加賀百万石の城下町、石川県金沢市で50年前から根強い人気を誇っているご当地チェーン「8番らーめん」をご存知でしょうか?
金沢では「8番らーめんを食べたことのない人は存在しない」と言われるほど、驚異的な知名度を誇ります。
そんな石川県のソウルフード「8番らーめん」ですが、今回は地元の常連客の間でひそかに流行している、自分流にカスタマイズしたツウの食べ方をご紹介します。「バター風味増し増し増しラーメン」「鶏の唐揚げと餃子のタレ入り塩ラーメン」など、呼び名からしてすでにハードコアな雰囲気ですが、実際の味もインパクトがあります。
ではまず、石川県外の方に向けて、「8番らーめん」をご紹介します。
石川県民を魅了する「なぜかクセになる味」 あっさりスープだけど中毒性は高い
「8番らーめん」が石川県で絶大な人気を誇る秘密は、「なぜかクセになる味」でしょう。鶏ガラ、豚骨、魚貝類に、しょうが、にんにくで取ったあっさり味のスープ、さらに、8番オリジナルのちぢれた太麺が特徴です。創業当時の1967年、試行錯誤の末に完成した、四角い麺とスープが、実によく合うのです。
定番「野菜ラーメン」には、醤油、塩、味噌、バター風味(ベースは塩)、とんこつの5種類の味があります。注文の約7~8割が塩と味噌となっているそうです。
もっちりコシのあるちぢれ麺が、スープをからめとり口の中で一気に広がる瞬間は、うまい!のひと言。金沢の人が、「毎日、8番(らーめん)を食べとっても飽きがこんがや(飽きない)」と断言するのも納得のお味です。
当然ですが常連客は多く、1週間に3~4日は普通。毎日やってくる常連さんもいるそうです。たっぷり野菜のヘルシー志向と、さっぱりした味は、金沢人の味覚にマッチしたのでしょう。あっさりスープだけど中毒性が高いのです。
予想外の味わいに感動する!バター風味増し増し増しらーめん
正式メニューにはないがコアな常連客が勝手に考案した裏的なメニューは石川県民の間でもネット、リアルを問わず様々なものが伝承されています。
たとえば「ポテトらーめん…塩らーめんにフライドポテトを乗せて、スープをつけて食べるとやみつきになる」(ポテトフライは、単品のからあげに添えられている)とか、「味噌らーめん辛極…ラー油、胡椒をひとビン丸ごと投入!」といった感じです。
お店の人にさらなるリサーチを試みたところ、驚きのレシピを教えてくれました。そのひとつが「バター(風味)増し増し増しらーめん」です。
「増し」とは、トッピングを追加するという意味。バター風味の固形調味料、2つでワンセットが税込み54円なのですが、これを味噌らーめんにトッピングして食べるというもの。
このバター(風味)のトッピングはしつこさを抑えた8番特製の調味料で、牛乳と植物性油も合わせたコンパウンドです。まろやかな風味とコクを演出してくれます。
「バター(風味)増し」を注文すると、トッピングされるのは2個。しかし、コアな常連は「増し、増し、増し」の3連発で注文するそうです。つまり、味噌らーめんに濃厚なバター風味をドカーンと6個乗せ。さらにその上に8番特製のギョーザ専用ごまラー油をドバッとかけるのだそうです。
果たして、どんな味なのでしょうか、さっそく食べてみました。
6個のバター(風味)が、アツアツの味噌スープに融け出して、ドロリとしたところを、麺と野菜にからめてほおばると、「えっ、ウソッ……」なんとこれが、甘いんです!豊潤でまろやかな味噌甘テイスト。予想外の味わいになぜか感動してしまいました。
実は8番の味噌にはこだわりがあって、米、大豆、麦、キヌア、黍(きび)、五穀の味噌を使っています。そのため独特の甘味とコクがあるそうです。その甘みが、たっぷりのバター(風味)と融け合って、「クリーム味噌ラーメン」とでも言うべきインパクトのある味に変身。その風味はキャラメル・マキアートのキャラメルソースに近いものがあります。
「塩らーめん+鶏唐揚げ」にギョーザのタレをぶち込む超ハイカロメニュー
さて、続いてもうひと品。こちらも8番人気の一品、鶏の唐揚げを塩ラーメンに浸して食べるという超カロリー・ハイな大胆メニュー。さらに8番特製ギョーザのタレを、ドバッとかけると激ウマになるというもの。
唐揚げ
塩らーめん
「鶏の唐揚げ」は人気のサイドメニューです。普通の鶏の唐揚げにもも肉を使いますが、8番ではあえてむね肉を使っているそうです。「えっ、むね肉?あのパサパサの?」と普通は思います。しかし、8番ではラーメンに合うよう一晩塩麹に漬け、うまみと水分をたっぷり吸わせて、お客に出す直前にカラリと揚げているのです。
この唐揚げを塩らーめんにぶち込み、餃子のタレをたっぷりかけていただいてみました。
「堪らん、うまい!」
本来、8番の塩らーめんは、さっぱりスープと野菜の旨味が合わさったラーメン。これはこれで満足のおいしさです。
そこへギョーザのたれで、酢の酸味、醤油のうま味とラー油の辛みがいきなり乱入!さらに噛みごたえある唐揚げ。塩麹の旨みと、野菜の甘み、酢、塩、醤油が渾然一体となった得も言われぬ新味のスープへと変貌したわけです。
8番らーめんをこれでもかというくらいに食べ尽くしたコアな常連客だからこそたどり着いた味。一杯のらーめんで、ハチバン人気の奥深さまでも教えられた気がします。これぞ、究極のカスタマイズ。ラーメン屋さんにこんな楽しみ方があったとは…金沢へいらした折には「8番らーめん」のカスタマイズをぜひお試しください。ただし味覚への飽くなきカスタマイズは、くれぐれも自己責任で。
今回紹介したお店
8番らーめんは石川県内に多数の店舗を展開しています。観光地である兼六園周辺の笠舞店など金沢市内に20店舗。さらに富山県や福井県など、北陸地方合計で100店以上のお店があります。今回、おじゃました北陸新幹線の開通でにぎわう金沢駅店。
「8番らーめん」は、他のラーメン専門店とは少し違って、ラーメンの味、調理法など、本部が統括指導しているチェーン店です。マニュアルがあるとは言うものの、料理の中でもっとも難しいのが、野菜ラーメンの調理。季節によって変わる野菜の質を見極め、強い火力で瞬時に炒め上げることで、野菜のうまみを閉じ込め、シャキッとした食感を生かしきります。なんと火加減は、マニュアルにないカンと経験の世界。
店長の谷口さんは、「野菜の調理が一番むずかしいですね。あっさりしているけれど、飽きがこなくて、毎日でも食べたくなる味をめざして頑張っています」と語ります。
味付けをより濃くし、店の特長を出していかないと生き残れないと言われるラーメン業界にあって、創業以来、あっさり味の野菜ラーメンを貫く8番らーめん。8番を支えているのは、地味な中に、自分だけの楽しみを見いだそうとする北陸の小都市に根づいた、金沢人気質なのかもしれません。
金沢・兼六園周辺のグルメ情報
プロフィール
yasu(たかやなぎ・やすお) 1958年金沢市生まれ
フリーランスライター ビデオ作家
母の介護のため大阪と金沢を行ったり来たり