移民危機の最中にある欧州は決定的に重要な時を迎えた。昨年、シリア内戦を逃れ100万人が大陸に到来、今年はさらに100万人以上が後に続くかもしれない。そこでEU(欧州連合)はトルコが防波堤となるよう期待し、同国との協定を検討している。協定には欠点もあるが、締結は避けられない。
現在、1日約2000人の難民が海路でトルコからギリシャに渡り、その後ほかの欧州諸国へと移動している。EUが危機を抑え込むにはこの流れを止める必要がある。
協定案ではギリシャ領に到着する新規の移民は真の亡命希望者であろうとなかろうと、トルコに送還される。
■移民1人につき難民1人の定住を保証
EUは難民を収容してもらう見返りとして、トルコに60億ユーロを供与することを含め様々な措置を取ると提案している。EUはトルコに送還される移民1人につきトルコの難民収容所から1人を引き取り欧州に定住させると保証している。
協定案は来週のEU首脳会議で最終決定される。その内容の多くはあまり歓迎されるものではない。大勢の難民をギリシャからトルコに追放するとの計画は国連が直ちに指摘したように、ほとんど違法だろう。
トルコの難民収容所のシリア人をEUに定住させることはEU諸国には特に難しい問題だ。EUはこれまで約3000人しか定住を受け入れていないが、トルコとの合意では数十万人でないにしても数万人を受け入れざるを得なくなるだろう。当然のことながら、ハンガリーや英国を中心に多くの国が協定への参加を拒否するだろう。
トルコはすでにどの近隣諸国よりも多い250万人のシリア難民を受け入れてきた。EU諸国も受け入れを担うと保証しないのにトルコが受け入れを増やす計画に調印できるわけがない。
残念ながら欧州のこあれまでの対応は連帯感と戦略的な企図を完全に欠いている。
トルコ大統領は欧州が大切にする諸価値を侮蔑しているが、EU諸国にはそのトルコ大統領と組む以外に道はない。提示されている案は愉快なものではないが、欧州が主導権を取り戻す最後の機会を提供している。(9日付、社説)=英フィナンシャル・タイムズ特約