考えているという方にとっては参考になる部分もあると思うので是非チェックしてみてください。
●人(採用や人脈について)
エンジニアやデザイナーを筆頭にWeb関連の人材は地方だと母数が少ない分、採用面では苦戦したし現在も大変であるとのこと。鹿児島でも優秀な人材はいるものの、当然ながらニーズが高く既にどこかの企業に属していて採用することは困難。
一方で人脈という観点ではアポイントの成功確率があがる可能性があるという面も。「鹿児島から会いに行かせてください!」と言うとすごい人が面白がってあっさり会ってくれたりすることが実際にあったという。ただし、当然ながらいざ会いに行こうと思うと時間・金銭的な負担は大きい。
●金(資金調達)
東京に比べてベンチャーキャピタル(以下VC)は当然少ないし、地元の金融機関も東京に比べてスタートアップに対して投資をするということにたいしてもシビアで事例も少ない。
加えてVCが主催するイベントなども地方では少ない、というかほぼないのが現状。そもそもVCとどういった形でアポイントをとればいいのかといったことも周りに事例がないためわからなかったりする。
最近では福岡などではそういった機会も増えてきているし、地方のスタートアップに投資するVCも出てきているのでいかにVCの人とコネクションを作れるかがポイント。実際は公式HPのコンタクトからでも連絡をすると返信してくれるVCも多いそう。
※ユニマル社は当初資金調達などもしておらず、資金面ではかなり苦労したそうです。自分たちのサービスの開発にあまり工数が避けず、ほとんどの時間を受託開発にとられてしまう月もあったとか。
そんな中で、東京のVC・サムライインキュベートが鹿児島で開催したベンチャーサミットで優勝し500万の出資を受け、少しずつ自社のサービス開発に時間をかけられるように。
今でも自分たちがWeb制作の現場にいることがサービスを作る上で重要なために受託開発は継続しているものの、自社プロダクトの開発にほとんどのリソースを割けるようになったそうです。今年に入り宮崎太陽キャピタルから出資を受けさらなるサービスの改良にも力を入れています。
●情報
技術的な情報など、ネットで調べて解決するような情報についてはかわりはない。ただ、コミュニティ内で直に人と会うことで得られる情報などは当然ながら地方だと少ない。
スタートアップ向けのミートアップやピッチイベントなどの機会の多さも東京が圧倒的に多く、リアルな経験談を共有したり、誰かに相談したりといったことが気軽にできるのは東京のメリット。
●マーケティング
現在はネット上の口コミや、勉強会のスポンサードなどからユーザー獲得に繋がっているので鹿児島からでも十分やれている。ただ、商材やフェーズによって営業や提携など含め直接の打ち合わせが発生する場合には、東京に拠点が合った方が事業が加速する場合も。
ユニマルでもいずれは東京に拠点を設けるということも検討したことはあるそう。
●その他 - 鹿児島ブランド
鹿児島発ベンチャーという形で、人が面白がって会ってくれたり、わざわざ鹿児島まで遊びにきてくれたりといったことがある。鹿児島のベンチャーということで覚えてもらえることも。東京だとどうしても埋もれてしまう部分はあり、印象に残りやすいという意味ではプラスの面もある。
ITスタートアップがコワーキングスペースを作った理由
最後に、鹿児島のスタートアップとテック文化を盛り上げるために昨夏立ちあげられたという「さくらハウス」と今後のユニマルについて紹介します。
(さくらハウスの入っている建物はとてもユニーク。11階建てで晴れている日だと桜島がとてもきれいに見えるそうです)
さくらハウスとは昨年8月にオープンしたコワーキングスペースで、ユニマルのオフィスも兼ねている場所。複数のベンチャーキャピタルがスポンサーについており、「場所を超える、人をつなぐ」という会社のミッションのもと、鹿児島でスタートアップやテックに関心がある人が繋がれるような場所を目指しています。
このさくらハウスは、「スタートアップハック」というイベントがきっかけとなっています。このイベントは鹿児島でスタートアップに興味のある人を対象として開催したのですが、約100人が集まったんですね。これには主催した僕たちも驚いたとともに、1回きりのイベントで終わってしまうのはもったいないなと。
もっとスタートアップに興味をもつ人を増やしたいし、せっかくイベントに参加して興味をもったけどそこで終わりというようにはしたくない。そこでイベントではなく、いつでも気軽に立ち寄ることのできるゆるい場所を作ろうということになり、コワーキングスペースという形で始まりました(永田さん)
継続的に勉強会などをして交流できることはもちろんのこと、お馴染みのメンバーだけでなく、もっと流動的にいろいろな人が足を運べるようにしたいという想いから、Webの技術だけでなくIoTのコミュニティを立ちあげたり、豪華なゲストを招いてニコニコ生放送の番組をやったりなど新しい取り組みを仕掛けている真っ最中だそうです。
自分たちがあったらいいなという場所をめざしてやっているだけといいますが、スタートから約半年で思っていた以上の収穫があったといいます。
一度来てみたかったとわざわざ県外からも遊びにきてくれるような人もけっこういて、それをきっかけに会社を知ってもらえたりすることも多いです。また、想像以上に多種多様な人材と交流できるのがとても面白くて。例えばエンジニアといってもWeb系の人もいればものづくりをしているハード系の人もいます。
普通の勉強会などでは交流するようなことがない人同士が繋がって、そこから新しいアイデアや取り組みが生まれるのが良いなと。IoTの勉強会などはまさにその1つですね。(鶴田さん)
特に地方ではなかなか同じ志やスキルをもった人達が気軽に繋がれるスペースやコミュニティがないので、こういった場所が1つできるだけでも新しいアイデアや事業が生まれるきっかになるのかもしれません。
地方にいることがデメリットではない社会を作る
このように鹿児島のスタートアップコミュニティを活性化させるべく次々と新しい取り組みを仕掛けているユニマル。今後は現在のサービスにクラウドソーシングのような新たな機能を搭載するなど、地方での雇用を増やし「地方にいることがデメリットではない社会を作る」というビジョンに向けてチャレンジをしていくといいます。
その上で、地方での働き方の選択肢を増やすという意味で自社でも積極的に人材を雇いたいとのこと。
東京のスタートアップであれば、人が増えたといっても「そうなんだ」くらいにしか思われないかもしれませんが、スタートアップというものがまだ根付いていない地方であれば、「きちんと雇用を生み出している、社会的にも価値がある」ということを理解してもらい、スタートアップの文化やコミュニティを広げていくことにも繋がるのではないかと思っています。そういう意味でももっと人材を採用していけるように頑張りたいです。(永田さん)
鹿児島から新たなチャレンジをし続けるユニマルの今後にも注目です。
(by 大崎真澄)