|
2016年の世界アンチドーピング機構（WADA）禁止表に追加された「メルドニウム」という物質による違反報告が相次いでいます．もともとは心不全，狭心症，心筋梗塞のための治療薬で，心筋の収縮力を高め，末梢循環を改善する効果があります．日本では医薬品として認められておらず，アメリカの食品医薬品局（FDA）でも認可されていません．ラトビア，ロシア，ウクライナ，モルドバ，ベラルーシ，アゼルバイジャン，アルメニアで使用されており，特にラトビアでは重要な輸出品目になっているようです．
心筋収縮力向上効果の可能性があるとして，2015年のWADA禁止表の監視物質に上げられていましたが，モニターの結果陽性事例が多く，しかもWADAが競技力向上目的で競技者によって使用された事実があると認定したため，2016年から「常に禁止される物質と方法」のリストに記載されています． この禁止表は2015年の9月に英文版が全世界に公表されており，3ヶ月以上の周知期間をおいて今年の1月から適応されているものです． 和訳版は日本アンチドーピング機構（JADA）のページで見ることができます． http://www.playtruejapan.org/downloads/prohabited_list/2016_ProhibitedList_JP.pdf 医薬品として認可されているロシアでの検出率が高いことが指摘されており，2015年のモニターでは4316検体中724で陽性という情報もあるようです． 今回，テニス，陸上，フィギュアスケート，自転車，バイアスロンという複数の競技にわたるトップアスリートでの陽性が報告されました．規則変更を知らなかったのかもしれませんが，競技に出場するアスリートが治療のために用いる医薬品ではないので，競技力向上を目的としていたとされても否定できないのではないでしょうか．おそらく，多くの競技者は「ドーピング防止規則に違反しないが競技力向上効果がある物質」と認識していたのでしょう．たとえそうだとしても，違反は違反．しかもメルドニウムは制裁を軽減できる「特定物質」にはならない扱いになっています（WADA禁止表にそのように明記されています）．現在の規則では資格停止は原則4年．今後どのようなことになるのか，注視が必要です． |
この記事に