個人消費や雇用、設備投資、物価などに関する統計はわたしたちの経済活動や生活を映す鏡だ。
その正確さはもちろん、透明性の高い公表の方法もきわめて大事だ。しかし、足元で懸念される事態が起きている。
問題は経済産業省による鉱工業指数という統計である。国内総生産(GDP)の推計などに使われるきわめて重要な基礎統計だ。
経産省は今年3月分の速報を発表する4月から、公表時間をそれまでの午前8時50分から午後3時30分に変更すると発表した。確報段階で公表していた鉱工業出荷内訳表を速報で公表するため、一定の時間がかかるという。
日本の経済統計の大半が午前8時30分か8時50分に公表されている。株式市場が開く前に公表することで、市場がその内容を適正に評価しやすくするのがねらいだ。欧米でも同様だ。
速報の内容を充実しようという経産省の意図は理解できるが、その代償として公表時間が遅くなる弊害は大きい。再考を求めたい。
さらに疑問が残るのは、統計の公表予定日について、今年2月分の速報を発表する3月30日までしか決めていないことだ。
重要な統計がいつ公表されるかわからなければ、データを利用する企業や個人、投資家にとっての利便性が大きく損なわれる。経産省は少なくとも年末までの公表予定日を早く決めて周知すべきだ。
日本の経済統計の課題は山積している。その一例が、速報値と改定値の結果が大きく異なりがちなGDP統計だ。
改定値には財務省の法人企業統計の結果が反映される。混乱を避けるならば、GDP速報値に間に合うように法人企業統計の公表日を大幅に早めてはどうか。
欧州連合(EU)統計局は今年1~3月分のGDPから公表日を約2週間前倒しする。ほぼ米国と同じタイミングとなる。先進国で取り残される形の日本も、早さと正確さを同時に追求してほしい。
消費関連の経済統計も課題だ。家計調査や商業動態統計などが乱立する一方、モノやサービス、ネット販売など総合的に消費を把握する統計がないのは問題だ。
経済統計は、政府・日銀の政策運営に重要な影響を与える。その信頼を高めるには不断の努力が要る。マクロ経済政策の司令塔である政府の経済財政諮問会議は率先して事態の改善にあたるべきだ。