クリーニング屋でもらってきた大きなふくろにネコどもが夢中。
中に入るとクシャクシャと音がするのが楽しいらしい。かわるがわるに入りこみ、夢中で遊んでいる。現在いちばん人気のネコグッズと言えるだろう。ただの袋なんだが。
日中に遊んでいる分には何の問題もないし、むしろ安上りなネコたちだと感心するほどなんだが、深夜の二時くらいに暗闇のなかで「クシャ…クシャ…」なんて音が聞こえてくると、さすがに怖い。布団の中でうつらうつらしているから、ビクッとなる。「何!?」からの「ネコか…」である。
初めてネコを飼ったとき、いまじゃ死んでしまった毛玉という名のネコだったが、まだ家にネコがいるという事実に脳が慣れていなかったもんだから、深夜に縁側をトトト…と歩く音が聞こえるたびに、布団のなかでギョッとしたもんだった。「誰が歩いた!?」となっていた。ネコなんだが。
いまではネコの生活音が聞こえることにも慣れたから、足音でおどろくことはない。
しかし、夜中に寝ているとき、影千代(体重7キロ)が室内をブワーッと走っている音が聞こえてくると、これは死を覚悟する。暗闇のなかで聞く足音はネコのそれではない。感覚的にはバッファロー。「地ひびき」という表現が本当にぴったりくる。
ドドドドドドドッ!という音を聴きながら、私はブルブル震える。となりの布団からは三十六歳女性の「こわいこわいこわい!」という声が聞こえている。サバンナにテント張って寝ている気分である。
影千代は巨体を揺らしながら、せまい家の中を全力疾走し、人間の入った布団はモコッとした面白い障害物だと認識、気軽にポーン!と飛び越える。家のはしっこからはしっこへ、何かの大会が近いわけでもないのに、ひたすら続くシャトルランである。
さらに興奮すれば居間にある柱をガーッとよじのぼり、いちばん上まで行くとそこから一気に飛び降りる。空飛ぶバッファローである。そして無事に三十六歳女性の布団にドカッと着地、
「ぎゃっ!」
という声を聞くも完全に無視、そのままシャトルランを再開すると、騒ぎに興奮したセツシが「僕もやる!」と妙な意気込みを見せてしまい、バッファローが二匹に増える。またも始まったドドドドドッ!という音を聞きながら、布団の中の私は「今度は俺だ、今度は俺だ」とふるえている。
やがて影千代が私の顔面近くをピャッと飛び越えていき、それを追ったセツシが私の顔面をスプリングボードにして決死の跳躍。私が「うわっ!」とさけんだ直後、となりの布団からは本日二度目の「ぎゃっ!」が聞こえて、さすがに我慢の限界をむかえた三十六歳女性が電気をつける。
「いいかげんにして!寝れないでしょ!」
ネコに説教する三十六歳だが、影千代とセツシはあいかわらず室内を全力疾走。馬の耳に念仏、猫の耳に説教。ほんとうになんなのか。何かの大会が近いのか。口の中に入ったネコの毛を取りながら、われわれの夜は更けていく。