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画像引用:cnn.com

2011年3月11日の東日本大震災によって起こった福島第一原子力発電所事故。
福島第一発電所から海に流出した放射性物質の影響について研究している学者が海外の掲示板で質問に答えていました。

※『Ask Me Anything!!!【海外版】何か質問ある?』さんでも同じ記事を扱っています。
被っている部分もありますが被っていない部分もあるので併せてどうぞ。 

引用元:Fukushima AMA


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●Ken_Buesseler(投稿主)
私は海洋放射線の研究をしている海洋学者のKen Buesselerだ。
1960年代にピークを迎えた核兵器実験の大気中に含まれる放射性降下物を調査し、博士号の年に1986年のチェルノブイリ事故後の黒海の研究をして、今は2011年に前例のない放射性核種の流出源となった福島第一原発の調査をしている。
それから海の炭素サイクルを調べる技術にも使われている海で自然発生するトリウムという放射性物質の研究もしている。

(中略)

この5年間で我々がどんな事を研究してきたかって?
それこそがこのAMA(Ask Me Anything)を立ち上げた理由だ。
我々の結果を説明し、みんなの疑問に答えよう。

●YourNameHere
自分は大阪に住んでるんだけど本州東部で獲られた海産物はどの位安全なんだろう?

●Ken_Buesseler(投稿主)
↑今日の日本は原子炉付近を除いて太平洋側で採られた食材は海産物や他の製品も日本によって厳しい基準が課せられてるよ。
日本では数万の魚がチェックされている。
もしそこで基準値を上回る魚が発見されれば商業漁業は停止されるんだ。
2011年、福島近海で獲られた魚の約半数は日本の基準値(100ベクレル/kg)を上回っていた。
2014年はそれが1%まで下がっている。
”我々”(アメリカ)側で獲られた魚で日本の基準値や日本よりも基準値が高いアメリカ/カナダの基準値を上回る魚は獲られていないよ。

参考:

●noo8
↑でも放射性同位体は1度体に入ったら出て行かないのでは?

●StructuralGeek
↑ノー。
wikipedia:半減期_(薬学)
幾つかの重金属は生体半減期が凄く長いからその意見も事実だったりするけど一般的に生体半減期は数日から数年だし、これは食生活にも影響されてる。
例えば、ヨウ素の錠剤を摂取して無害なヨウ素を体内に飽和させる事で危険地域での放射性ヨウ素の体内への取り込みを低減させられる。

●SmashesIt
プラスチックゴミが海上で塊になるように、太平洋内で放射性物質のプールや集団を発見した事はある?

●Ken_Buesseler(投稿主)
↑科学的形態によるかな。
放射性汚染物質はその化学的性質に応じて海中を移動ないし濃縮されていくんだ。
セシウムはカリウムと同じような挙動で海中の塩分に溶け込んでいく。
セシウムは海流に乗って掻き混ざりながら運ばれていき、太平洋を5000マイル(約8000km)移動する時に時間と距離に応じて減少していくんだ。
そういう点ではビーチに積もっていくプラスチックと同じというのは正確ではないね。

●SmashesIt
追記:
自分は島という言葉で(放射性物質を)掬い上げる事が出来ると思っている人達に勘違いさせられてたみたいだ。

●TerraObstinata
ここ5年の間にあえてデータを分かりにくくさせたり情報の公開を妨げようとする外部団体について見たり聞いたりしたことはある?

●Ken_Buesseler(投稿主)
↑事故の直後、我々は福島とチェルノブイリを比較しようとしてたんだけど日本政府の研究機関に勤める日本の共同著者で論文から自分の名前を消した人はいたね。
それ以外の場合は日本の大学や政府の研究機関で働く科学者とはオープンで素晴らしい対話をしてきたよ。

●PythonEnergy
↑なんで彼は自分の名前を消したんだろうか?

●lickwid
1.福島から流出した放射性物質の規模はどの位?専門用語か比較で、一般人にも理解できる形にするなら

2.放射性物質はどういう風に海層に広がっていくんだろう。
海底に沈殿していくのか水溶性物質は海流に乗って循環するんだろうか?

3.どの位の量の放射性物質が海洋に流出したら壊滅的な被害になるんだろう?
その仮定と福島で流出した量はどの位の開きがあるんだろう?

●Ken_Buesseler(投稿主)
↑1の質問に対する返答。
合計レベルと規模は混合汚染物質によって変わっていくけど1つの種類、例えばセシウム137だけを取り上げるとしたら地球全体で行われた核実験で出たセシウム137はチェルノブイリ事故の10倍の量で、チェルノブイリから出たセシウム137は福島原発よりも2~5倍多い。
チェルノブイリの場合はセシウムのほとんどが海ではなく地上に降ったんだけどね。

●farseen
時間を割いてくれてありがとう。
最初に:
60年代に海上で行われた核実験について書かれた記事を読んだ事があるんだけどそこでは海は放射性物質を希釈する上で素晴らしい働きがあると主張する人がたくさんいたみたいだ。
核実験を行った海域は数週間で元の状態に戻ったという記事も読んだ。
そんなに短期間のうちに元の状態に戻るとは考えられないんだけど。

質問:
核実験の後でどの位の期間で元の状態に戻るのか教えてもらえないだろうか。
福島と比較した場合も?

●Ken_Buesseler(投稿主)
↑1960年代、太平洋環礁で核実験を行った直後の日本の太平洋沖における放射性セシウムの濃度は立方メートル当たり約50ベクレルで(ベクレル/立方メートル)、カリフォルニアでは5ベクレル/立方メートルだった。
3月11日の地震の直前、太平洋では放射性崩壊の結果2ベクレル/立方メートルになってた。
現在、アメリカ太平洋沖で最も濃度が高くて6ベクレル/立方メートルだ。
原発事故後の日本の沖で我々が記録した1番高い濃度は4500ベクレル/立方メートル。
(流出源である原子炉付近の非常に高いレベルのものを除いては)
福島以前の世界の放射性物質のレベルはここで見る事が出来るよ。

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画像引用:whoi.edu

●mayflowerf
↑なんでヨーロッパ周辺の海は他に比べて海面のセシウム137の濃度が(相対的に)高いんだ?

●uin7
アイリッシュ海(ワオ、こりゃ酷い)はセラフィールド核再処理施設があるせいだな。

●jnish
福島の事故以降からサンフランシスコに住んでる。
放射性物質に対抗するためにヨウ素を飲んでる人がいると聞いた事があるんだ。
日本から地球の反対側に住んでるけど、そういうオーバーリアクションは無視するのが正しいかな?

●Ken_Buesseler(投稿主)
カリフォルニア沿岸委員会が2014年にレポートを出してる。
2011年にカリフォルニアに住んでいて、1年間放射性物質が最も高く検出された時の水道水を飲み、最も高く検出された時の空気を吸っていたとしても健康に対する影響は5マイクロシーベルト、歯科医のレントゲン写真1枚分という事だ。
ゼロではないけど間違いなくかなり低い。
だからヨウ素の錠剤は必要ないよ。
とは言え、もしそういう事態になればヨウ素の摂取で事態を低減させられる事は覚えておいた方が良いだろうね。

●H-M-Murdock
自分は博士号過程で長寿命の核分裂生成物、特にストロンチウム90とセシウム137の研究をしてる。
で、投稿主は最も多く見つかったのがセシウム134とセシウム137だと言っているよね。
ストロンチウム90があまり見つかってないというのに興味があるんだけど。

●Ken_Buesseler(投稿主)
↑良い質問だ。
福島第一原発からはストロンチウム90よりもセシウムの方が流出しているけど、これはセシウムの方が揮発性が高いからで、大部分は初期の水素爆発の際の高温で放出されたからだ。
2011年、我々が海中で発見したストロンチウム90はセシウム137よりも40倍少なかった。
でも地上だとセシウム137はストロンチウム90よりも1000倍多かったね。
今でも我々の研究所やスペイン、スイス、オーストラリアの研究仲間で海中や海産物、海洋生物相内のストロンチウム90、トリリウム、他にも数種の放射性核種のモニターを続けてるよ。

●H-M-Murdock
↑本当にありがとう。
凄く興味深かったし研究のために覚えておくよ。

●weaponexpat
自分は中学で科学を教えてる。
海洋放射性物質に関して自分(やネット)が直ちに正すべき大きな誤解はなんだろう?

●Ken_Buesseler(投稿主)
危険なのは量で放射線への曝露はいかなレベルであれ懸念すべきだけどそれぞれのレベルには大きな違いがある。
福島のケースだと我々が使っているユニットの測定幅は2から5億の開きがあるんだ。
これは地表の温度と太陽の中心の温度位の差がある。
それから海中には既にセシウムが含まれている。
だから福島事故でどの位の量のセシウムが追加されたのかというのは良い質問ではあるけど、認識する必要があるのは核実験をしていた時から地上にも海中にも測定できるくらいの放射性核種が含まれているという事だね。

●Eeveelutions
1番予想外だった事は何だった?

●Ken_Buesseler(投稿主)
↑2011年に日本でサンプルを採集してる時は採集したサンプルをハンドヘルドの機器で測定してたんだけど放射線レベルよりも乗っていた船にデブリが当たって船が傷つく方が心配だったね。
他には予想外ではないんだろうけど失望した点として海洋放射線研究に対して責任を負うアメリカの機関が無かった事かな。

●funknjam
1)放射性核種は一般的にどのように生体濃縮されるんだろう?(生物個体/集団における濃度の増加)
2)放射性核種は一般的にどの位生物濃縮されるんだろう?(栄養レベルでの増加)
3)福島第一から流出した放射性核種と海中に天然で存在する放射性核種の生物蓄積/生物濃縮となにか違いはあるんだろうか。
例えばセシウムとか。

AMAをしてくれてありがとう。
自分の生徒達と結果をシェアするのが待ちきれないよ!

●Ken_Buesseler(投稿主)
放射性核種の種類が違えば同じ海洋生物に対してでも振る舞いは変わってくるね。
これは非放射性物質でも同じ事。
例えばセシウムは塩を同じように振る舞うから要素によって魚の中に海水よりも50~100倍の濃度で蓄積されていくけど、塩と同じように迅速に、約2か月で生体から排出されていく。
通常の生体機能を介するならあまり高いレベルでは蓄積されないんだ。
ただしストロンチウムは人間や動物の体内ではカルシウムに近い振る舞いをして骨に取り込まれていくし生体半減期は数年だから濃縮されていく。
ここから考えるに、仮にセシウム137に汚染された魚がいたとしてその魚の缶詰は30年間でセシウム量が半分になる(放射性物質の半減期で)。
対して同じ魚を汚染されていない水に放したら魚の体内の放射性セシウムは2か月で半減する。

●Kateth7
ヘロー、そしてAMAをしてくれてありがとう。
福島第一の微生物に対する影響に興味があるんだ。
放射性物質がバクテリアに与える影響は研究されてるのかな?
細菌群集組成が変わったとかある?
福島のケースでは海中からトリウムを除去するのにバクテリアを使ったりしてるのかな?そうじゃないなら、研究ではどういう部分に興味を持ってる?

●Ken_Buesseler(投稿主)
数百万ベクレル/立方メートルなら海洋生物(微生物含めて)に直接影響があるだろうね。
(これは2011年の原子炉近くでごく短期の間に知見されたレベルだ)
で、我々は海洋微生物に特化した研究は行っていないんだ。
それからトリウムを除去する微生物は放射性同位体を集めたり固定化するだけだ。
除去する事は出来ない。
(物理的にどかす事は出来ても消す事は出来ない)
減衰させなきゃ駄目なんだ。

●ded2me
事故の後で日本政府が災害から起こった集団ヒステリーに対処するために安全基準を引き上げたという記事を読んだ事がある。
食べても安全というのをアピールするためなんだけどこれって本当?

●Ken_Buesseler(投稿主)
↑実際の所日本は事故から1年後の2012年の4月に安全基準を500ベクレル/kgから100ベクレル/kgに引き下げてるよ。
個人的にこれは新しい保健物理学の研究結果がベースになっているよりも政治的な選択だと思ってる。
最も低い基準値(現在でもそうだ)を設定する事で国民の信頼を取り戻そうとしたんだろうな。
残念ながら教育を経ずに年間500ベクレル/kgなら食べても安全と言われたのに翌年には100ベクレル/kg以下のみとなったために一般市民に混乱を招いてしまった。
自分の知っている限り、我々やEUのほぼ全て、カナダの安全基準は1000~1200ベクレル/kgだ。
これは日本の元々の500ベクレル/kgよりも倍以上あるけど、日本人はより魚を多く食べるから理に適っていると言えるだろうね。
これは魚に含まれる他の物質で更に複雑になっていって、この中には天然に存在していてかなり高いレベルを摂取しているものの安全だと考えられているポロニウム120も含まれているんだ。
基準値は厳しく守られているし、日本人はしっかりコントロールして市場には回らないようにしている。
安全基準値を上回ったものは他国には販売していない。
日本に行った時は魚を食べるし、彼らは他のどの国よりも食品供給をしっかり監視していると確信しているよ。

●JUmstead12
福島原発事故の結果で最も懸念しているのはどんな事?

●Ken_Buesseler(投稿主)
おそらく、もっとも厄介な結果は海洋動物や無脊椎動物、海鳥の大量死の背後にある本当の理由(温暖化、食料供給の変化)への注目が遠ざかってしまった事だろうな。





福島原発事故に関しては様々な情報が錯綜している事もあり色んな疑問や不安があるようですが、それらの疑問に1つ1つ答えています。



あれから5年 3・11東日本大震災写真集
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