一
「ものちゅくりがすごい売れる」そう言われて何のことかわかる奴はそうそういない。「ものちゅくり(もの作り)」が指し示しているのはネトゲ内の「生産システム」というアイテムを合成できる機能のことだ。このブローカーが言っているのは、合成に必要な素材アイテムだか補助アイテムだかに価格を付けて販売をすると、飛ぶように売れるということで、それを興奮して「ものちゅくりがすごい売れる」と繰り返すものだから、どうにでもなれと思う。当時の私は月額料金方式のゲームサービスを運営していて、アイテム課金というものは未経験だった。業界としても月額料金がまだ主流であり、アイテム課金は「公式RMT(RMTはReal Money Tradingの略で、ゲーム内アイテムを現金売買すること)」とプレイヤーから呼ばれ貶まれる時代である。この話を持ち込んできたうさんくさいオッサン以上に課金方式に懸念があった。
「ものちゅくり」含めて、すでに日本語化してあり、売るアイテムもいっぱいあり、サーバーのスペックが低くて済み、ある程度の国内ファンが頑張って海外版で根強く遊んでいるという『龍ノ王(仮称)』。好きこのんで運営する気はさらさらなかったのだが、当時の大株主から派遣されてきていた韓国人のPという男が、肉弾接待でも受けたのか倍プッシュしてくるし、資金も出すからと言うので、仕方なく始めることにした。
ネトゲの運営タイトル決定について、組織的に売上予測まで立てて満場一致でガチでやっているところもあれば、専門チームが海外の開発企業に商談に行って検討するような場合もある。そういうふうにちゃんとしているべきだし、それが大半だと思う。だが、そういうトコロ以外は、社長が知り合いのツテで持ってきたとか、開発企業が資本を食い潰して行き詰まり、できてもいないゲームの海外営業権を切り売り&お買い得価格で放出して即決とか、そんなレベルでタイトル決定されている悲惨な状況も少なからずある。
とにかくPによって『龍の王』を押しつけられてしまったわけであるが、新しいサーバー機器を買わなければならなかったので、ハードウェアの要求スペックを開発企業に聞いた。古いタイトルだけあって、当時の標準的な新品を買ってくれば処理能力に不足はない感じだった。注文したサーバーのスペックを開発に伝えると「それはすごいですね!これなら一万五千人の同時接続を処理できますよ!このゲームは多人数で戦争をするのがウリなので、楽しくなりますよ!」みたいなことを言う。私はいちいちツッコミを韓国語で考えるのが面倒臭かったので「アラッソ(わかった、ってのをぶっきらぼうに言った感じ)」とだけ答え「一万五千人で戦争かー、こりゃいいネタになるなー」とプレスリリースのネタにすることにした。
契約金がン百万円くらいで、当時としては数千万円~一億円というのもザラにあったことを考えると破格値だったし、日本語化を改めてする必要がほとんどないというのもあって、広告にも多少の予算が回せた。今は亡きログイン誌や何やらに広告を出したし、バナー広告もいっぱい出した。だが、この『龍ノ王』をもってきたブローカーの胡散臭さにスタッフは全員感づいており、極端にモチベーションが下がっていたので、バナーを作ったのも、広告の版下原稿を作ったのも全部私だった。日本語化のなってない部分のチェックだけは、黙々とFくんがやってくれていた。