福島第一原発事故から五年。事故はいまだに解明できていない。再び、事故調査委員会をつくることを提案したい。風化、風評を防ぐことにもつながる。
原発事故後、政府や国会、民間、東京電力がそれぞれ調査委員会をつくり、二〇一二年、相次いで結果を発表した。その後、原子力規制委員会が中間報告を出した。原発再稼働は、事故の教訓を踏まえて実施されるはずだが、実際には無視されている。
たとえば、九州電力の川内原発。九電は再稼働から四カ月後の昨年末、事故対応施設の免震重要棟建設をやめると発表した。
◆生かされない教訓
免震重要棟については、事故当時、東電社長だった清水正孝氏が国会事故調査委員会の参考人質疑で「今回の私どもの一つの教訓だと思いますが…、もし、あれがなかったらと思いますと、ゾッとするくらい」と話している。この教訓さえ共有されていない。しかも、再稼働後に重大な変更を言い出すのは、公益事業者としての信義にも反している。
不誠実なのは東電も同じだ。先月、東電はメルトダウン(炉心溶融)に関する社内マニュアルが見つかったと発表した。社内の事故調査でマニュアルを公表したときは、メルトダウンに関しては見過ごしていたという。
元通産官僚の泉田裕彦・新潟県知事は東電の説明を信用していない。「隠蔽(いんぺい)した背景や、それが誰の指示であったかなどについて、真実を明らかにしていただきたい」とのコメントを出した。
公益事業者としての資質が問われる問題だが、田中俊一・規制委委員長以外は、反応が鈍い。国会事故調の「規制する側が規制される側に取り込まれている」との指摘は改善されていないようだ。
◆明らかになるウソ
事故調査でも、東電のウソが問題になったことがある。
国会事故調が1号機では、原子炉を冷却する非常用復水器が津波ではなく、地震で破損していたのではないかと考え、調査しようとしたときのことだ。東電は「現場は真っ暗で危険。案内はできない」と回答した。事故調の解散後、真っ暗ではないことが分かった。見られたら不都合なことがあったのだろうか。
政府の事故調査委員会が公表した調書で、原子力安全・保安院の室長が〇九年に津波対策の議論を進めようとした際、上司らから「保安院と原子力安全委の上層部が手を握っているから余計なことするな」「あまり関わるとクビになるよ」と言われたと証言していたことが明るみに出た。
報告書にはこのくだりはなかった。報告書の文案は官僚が作ったという。都合の悪い話は“消された”のかもしれない。未公表の資料にもまだ何か、眠っている真実があるかもしれない。
政府事故調も国会事故調も、報告書で未解明な部分があるとし、継続的な調査の必要性を記している。事故の経緯が解明されていないため、原発事故を「想定外の天災」とする人もいる。「想定外」を免罪符にして、不正と不誠実を見逃せば、新たな災厄を招き寄せることになる。
福島第一原発では最近、敷地内の放射線量が下がった。原子炉建屋の内部は厳しい環境だが、短時間でも専門家が入ったり、ロボットを使ったりして調べることはできる。東電のマニュアルのように、五年たった今だから出てくる資料や証言もあるはずだ。調査委員会を再結成して、調査結果を今後の安全対策に生かすようにすべきではないか。
新事故調をつくる前にやることもある。政府事故調は一部だが、調書を公開したが、国会事故調の資料は公開されていない。国会は公開を決めてほしい。第三者機関が報告書を検証する仕組みも必要だ。それが信頼性を高める。
一つは住民の避難状況と被ばくの関係だ。福島県が県民調査をしているが、回答率が低い。
現地で医療活動を続ける坪倉正治医師は「将来、がん患者が増える。それは放射線の直接の影響ではない。糖尿病患者が増えているからだ」と話す。事故の影響は広範囲に及ぶ。被ばくと健康の関係を調べることは、将来の差別の芽を摘む。住民の移動も考えれば、国が責任を持って長期間、やるべきだと考える。
同じように汚染地域の動植物も長期間の調査が必要である。
◆世界にオープンに
国は調査、研究に消極的に見えるが、得られたデータは、日本だけでなく、世界の役に立つ。研究や調査だけでなく、新事故調も世界の研究者にオープンにしたい。それが先進国の役目であり、原発事故を起こした国の責任である。
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