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「決断しない」という「決断」 『冷たい熱帯魚』を見た

huluで配信されていたので見てみた。 R18でエログロ要素が入った実際の殺人事件をベースにしたホラー映画。国内外でもかなり評価は高いし、自分としても凄くいい映画だったように思う。が、もう見たくない。以下ネタバレ含みの感想。

冷たい熱帯魚

冷たい熱帯魚

リアリティーすごい

最初は展開が早すぎてついていけなかった感じがしたけど、だんだんと、太宰治の「人間失格」を読んでたような気分になって引き込まれていった。 でんでん演じる村田のキャラクター。明るいひょうきんおじさん感を出してズケズケと人の懐に入り込んでくる様が、ああ、こんなおじさんいるよね…感をありありと感じさせる。のと同時に、気に入らなくなると人を脅してたぶらかして容赦無い暴力で全てを意のままにしようとするメッチャ声のデカイ怖いおじさんの演技、そしてその豹変ぷりの自然さ。リアリティがありすぎてそれだけでも引き込まれる。引き込まれるというよりも引きずり込まれる、逃れられなくなる、と言ったほうが正しいのかもしれない。 絵に描いたような気弱でおとなしくて虫も殺せないような小市民ぷりが溢れ出る主人公の社本。吹越満演じる社本の迫真のビビりっぷりは、自分があの場にいたら絶対ああなるだろうな…という感じを思わせる。自分の小市民ぷりも相まって、村田に脅される社本に感情移入しすぎるのだろうか、村田が大声を出したら最後、もう画面を閉じられなくなった。村田に脅され、画面を閉じるなこっち見ろ最後まで見続けろとがなり怒鳴られるような感覚になって、ずっと見てしまった。

「決断しない」も「決断」の一つ

ひょんなことから村田と出会った、というか目をつけられた社本は何だか訳のわからない内に村田の犯罪の片棒を担がされることになる。冴えないおじさんがひょんなことから犯罪に巻き込まれ…というのは自分が最近見たものだとブレイキング・バッドも共通しているかもしれない。あっちは冴えない貧乏中年高校教師のウォルターがガンで余命僅かな事を宣告され、自分が死んでも家族が困らないように犯罪に手を染めて大金を手にしようと…というもの。ウォルターは犯罪に対して自分から足を突っ込んでいったから違うかもしれないけど。ただ、小市民が犯罪に足を突っ込んだら最後、小市民たるみみっちい判断が裏目裏目に出て、結果泥沼の底の底まで堕ちていくというのは同じだ。ブレイキング・バッドはじわじわズブズブとどうしようもない方向へ足が引きずり込まれる恐怖を味わえるのだけれど、冷たい熱帯魚は落とし穴に落ちるような感じで、ストーンと一気に落とされる感覚がある。

社本家は主人公で一家の父親である社本と、死に別れた前妻との娘の美津子、そして再婚した妻の妙子の3人家族。前妻が亡くなって3年ほどで再婚したという父親に対しての不満、そして後妻へのお前なんか本当の母親じゃないしという強い気持ちがある美津子はグレて、妙子に暴力をふるったりヤンキーと付き合ったり万引きをしたりする始末。で、その万引き行為を「見かねて」という体で、村田が美津子を自分の会社の寮に住まわせ、社会復帰を手助けしてやろうじゃないかという。美津子としても家を出たいという気持ちで満々だったので願ったり叶ったり。その展開の速さについていけず何も言えない社本。後日、美津子の様子を見に来いという村田に会いに行くと、そこに一緒に居たヤクザが村田に殺され、村田にお前も死体処理手伝えやと脅されて死体遺棄の共犯となる。

そしてまた別のヤクザを殺した時にも死体処理を手伝わされ、それが終わって一息ついた時に、ホラーパートが始まる。殺人シーンも死体処理シーンもホラーでもなんでもない。

なんで社本がこんな目に遭うのか。なんで社本が村田に目をつけられたのか。それは社本が「決断をしない」優男だったから。美津子も高校生くらいのいい歳の娘なので、父親が再婚したということは多分ふたりともセックスしてるんだろうなというのは予想できる。親のそういう事情に思春期真っ盛りの娘が激しい嫌悪感を抱くのも無理は無い。そんな嫌悪感に加えて社本が娘と後妻とのいざこざに対しても何も言えないのもあって娘はグレて家を出る決断をした。連れ子との関係に何もしてくれず、社本の営む閑古鳥の鳴くような寂れた熱帯魚屋の手伝いをさせて退屈な時間を与えられるだけの妙子は嫌気が差して、社本とは正反対の村田に抱かれるという決断をした。そして脅されてもノーと言う決断もできずビクビクオドオドしながら村田に言われるがままに犯罪の助手というか子分にされた社本。どうしてこうなった。全てお前が波風立てまいと決断たる決断をして毅然な態度で物事に当たらなかったせいだと村田は社元に言うシーン。全ての責任を社本に押し付けるのはどうよとも思えなくはないが、社本がそれらにたいして重要な位置にいながらも何もしなかったのは事実であり、それを理解した瞬間にどん底に落とされた気になり、ゾッとする。なんかテレビから髪の長い不気味な女が出てきた!きゃー!みたいな怖さとはまた別次元の、事実の事件を元にしているという現実とのリンクがあるからこそ、お前にも起こりうるんだよという恐怖感を与えられる。

自分で見ているときに何度もシークバーを確認した。いつになったらこれ終わるんだ…と思いながら見ていたのだ。それはつまらないので早く終わって欲しいという意味じゃなくて、社本の怯えっぷりが物凄く共感できてしまったため見ていて苦しい感じが早く終わって欲しいんだけど、何故か見るのをやめられないという自分でもよく分からない矛盾した気持ちからの行為だった。「嫌なら見なきゃいい」で終わるようなことなんだけど、その社本への共感と村田の迫力に圧倒されて、停止ボタンを押せなかった。停止ボタンを押せない自分もまた、決断しないという決断をしているような気分になって。より一層共感度と没入感と恐怖感を味わえた感じがする。

やりたいことをやる痛み

村田は「やりたいことをやれ!」と言う。みんながやりたいことをやりたい放題やってたらこの世はメチャクチャになる。けど自分だけはそれを押し通したい。村田がそれを押し通すことができたのは暴力という手段に出たから。使えそうな奴は暴力と脅迫で自分の駒にする。どうにもならないやつはぶっ殺して、証拠がバレないようにボディを透明にする(完璧なまでに死体処理をして物的証拠を残さない)。 天体が好きな社本に対して村田は「地球みたいに丸いのが大っ嫌いなんだ!」と言う。無骨な岩のようにゴツゴツしたものが好きだと言う。自身も小さい頃は社本のようにビクビクオドオドした性格だったと言う。何に対しても引っかかること無く、角の立たない丸いもの。人間の本質はそれぞれの価値観とそれを通したいという主張が小さな突起のように飛び出たゴツゴツした岩のようなものであり、何の主張も持たない球体たる幼いころの村田がそんなゴツゴツした岩になるためには暴力を持ってして自らを砕いて突起をつくるか、暴力を持ってして自らの拳を痛めようと他の岩を砕いて削って丸くするかという極端な手段をとるしか思いつかなかったのかもしれない。自らの拳が傷ついてでも殴らなければ、自身の主張は押し通らないと言っているような。 村田が妙子とヤったと社本に言った時に、それまでずっと怯え続けていた社本はついにキレて村田に殴りかかる。で、その社本の反抗に村田は逆ギレして更に拳で抑えこむのかと思ったら、もっと殴れと煽る。煽るというよりも、社本の反抗を喜んでいるようにも見える。ただ、共犯者というか殺人助手として社本にもっと胆力をつけて欲しかったから煽ったのか。社本に幼少の自分を見出し、その姿に自分の哲学を教えてあげたいという気持ちから社本に自分を殴らせたのか。なんかどっちも考えられる。

人生は痛い

村田に暴力という手段を教わった社本は恩を仇で返すというか、そもそも恩なんてもらってもいないんだけど、まぁ何やかんやで暴力で持って村田を殺す。そしてまごうこと無く殺人者となった社本、もう先は長くないと悟ったのか、自暴自棄になりながらも最後に自信の夢であった美津子と妙子と3人仲良く暮らしている姿を実現しようとする。暴力で。優男だった社本が、妙子を怒鳴りつけて食事の用意をさせる。美津子がヤンキー彼氏からの電話をとってそのまま家族の食事を抜けて彼氏に会いに行こうとすれば、愛の鉄拳で殴って呼び戻す。ついでにヤンキー彼氏もボコる。もちろん一家団欒の食事タイムだけでなく妙子とも家で色々気遣うこと無くセックスするのも夢だったので、暴力を持ってして無理やり押し倒して犯す。同じ部屋に美津子がいてもお構いなし。美津子がそれに気づいて驚きと怒りと嫌悪を含みながら「何してんだよお前ら!」と叫べば、愛の鉄拳制裁。これにて社本の夢も叶ったし幸せだね♪…となるはずはない。こんな夢の叶い方、痛々しすぎる。そもそも叶ったなんて言えない。暴力を持ってして、自分の拳から血をにじませ痛い思いをしながら手に入れた夢は夢じゃなかった。もっと別の、痛い思いをして手に入れるべきだったんだろう。

なんでかは分からないけど、村田に続いて村田の妻も殺して、自身の妻妙子も殺して、妙子を殺した刃を美津子に向ける。その刃で美津子を突っつくと、美津子は「痛い!」と叫ぶ。それを聞いて社本は美津子に言葉を残す。叫びながら「人生は痛いんだよ!!」と叫ぶ。そんな最後の言葉を美津子に残して、その刃で自殺。美津子は何とか守ることが出来た。妙子を殺すことで、美津子の障害となりうるものは排除できた。そして身を持って知った尊い教訓「人生は痛い」という言葉も美津子に授けることが出来た。これにて全て丸く収まった…と思ったら社本の死に顔を見ながら美津子が「やっと死にやがったクソ親父www」と嘲笑いながら終わる。最悪だ。最悪の終わり方だ。痛すぎるだろ。村田の暴力よりも、社本の叫びよりも、美津子の笑いのほうが圧倒的に痛かった。人生は痛いんだ、なんて知ったふうな言葉で丸く収めようとしても、ゴツゴツした突起によってそれはいともたやすく破られた。最終的に自身の最後の言葉が10000倍くらいの強さで跳ね返ってきて途方も無い痛みを伴いながら死んでいった社本を思うと、後味が悪すぎる。この終わり方をさせておいて、「素晴らしきこの世界」なんて宣伝文句をつける辺りはもうぶっとんでるとしか思えない。

とにかくストーリー性とかストーリー展開とかよりも、ポイントポイントでのメッセージ性が物凄く強かったように思える。わずか数分のためのメッセージのための前振りが2時間かかる、くらいの感覚。ただ、その分だけメッセージと恐怖感の強烈さが半端ない。後味はもうホントに悪いけど、ただそれでもこれだけ強力なインパクトを与えられるのは凄いし良い映画だと思う。