イギリスの首都ロンドン市において、都市環境の重要施策の一つとして進められている「新型自転車道」の整備。
 各路線が着実に完成に至り、ついにGoogleストリートビューでも表示されるようになりました。
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CS7 A3(位置
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CS5 A202 Vauxhall Bridge(位置
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CSNW(位置
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St George's Road(位置

 2013年11月の大規模自転車デモから僅か2年余り、従前から計画はあったとはいえ、デモを受けた方針転換促進からこの短期間でその姿を現しています。

 今回もロンドン市のこれまでの自転車走行環境整備をまとめておくと、
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図1-1: ロンドン市の「従来型」Cycle Superhighways(CS): 整備済み4路線
(中央部桃色範囲: CIty of London

 自転車通勤を行うほどの愛好者であるボリス・ジョンソン市長は、2012年のロンドンオリンピックを意識し、2010・2011年に「Cycle Superhighway」と呼ぶ4路線の自転車走行空間を整備。(※計画は先代のリヴィングストン市長によるもの)
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「サイクルスーパーハイウェイ」の整備イメージ
(引用元:pdf)

 安全で快適な走行空間を整備し、交通渋滞や道路環境などの問題解決の切り札として自転車利用を推進していく戦略を打ち出した。

 しかしその整備の実態は「スーパーハイウェイ」等という名称とは似ても似つかず、
【引用元】
ロンドンの新型自転車道(サイクルスーパーハイウェイCS5)※整備前
ロンドン市の自転車走行空間(サイクルスーパーハイウェイCS2・CS3)2014年版
ロンドン市の自転車走行空間(サイクルスーパーハイウェイCS7・CS8)2014年版

 自動車に潰されるために作られたかのような「自転車レーン」と「車道混在」が大半。

 安全な自転車走行空間であると行政が言い張るこれらの路線で、2013年11月に自転車の死亡事故が多発。
 更には失言癖のあるボリス市長が「交通ルールを守らない自転車に命の保証はない」と言い放った結果、
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※死亡事故多発後に市内で行われた「die-in protest」

 自転車死亡事故、そして安全でも快適でもない杜撰な自転車走行環境整備に猛抗議する、大規模デモが発生。
 結果としてボリス市長は、自転車レーン・車道混在を中心としたスーパーハイウェイ整備の中断に追い込まれ、従前から計画していた「新型自転車道」整備に前倒しで注力することになる。

【参考:ロンドン市のこれまでの経緯】 
ロンドン市の新型自転車道「サイクルスーパーハイウェイ南北線(CSNS)」整備着工


 2015年に路線が一部完成し始め、その様子をストリートビューで見てみます。
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CS7: A3(位置

 スーパーハイウェイ7号線。この路線はもともとは
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 完全な路肩ペイントの自転車レーン路線であり、
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 交差点手前には「バイクボックス」が設置。それが改修工事によって
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 危険な自転車レーンもバイクボックスも撤去。自転車と自動車の相克が少なく済む、構造分離型に改修されています。
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 自転車走路が自動車に潰されることも無く、歩行者と自転車の完全な通行位置分離も難なく実現。
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 バス停部では自転車走路がシフトしていき、
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 バス停を「交通島」方式にし、バス停と歩道の間を自転車走路が抜いていく形で整備。
 自転車レーンの欠陥の一つである、自転車とバスの相互進路阻害、バス(停留乗降中)による自転車走行の疎外という問題をこれも解決。
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 まだ整備は道路片側だけで、反対側はもう一本追加されるのか、改修工事中です。

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CS5 A202 Vauxhall Bridge(位置

 次は5号線。ヴォクソール橋という著名橋を通行する路線ですが、
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 ここは片側集約の双方向通行なので、自転車道を横断する歩行者に対し「両側から来る自転車に注意」というサインを立て啓発を行っています。
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 交差点処理。自転車道と車道の間にスペース(=緩衝帯)があるため、左折自動車は自転車走路を横断する前にひと段落置くことが出来ます。
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 ヴォクソール橋。ここは従前はバス自転車共用レーンだったのですが、両者交錯という課題を解決するため、両者の走路を構造分離しています。
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 この路線の自転車道は片側にしか設置されず、反対側は車道混在+バイクボックスという、かつての旧式CSを踏襲する形になっています。

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CSNW(位置

 これはスーパーハイウェイ南北線。整備中の東西線と並び、新型自転車道整備の象徴となっている路線です。
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 ここも従来は単なる車道混在だったのが、自転車道整備のために自動車車線を削減。
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 工事中のフェンスに張られたイメージ図は、

 新型整備の計画公表時、ロンドン市が各種資料で繰り返しPRしていたもの。
 まさかこれが僅か2年で実現するとは・・・
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 この路線も片側集約の双方向通行なので、自動車の乗り入れ部には双方向への注意喚起を促している。
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 こちらもバス停は交通島方式。幅2mほどに潤沢に確保された「緩衝帯」をそのままバス停に活用し、歩行者・自転車・乗降客・バスが完全に分離される形態になっています。
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 歩道から緩衝帯へ渡る箇所を、歩行者からも自転車からも分かりやすくするために色分け。
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 横断歩道手前。バイクボックスを撤去し、車道と自転車道はきちんと分離。
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 これが整備前の形態。今回の改修で、バスと自転車の走路重複の解消、追突死亡事故リスクのあるバイクボックスの撤去に成功しています。

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St George's Road(位置

 こちらは路線不明(未確認)ながら、隣接してロンドンのシェアサイクルピットが設置されています。
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 ここも双方向通行への注意喚起。

 ここまで見てきたように、CSの多くが片側集約の双方向通行自転車道という形態で整備されている。
 そこには当然懸念される問題があり、
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 反対側の自転車道ではなく、従来通り車道左端を走行する自転車の存在。


 構造分離の自転車道を設置する、これ自体には成功し、自転車道を走っていれば従来より格段に安全・安心・快適が実現するようになったものの、いかんせん片側にしかないため利用には不便もある。

 自動車車線削減の限界、悪意を持って言えば「自動車交通量削減にそこまでは踏み込めなかった」、同情的に言えば「ロンドンバスの通行に考慮して」、推定3mの自転車道一つ分の1車線しか潰せなかった、これが実情ではないかと思われます。

 一方でこれらをもし、道路両側に幅1.5mの一方通行自転車道を設置していれば?
 15km/h程度のシェアサイクルを、25km/hのロードバイクが追い越せない問題が多発。おそらく多数の自転車が車道に出てしまい、自転車道利用は破綻する。
 そしてこれは、ママチャリとスポーツ自転車が混在する日本でもまったく同じ。一方通行自転車道の事例が山形ほっとなる通り、国立大学通り、川崎駅前アンダーパスなど非常に少ないのもこれを示しています。


 またロンドン市の自転車道の問題は、今回はすべて整備途中で写真確認できなかったため省略しましたが、複雑怪奇な大型ラウンドアバウト「Gyratory」の存在もある。
 写真公開時に紹介予定ですが、自転車道によって自転車はきちんと走れるのか、ロンドン市役所がどう対応するのか、注視されるところです。


 以上のように、未だ様々な課題や検討項目は残るものの、ロンドン市民が待ち望んでいた安全・安心・快適が目に見える形になった。
 世界最大の自転車大国オランダに追付くため、ロンドンは本気になって自転車利用推進を行おうとしている。

 自転車レーン・自転車ナビマーク/自転車ナビライン・バイクボックスを撤去し、誰もがストレスを感じない自転車道を整備する。ロンドン市の自転車政策の切り札です。


【参考】
ブログ主要記事まとめ
(※国内外の自転車走行空間の整備事例、事故分析、自転車政策の検証などを行っています。)