自転車を追いかけるダチョウの動画が話題に

時速50キロでも楽勝、生物学者も驚いた南アフリカでのランデブー

2016.03.11
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南アフリカの田舎道に突如出現!自転車の時速は50キロだった。ダチョウは空は飛べないが、走る間、方向転換をするための舵のように羽を駆使できる。

 グーグルでコンピューター・プログラマーとして働くオレクシー・ミシュチェンコ氏は、スイスのチューリヒ在住、趣味は自転車に乗ることだ。この日も、友人らとともに南アフリカの田舎道を自転車で走っていると、猛スピードで走る野生のダチョウに遭遇。ミシュチェンコ氏はダチョウとレースするという、一生に一度あるかないかの貴重な体験をした。

 ウェアラブルビデオカメラの「GoPro」でその様子を撮影したミシュチェンコ氏は言う。「元の動画を見ると、僕の笑い声も録音されています。自転車から落ちるかと思いましたよ」

 ミシュチェンコ氏は、自転車レース「ケープ・アーガス・ツアー」に出場するため、1週間の予定で南アフリカ共和国に滞在していた。大会前の3月4日、数人の友人と一緒に自転車に乗ってアフリカ大陸最南端の喜望峰を目指し、ほとんど人けのない田舎道を走行していた。

 ふと、道端にいた2羽のダチョウが視界の端に入った。1羽はオス(黒っぽい色の羽)、もう1羽はメス(薄い色の羽)だった。突然、オスの方が道路へ飛び出してきて、ミシュチェンコ氏の前を走る友人たちの後を追い始めた。ミシュチェンコ氏は、これを後方からビデオカメラに収めた。(参考記事:「【動画】衝撃、子グマを食べるホッキョクグマ」

 自転車は下り坂を時速50キロで走っていたが、ダチョウは軽々と後を付いていく。なにしろ、時速70キロ以上を記録したこともある鳥だ。(参考記事:「飛べない鳥、進化の謎を解明か」

「危険だとは思ってもみませんでした」と、ミシュチェンコ氏は振り返る。「ダチョウも警戒しているようには全く見えませんでしたし。方向を変えたり逃げようとするそぶりもなかったので、怖がってはいなかったと思います」

 しばらくすると、ダチョウは道を逸れてどこかへ行ってしまった。

 ミシュチェンコ氏と友人らはその後、喜望峰まで到達して戻ってくる途中、またダチョウが道端に立っているのを見つけた。この近くにはダチョウ牧場があるそうだが、この動画が撮影されたのはテーブルマウンテン国立公園の敷地内だったという。

なぜ一緒に走ったのか

 米ミネソタ大学教授でアフリカの野生生物について研究する生物学者クレイグ・パッカー氏は「見たことのない光景です」と言う。(参考記事:「ライオンVS.カバ、異例の対決」

「自転車に乗った人間とダチョウが、こんなに近づいているのは初めて見ました。このダチョウは何を考えていたんでしょう」。ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラーでもあるパッカー氏は、自動撮影カメラで動物たちを撮影する「セレンゲティ・セルフィー」というプロジェクトで、至近距離からダチョウを撮影したこともある。(参考記事:「大人気の自撮りアイドル、クアッカワラビーって?」

 この動画ではダチョウの顔がほとんど見えないので、何を考えていたのか察することは難しい。自転車へ向かって突進しているような様子もないので、攻撃的になっていたわけではないだろうと、パッカー氏は言う。自転車に乗る人間をメスのダチョウと間違えたのか、単に道路を走る交通の流れに巻き込まれてしまっただけなのか。実際、抜け出すタイミングがつかめない初心者ドライバーのように、自動車や人の流れにはまってしまう動物もたまにいる。

「もしかしたら、メスに良いところでも見せようとしたのかもしれません」と、ミシュチェンコ氏。

 パッカー氏も、その可能性はあるという。ただ、メスの気を引こうとする場合、翼を断続的にばたつかせたり、独特の鳴き声を立てたりするのが普通だが、そのどちらの行為も、この動画には見られない。

「何だったのか、まったく謎です」と、パッカー氏。

 ダチョウは、今でもアフリカ各地に比較的数多く生息しているが、普段は警戒心が強く、人間に近付くことはあまりない。

文=Brian Clark Howard/訳=ルーバー荒井ハンナ

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