GETTY

Photo: GETTY

伝説のプロデューサーであるサー・ジョージ・マーティンの訃報を受けて、音楽業界は深い悲しみに暮れている。親しみを込めて「5人目のビートルズ」(ポール・マッカートニーは追悼の声明の中で「もし誰かが5人目のザ・ビートルズの座を得ることができるとすれば、その座はジョージのものです」と語っている)と呼ばれたジョージ・マーティンは、1枚のアルバムを除いて、1963年のデビュー・アルバム『プリーズ・プリーズ・ミー』から『アビイ・ロード』までザ・ビートルズのすべてのアルバムにおいて重要な役割を担っていた。

ジョージ・マーティンの、音楽での成功を見極める勘は鋭く、ジョン、ポール、ジョージとリンゴとの仕事のみならず、成功を収めてきた長いキャリアの中で、音楽、映像、コメディといった幅広く多種多様な分野に携わってきた。彼はプロデューサーとしてチャートの1位を獲得した作品は一度や二度ならず、イギリスではシングル30曲、アルバム16作の1位獲得を実現させている。北米でも、彼が携わったシングル23曲、アルバム19作が1位を獲得している。

彼の素晴らしい功績は、いつもチャートの1位を獲得することで知られるわけではない。ジョージ・マーティンの類い稀なる才能は、壮大なオーケストラのアレンジ、インストルメンタルの独奏や、これまで収録された最高の音楽の全体的な指導といったなかで見事に実証されてきた。こうした彼の功績を念頭に置いて、ジョージ・マーティンの偉大なる音楽的功績を振り返っていきたい。

“Love Me Do”


ザ・ビートルズの最初のシングルは決して楽な作業ではなかったが、ジョージ・マーティンの完璧さへのこだわりによって(デビュー前のドラマーだったピート・ベストのレコーディング時の音についてジョージ・マーティンが愚痴をこぼしたのは、彼の仕事熱心さを代表する逸話だ)、理想的な音が最終的に生み出された。ジョージ・マーティンは、とりわけイントロで曲を引き立てるジョン・レノンのハーモニカのアイディアを気に入っていて、バンドの完璧なポップ・ミュージックの第一弾としてこのファースト・シングルは生み出された。


“In My Life”でのピアノ・ソロ


6枚目のアルバム『ラバー・ソウル』に収録されているこの曲で、ジョージ・マーティンは、本人が認めているように「バッハの影響を受けた」という実に美しいピアノの旋律を奏でている。間奏はバロック音楽の音色を帯びていて、この部分は録音速度を通常の半分にして録音するという音の知恵を使っている。こうすることで、曲を通常の速度に戻した時に、ピアノの旋律が二倍の速さになり、1オクターブ高く聞こえるようになる。シンプルだが、効果的な手法だ。


“I Am The Walrus”でのオーケストラの才

オーケストラ全体をジョージ・マーティンが手がけたこの曲で、彼のアレンジはザ・ビートルズによるどちらかというと奇っ怪な曲のアイディアを、わかりやすくて現実の記憶に残るものへと転じている。うまい具合に、最終的な音源からジョージ・マーティンのオーケストラ・アレンジメントを誰かが繋ぎ合わせてオーディオ・ファイルに残している。その音源はこちらから。


おお、”All You Need Is Love” にもオーケストラが


ザ・ビートルズの楽曲で最も愛されているもう一つの曲が、ジョージ・マーティンのオーケストラ・アレンジメントの多大なる恩恵を受けている”All You Need Is Love”だ。他の曲との間にフランス国歌が入り込んでくるイントロは、軍隊に召集される世界中の恋人たちと肩を組んで世界が無事であることを祝うことを関連づけている。


“Yesterday”


ジョージ・マーティンの革新的なひらめきがザ・ビートルズのレコードにおいて最も甘い瞬間の一つを捉えている。ポール・マッカートニーは前述の追悼の声明の中で、この曲のレコーディングの工程について振り返っている。

「ジョージとすごした日々の中で、一番気に入っている思い出を選ぶのは難しいことです。たくさんの思い出がありますが、一つ思い浮かぶのは、僕がレコーディングの場に自分で書いた”Yesterday”を持って行った時のことです。ギターを弾きながら、僕が一人で歌ったらどうかと、メンバーが言ったことがありました。一人で歌った後、ジョージ・マーティンは僕に『ポール、この曲に弦楽四重奏を加えるという考えがあるんだ』と言ってきました。『いやいや、ジョージ。僕たちはロックンロール・バンドなんだ。それはいいアイディアとは言えないな』と僕は答えました。労わるような優しい口調で、偉大なるプロデューサーである彼は僕に言いました。『試してみよう。もしうまくいかなかった時は弦楽器を入れずに、君のソロ・ヴァージョンでいけばいいじゃないか』。僕は彼の意見に同意して、次の日にはアレンジを加える作業をするために、彼の家に行ったんです。

彼は僕が見せたコードを使って、ピアノで音符の幅を広げ、低いオクターヴのチェロや高いオクターヴでの第一ヴァイオリンを付け加え、弦楽四重奏がどんな音を持っているか、初めてのレッスンを僕にしてくれたのです。彼のアイデアが生きていたのは明らかで、その曲は結果として、フランク・シナトラやエルヴィス・プレスリー、レイ・チャールズ、マーヴィン・ゲイをはじめとした何千ものアーティストによって、最も多くレコーディングされた曲の一つとなりました」


“Eleanor Rigby”


ジョージ・マーティンのクラシックの知識は、この曲でも驚異的に生きることとなった。ジョージ・マーティン自らのスコアによる二本のストリングスのアレンジは、心の琴線に強く触れる孤独さゆえの叙情性を生み出している。


『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』


異論もあるものの、ザ・ビートルズの最高傑作(この議論を始めたら、残りの時間はずっと喧々諤々となるだろう)においてジョージ・マーティンの存在は、「あのような記念碑的傑作を生み出すための接着剤」だった。サウンドを生み出すための信号処理を先駆的に使ったのをはじめ、“Good Morning, Good Morning”の最後では動物の鳴き声を継ぎ接ぎし、“Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band (Reprise)”ではチューニングしているギターの音を重ねてみせた。ジョージ・マーティンの存在はザ・ビートルズという天才と一つに結びついていたのだ。


映画『女王陛下の007』


ジョージ・マーティンのあまりにも大きな功績に光を当てるにあたって、数限りないザ・ビートルズの音楽的瞬間を挙げることはできるだろうが、ジョージ・マーティンの影響力はより広く、遠くまで広がることとなった。実際、彼のスタジオはジェームズ・ボンド・シリーズの2曲のテーマ曲、“Goldfinger”(といってもこれはクレジットだけで、ジョージ・マーティンは当時この曲を歌ったシャーリー・バッシーのレギュラー・プロデューサーだったのだ)とポール・マッカートニーの“Live and Let Die”までを手がけていた。“Live and Let Die”のオーケストラ・アレンジは、一際目立つ、すぐにそれと分かるものだが、これらもすべてジョージ・マーティンのおかげだったのだ。


“Candle in the Wind 1997”


エルトン・ジョンは1997年にダイアナ妃が亡くなったのを受けて、追悼のためにこの曲を再レコーディングしたが、この曲は、ダイアナ妃の死後の歳月のなかで吐露される世界中の深い悲しみのオフィシャル・サウンドトラックになった。UKにおけるシングルの初週売上としては歴代1位であり、間違いなくジョージ・マーティンによるサウンド・プロダクションへの指示が寄与している。エルトン・ジョンのオリジナルの編成にストリングスやオーボエを追加することで完璧なコードを突き当てたのだ。


有名コメディアンとの仕事


ザ・ビートルズと契約する前、ジョージ・マーティンはコメディや変わったレコードの制作に取り組んでいた。最もよく知られているコラボレーションは、ピーター・セラーズ(彼はこの後にオリジナルの『ピンクの豹』の映画でクルーゾー警部も演じることになった)とスパイク・ミリガンとのもので、50年代から60年代にかけて二人のコメディのフル・アルバムをいくつか制作している。ジョージ・マーティンは、バーナード・クリビンス、ダドリー・ムーア、ジョーン・シムズとも仕事をしており、まさにとんでもない経歴なのである。
————————————————

ザ・ビートルズについては、ロンドンのアビイ・ロード・スタジオで行われたザ・ビートルズのレコーディング・セッションの模様を生で再現する公演「ザ・セッションズ」が開催されることも決定している。

「ザ・セッションズ」は、アビイ・ロード・スタジオでザ・ビートルズを担当した伝説のレコーディングエンジニア、ジェフ・エメリック監修によるもので、ギター、アンプ、マイク等も当時の機材を使用し、総勢約50名の外国人ミュージシャン/シンガーにより、当時のレコーディング収録曲を、演奏、アレンジメント、そしてハーモニーにおいて忠実に再現するものとなっている。

3月30日にチャリティでの公演の初公開がリバプールで行われ、既に完売となっている世界初公開公演は、4月1日にロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで開催される。UKではアリーナでの11公演が予定されており、ブライトン、カーディフ、ノッティンガム、ニューカッスル、グラスゴー、マンチェスター、アバディーン、リーズ、バーミンガムといった公演の後にロンドンの2夜連続公演でUK公演は締めくくられる。

『エルヴィス・プレスリー – イン・コンサート・ショウ』のクリエイターであるスティグ・エドグレンがプロジェクトを手がけていて、2012年のロンドン五輪の閉会式やテイク・ザットのスタジアム・ツアーのクリエイティヴ・ディレクターを務めたキム・ギャヴィンとともにエグゼクティヴ・プロデューサーを担当している。セットは、ザ・ローリング・ストーンズやAC/DC、U2のステージを手掛けるスチューフィッシュがデザインと制作を担当している。

日本公演も決定しており、日本公演の初日は、ザ・ビートルズが50年前に日本公演初日を行った6月30日で、会場も同じ日本武道館となっている。

公演の詳細は以下の通り。

来日50周年記念 日本武道館公演
「ザ・セッションズ」
〜ザ・ビートルズ at アビイ・ロード・スタジオ〜
【公演日程】
2016年6月30日(木) 開演 19:00(予定)
2016年7月1日(金)[昼公演] 開演 14:00(予定)
[夜公演] 開演 19:00(予定)

【会場】日本武道館

【料金(全席指定・税込)】
S席:10,500円 A席:9,500円 B席:8,500円
※未就学児童入場不可

更なる公演の詳細は以下のサイトで御確認ください。

http://sessions-japantour.com

Copyright © 2016 Time Inc (UK) Limited. NME is a registered trademark of Time Inc (UK) Limited being used under licence.

関連タグ