広島県府中町の町立府中緑ケ丘中の男子生徒が自殺した問題で、同校の調査報告書の要旨は次の通り。

■はじめに

 学校は事実を重く受け止め、調査を始め、情報の整理をした。その結果、男子生徒への進路指導の際、誤った事実に基づいた不適切な対応や指導を行っていたことが明らかになり、男子生徒が自ら命を絶ったことに対して、学校としての責任があったと認識している。事実を厳粛に受け止め、課題を明らかにし、再発防止のため、さらにはよりよい学校づくりに向けどう取り組むかという視点で検証を行い、報告書を作成した。

■万引き事案について

 2013年10月6日午後、1年生2人が万引きをしたとコンビニエンスストアから学校に電話があり、部活動で校内にいたA教諭が対応した。本来は指導方針に従い対応しなければならなかったが、日曜日で自ら対応すればよいと判断し、他の教諭と一緒に店舗へ駆けつけて確認。生徒は保護者とともに謝罪した。店は警察への被害申告は行わなかった。

 翌7日に、A教諭は生徒指導部のB教諭と担任のC教諭に口頭で報告した。B教諭はパソコンへ入力して生徒指導推進委員会資料を作成した。その際、誤って男子生徒の名前を入力した。なぜそうしたのか、聞き間違えたのか、入力ミスなのかなど詳細な状況は不明。入力する際は事実確認票や生徒指導ノート(備忘録)の記録をもとにすべきだが、記録はない。

 資料の誤りは、翌8日の委員会で参加した教員の指摘で修正した。しかし元データ自体は修正されなかった。当時資料を作成した職員は、会議で事実を確認するための資料と考え、後に別のことに使うとは考えていなかった。管理職不在のため修正を行う指示もなかった。

 万引きなどの場合、事実確認や保護者連絡、本人や保護者を交えた面談、別室指導など特別な指導を行う。この事案では、保護者に連絡し、店に謝罪したことからA教諭は解決したと認識し、生徒指導部から事後指導の指示もなかった。

 7日に1年生による暴力行為が発生し、生徒指導部はこの対応を優先し、万引きの対応と指導を怠った。

■生徒指導について

 生徒指導の記録は重要な資料として整理しておく必要がある。しかし当時は明確な取り決めはなく、生徒指導に役立てるものになっていなかった。生徒指導推進委員会の会議録も記録担当者が決まっておらず、管理・保管するシステムはなく、重要性の認識も低かった。

 男子生徒は「どうせ言っても先生は聞いてくれない」という思いを保護者に話している。このような思いを抱かせる不十分な相談体制になっていた。要因は、生徒が抱える多種多様な悩みを、学校全体を通じて、また全教職員が様々な時と場所において、適切に対応するための指導計画や共通理解が図られていなかったことだ。生徒と教職員の信頼関係作りができておらず、相談体制が十分機能していなかった。

■誤った資料について

 3年生を担当する教諭らで2015年5月ごろから協議し、これまでは3年生になってからの触法行為を対象にしていた推薦・専願基準を、今年度は「1・2年時も含めて3年間触法行為がないこと」と厳しい基準にする結論になった。

 これまでは3年時の触法行為の確認ができればよかったため、3学年教員の記憶に頼っていた。1年時からの触法行為を含むことになったため、「記憶に頼ると間違いにつながる」と考えたD教諭が根拠となる資料を探そうと、11月12日、サーバー内の13、14年度の生徒指導推進委員会の会議資料を印刷。D教諭は委員会資料だから正確なはずと信じ、学年主任に渡した。

 1・2年時の触法行為を含めると決めた時点で、何を根拠資料にするか学校組織として検討すべきだったが、その意識はなかった。根拠資料の重大さを職員が認識していなかった。

■進路指導について

 推薦・専願基準は、推薦できない条件として「触法行為をした生徒」と示しながら、細かな点は決めていなかった。慣例的に毎年担当学年で検討し、年度によって基準に揺らぎがあった。かつて基準を緩めて推薦したために高校から信頼をなくした時期があった。ある程度の厳しい基準は必要であると考えていた。

 1・2年時の触法行為を推薦・専願基準の対象に入れるなら、入学時から生徒や保護者に具体的な基準を明確に伝える必要があった。だが全体への説明は最後までなく、対象と考えられる生徒と保護者にしか伝えなかった。伝えたのも11月終わりから12月初めで、伝え方も共通な方法ではなかった。5月と11月の進路説明会で「中学校3年間を一生懸命頑張って生活を送ってきた生徒」と説明しているので、大きな違いはないという非常に甘い考えが教職員にあった。生徒は些細(ささい)なことにも悩み苦しむものだという認識と深い生徒理解の姿勢が欠けていた。

 11月12日、担任は委員会の記録に男子生徒の万引きの記載があることを知り驚いた。優秀な生徒だったので「1年生の時に何があったのだろう」と思った。専願できないと合格には高い得点が必要になるので、男子生徒に早く伝えようと1回目の個人面談で万引きの件を伝え、計5回実施した=別表。しかし面談にあたって具体的に問いかけたり、落ち着いた場所や時間を確保して面談したりするなど、生徒の本意を引き出す配慮に欠けていた。

 個人面談は、廊下で立って行った。学年で同時進行の個人面談だったため、教室が確保できないと考えたことや面談をしていない教室内の生徒への指導も必要と考えて、教室内の様子が感じ取れる教室前の廊下を選択した。受験校や受験方法の確認が主な内容になり、生徒の思いに寄り添う視点が弱かったため、学年で工夫して時間や場の設定を行う発想に至らなかった。

 担任は、男子生徒や保護者の希望がかなわなくなったことを三者懇談までに保護者へ伝えなかった。万引きについても、男子生徒が保護者に知られたくなさそうな様子を担任は感じていたが、事前に保護者へ連絡を取らなかった。生徒の思いに寄り添った指導を進めたいと考えてとった行動だった。しかし「言いにくい」と言っているからこそ保護者に直接会って話をする場を持つ必要があった。保護者との連携が適切に行われなかったことは大きな課題だ。

■学校経営について

 生徒指導上の不十分な指導やずさんな情報管理、進路指導上の誤認に基づいた不適切な指導があった。要因は、学校経営を進める上で組織が機能的に運用されるよう、校長として指示・指導を十分行っていなかったところにある。

 背景には「これまで取り組んできて特に問題はなかった」といった考え方があった。その結果、生徒指導では、問題行動に対する事実確認やその後の指導が十分に行われず、誤った情報が残ってしまった。進路指導においても、推薦・専願基準を変更したにもかかわらず、全教職員による十分な意見交流をすることなく、生徒の成長を認め、進路への意欲を高める観点を持った基準になっていなかった。教職員、生徒、保護者への周知もされないまま、進路査定会議を行ったことの課題は大きい。

 学校運営にあたって、組織的な進路指導を進める体制でなく、指導方針を決めるにあたって、校長が方針を把握していない状況があった。組織はあっても、機能化という点で課題があった。

 組織的に動くためには校務運営会を活用する必要があったが、報告だけにとどまり、具体的に協議を行い、考えを共有し、深める場になっていなかった。職員間のコミュニケーション不足があり、意見を言い合い、より良いものを作り上げる風土を築けていなかった。

■結びに

 今回の事案を調査する中で、様々な課題が明確になった。生徒指導上の課題、進路指導上の課題、そのすべては学校経営上の課題に行きつくと認識している。

 本校においては、これまでも生徒指導上大変厳しい状況があり、学校を落ち着かせることを最優先に考えていた。規律維持を求めるあまり、押さえつける指導になっていたのではないか、過ちを犯した生徒や反抗的な生徒を排除するような指導になっていたのではないかと、猛烈に反省している。

 毎月8日を「教職員が自らの姿勢を問い直す日」と位置付け、特に12月8日は「校内の取り組みを点検し、研修する日」として、学校改善を進める。

 私たちはあらためて、子どもたちを教え育てるという職責を深く自覚し、生徒一人一人の成長にしっかり寄り添い、生徒・保護者・地域に信頼される学校をつくっていくことを誓う。