2016年3月9日(水)

マツダのディーゼルエンジンは排ガス不正の独VWとどこが違うのか?

マツダ絶好調の秘密はここにある!【6】

PRESIDENT Online スペシャル /PRESIDENT BOOKS

著者
宮本 喜一 
ジャーナリスト

1948年奈良市生まれ。71年一橋大学社会学部卒業、74年同経済学部卒業。同年ソニー株式会社に入社し、おもに広報、マーケティングを担当。94年マイクロソフト株式会社に入社、マーケティングを担当。98年独立して執筆活動をはじめ、現在に至る。主な著書に『マツダはなぜ、よみがえったのか?』(日経BP社)、『本田宗一郎と遊園地』(ワック)や、翻訳書『ジャック・ウェルチわが経営(上・下)』(日本経済新聞出版社)、『ドラッカーの講義』(アチーブメント出版)、『勇気ある人々』(英治出版)などほか多数。

執筆記事一覧

ジャーナリスト 宮本喜一=文
previous page
3

独自の新しい乗用車を開発できるはずだ

マツダがこの独創的なディーゼルエンジン開発に着手したのは、今から10年前、2006年。折しもこの前年の2005年、国土交通省は国内で販売されるディーゼル自動車の排出ガス規制を強化する“新長期規制”を策定。さらに2009年にはこの規制は“ポスト新長期規制”となり一層厳しさを増した。このため、当時、国内のディーゼル乗用車販売は壊滅状態。というのも、ディーゼル車は排気ガスに問題があり、環境保全にマイナスという印象が国内の自動車市場に定着してしまっていたからだ。具体的には、排気ガスが汚い、音がうるさい、振動が大きい、高速でよく走らない、しかも車両の価格が高い、といった弱点を製品レベルで克服できていなかった。

マツダの開発陣は、このディーゼルエンジンの刷新にチャレンジする。そこには、革新的なディーゼルエンジンを核にすることによって、マツダ独自の新しい乗用車を開発すべきでありできるはずだという読みがあった。

革新的なディーゼルエンジン開発のカギは、このディーゼルエンジンの弱点を完全に克服することにあった。つまり、排気ガスを清浄化し、騒音と振動を抑え込み、高速でも快適に走り、しかも価格も消費者の手の届く水準にまでおさえる、裏返して言えば、それまでのディーゼルエンジンの持っている弱点をことごとく覆す、そんなディーゼルエンジンの開発こそがカギ、という意味だ。

排気ガスに問題があることで消費者の人気が衰退してしまったとはいえ、本来のディーゼルエンジンの長所はなんといってもガソリンエンジンよりも優れた燃料消費性能にある。というのも、圧縮比が16から18程度と高いために、一般的に9から11程度の圧縮比を持つガソリンエンジンよりも高い出力が得られるからだ。空気と燃料の混合気を圧縮する率、圧縮比が高ければ高いほど、燃焼したときに発生するエネルギーが大きくなるのだ。その種の教科書にも、「圧縮比を上げると熱効率が向上する」と書いてある、と寺沢は言う。

ただし、ディーゼルエンジンの場合、圧縮比を高くすればするほど排気ガス中のNOxが増加するという弱点が顕著に現れてくる。従来のディーゼルエンジンの開発では、一般的に、高い出力が得られる高い圧縮率の維持を優先させ、高圧縮に伴う弱点については、浄化装置に工夫をして出力の低下を抑え込む対策に重点を置いていた。つまり高圧縮の維持と排気ガス浄化装置のいわば“妥協点”を探る手法をとっていたのだ。

(文中敬称略)

『ロマンとソロバン』(プレジデント社)
ロマンとソロバン

[著] 宮本 喜一  

独自の環境技術「SKYACTIV」の開発が、クルマを、社員を、そしてマツダを変えた! 危機を乗り越えたあとの安堵感が、また新たな危機を招くものだ。そんな歴史を繰り返してはならない、小飼マツダ社長の考えは明解だ。

  • Amazonで購入
  • PRESIDENTオンラインストアで購入
書籍詳細ページ

PickUp