宋美玄のママライフ実況中継

2016年3月9日

子どもを産んだら必ず育てましょう!? 驚愕の「母子保健のあゆみ」

ぷくぷくしてかわいいです

 先週末に娘の幼稚園で生活発表会がありました。娘は小さな忍者になって飛んだり跳ねたりしていました。お歌を歌う時は大きな口を開けて一生懸命歌っていて、とても可愛(かわい)かったです。息子はおっぱいをひたすら飲んで、みるみる大きくなり、手首が腱鞘(けんしょう)炎寸前です。

 先日、読売新聞医療部の中島久美子さんに勧められて、国立公文書館の「母子保健のあゆみ展」に行ってきました。昭和41年の母子保健法施行から50周年を記念して、同館所蔵の資料などを基に開かれたものです。明治以降の産科婦人科学や産婆養成の制度の歴史は中島さんの記事にまとめられています(http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=130816)。

 母子の保護や保健にかかわる施策が行われ始めたのは、大正から昭和初期にかけての頃。大正9年(1920年)の大戦後の恐慌、大正12年の関東大震災後の震災恐慌、昭和4年(1929年)の世界恐慌の余波を受けた昭和恐慌と不況が続いたことで国民生活が窮迫し、母子をめぐる環境が悪化した背景があったということです。産後5週までの産婦や、妊婦の就業が法律で制限されるようになりました。

 この頃の産後1か月の過ごし方についての心得は興味深く、産後2~3日は十分に睡眠をとり、産後2日目くらいから授乳を始めるとありました。また、不規則な授乳リズムでは赤ちゃんの胃腸を悪くするため規則正しくとあり、このあたりは現代医学との違いがみられました。

お国のために国民の人生に口出しする時代

 最も興味深いのは戦時下の国策としての母子保健です。「産めよ()やせよ」と国が言っていた時代ですが、人口政策確立要綱によれば婚姻年齢を3歳早めて男性は25歳までに、女性は21歳までに、夫婦からの出生数を平均5人にという方策が掲げられていました。さすが戦時下、お国のために国民の人生に口出ししまくりだったのですね。今では考えられません。

 そして、私がこの展示で最もびっくりしたのは、乳幼児の死亡率の改善のため「生んだ子は必ず育てよう」と広報されていたことです。長引く経済不況のために捨て子や乳幼児の虐待が相次ぎ、昭和8年に児童虐待防止法が公布されたとのことですが、昭和18年に「生んだ子は必ず育てよう」と言われていたのでした。バースコントロールがなかった時代には妊娠して産んだものの育てないという選択肢もあったのか(おそらく、そうせざるを得なかったのでしょうが)、と時代の違いを感じました。今でも捨て子の事件はニュースで聞きますが、逆に言うとニュースになるほど珍しいわけです。そういったニュースを見て、「近頃の若い者はけしからん」という人にはこの展示を見せたいです。

格差や貧困対策も母子保健では重要

 戦後、母子手帳や3歳児健診などが普及し、母子保健の取り組みによって乳児死亡率が激減して行く様子が展示では伝えられ、確実に母子をめぐる環境は昔よりよくなっていることが分かりました。ただ、経済状況が良くないと母子をめぐる環境は悪くなることを知り、現代で問題になっている格差社会や貧困対策は母子保健の点でも大事なのではないかと思いました。

 古くから母子保健のためにさまざまな取り組みがなされてきましたが、少子化に直面している現代においても今まで以上の行政の取り組みをお願いしたいです。

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プロフィル
写真
宋 美玄(そん・みひょん)
 
産婦人科医、性科学者。
1976年、神戸市生まれ。川崎医科大学講師、ロンドン大学病院留学を経て、2010年から国内で産婦人科医として勤務。主な著書に「女医が教える本当に気持ちのいいセックス」(ブックマン社)など。詳しくはこちら
 
このブログが本になりました。「内診台から覗いた高齢出産の真実」(中央公論新社、税別740円)について、詳しくはこちら
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