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大震災から5年 津波被災地 生活再建に力点移そう

 東日本大震災発生から5年にあたり、復興も節目を迎える。政府はこれまでの集中復興期間を終え、新たな基本方針で被災地支援にのぞむ。

     津波で被災した人たちの高台などへの集団移住はようやく約3割が実現したが、人口減少や高齢化の厳しい現実に直面しているケースも多い。生活を維持していくため、何が必要とされているのか。

     宮城県気仙沼市南部の沿岸にある小泉地区。山林を造成した宅地に新築の戸建て住宅が春の日差しを浴び、整然と並ぶ。

    集団移住に生じた誤算

     津波で大きな被害を受けた小泉地区は住民が早くから協議を重ね、高台への集団移住を進めた。学識経験者のアドバイスを受けての住宅街づくりは住民主導のモデル地域と目されている。

     だが、5年の年月は誤算も生んだ。造成を待ちきれず他の用地をみつけたり、故郷を離れたりする人も相次いだ。当初予定の約90区画より縮小した65区画を整備したが、それでも17の空き区画が生じた。

     住民が一番困るのは商店の誘致が進まず、買い物に遠くまで行かねばならないことだ。同じ地区に建てられた復興住宅には高齢世帯も多い。集団移住の取りまとめ役、及川茂昭さんは「交通手段の確保に行政はもっと目を向けてほしい」と語る。

     政府は集中期間に総額26兆円の予算枠を設けた。とりわけ、津波で住居を失った人々の高台・内陸部への集団移住や、土地かさあげによる大規模な区画整理事業を「創造的復興」の中核と位置づけてきた。高台移転の費用は全額国が負担したため、多くの地域が実現に動いた。

     宮城県岩沼市のように住民が丹念に話し合い、移住が比較的順調に進んだ地域もある。沿岸のコミュニティーを維持し、人々の離散を防ぐうえで、集団移住は一定の役割を果たしたと言えよう。

     だが、被災地全体を見渡せば、事業の長期化などで多くの地域の青写真に狂いが生じている。時間の経過とともに移住をあきらめた人も多く、計画は当初の2万8000戸から約8000戸縮小した。

     東北沿岸の多くの地域はもともと過疎や高齢化に悩んでいた。震災は若い世代の流出に拍車をかけた。国勢調査によると、岩手県は震災前より沿岸の全市町村で人口が減り、宮城県も女川、南三陸町などで深刻な減少だった。

     せっかく集団で移住しても最初から若者が少ない「限界集落」のようなケースもある。これでは集落を維持できるかが危ぶまれる。

     岩手県陸前高田市などでは大規模な土地のかさ上げ事業にまだ時間を要する。5年以上に及ぶ仮設住宅での生活を住民に強いる手法が本当に適切だったのか。国は地域の実情に応じた選択肢を提示できたかの検証を進めるべきだろう。

     想定以上に住まいの復興が長引き、生活再建が難しくなっていることを政府は十分にわきまえるべきだ。今後5年間を復興の仕上げを目指す期間とするが、総額6・5兆円規模の財源の多くは防潮堤や道路工事などインフラ整備にあてられる。

    若者が参加する復興を

     公共事業中心から生活支援や産業の創出などソフト重視へはっきりかじを切るべきだ。景観保全をめぐり議論を呼んだ巨大防潮堤の整備は資材不足や人件費の高騰で遅れている。必要な高さなどについて、柔軟な再点検を求めたい。

     大切なのは、新たな雇用を生み出し、コミュニティーを維持するためのまちづくりだ。被災地に単に「自立」を促しても地域の持つ力を引き出すには限界がある。国や自治体の支援以上に企業、NPO、個人など民間の発想がますます必要になる。

     いくつかのヒントはある。宮城県石巻市では地元と県外のサポーターが連携してまちづくりを進める社団法人「石巻2・0」が「3・11前の状態に戻すなんて考えない」と震災前を上回るまちづくりを合言葉に地域再生に取り組んでいる。

     ボランティアをきっかけに移住を希望する若者の起業を応援したり、交流の場を設けたりするなどプロジェクトを展開している。横浜市在住の建築家で活動に加わる西田司さん(40)は「復興には外からの若者の参入が欠かせない」と語る。

     気仙沼市・唐桑半島でも各地から移住してきた若者たちが地域おこし活動を始めている。ひとつひとつはまだ小さな流れかもしれないが、こうした胎動に注目したい。

     高台の住宅街や復興住宅では今後、空き区画や空き部屋の活用が課題となるだろう。被災地に関心を持ち移住を希望する若い世代に居住の門戸を広げるような発想も、地域を維持するため必要ではないか。

     人口減少や高齢化が凝縮する被災地は将来の日本の姿を映し出している。国民全体の課題として復興を受け止め、まちづくりの長い道のりを支えていきたい。

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