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【コラム】

筆洗

 エンゼルズ・シェア。日本語では「天使の分け前」「天使の取り分」という。ウイスキーなどを長い期間、樽(たる)の中で熟成させていると、どうしても少しずつ蒸発していく。この減った分が「天使の分け前」である▼なんでも、フランスのある地方では一日にボトル二万本の「天使の分け前」があるというからばかにはできぬ。もっともこれは悪い天使ではなかろう。天使に分けてあげる。そのお礼に天使はうまい酒を醸造させてくれる。そんな返礼のイメージがある▼英国のケン・ローチ監督による高価なウイスキーをめぐる人情コメディー映画「天使の分け前」(二〇一二年)。「天使の分け前」とは優しさであると描いている。不良青年の主人公が自分を助けてくれた女性に尋ねる。「なぜ親切にするんだい」「わたしも昔、誰かに親切にしてもらったことがあるから」▼法政大学の教授が独自の奨学金制度をスタートさせた。資金は給与や退職金、遺産など。自前である。ご自分も奨学金で学び、返済を免除してもらった経験がある。「受けた恩を次世代に返したい」とおっしゃる▼「天使の分け前」を次の方へ。世知辛い世間にも、受けた「分け前」がめぐりめぐれば、救われる方は無限に増えていく▼<美談は泣きながら疑うことを誓う>。谷川俊太郎さんの「年頭の誓い」の一節だが、この美談には成功を信じたい。

 

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