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ローン残高8664万円!~また遠のく財政健全化

3月8日 20時40分

柴田明宏記者

月収は52万円あるけど、支払いがかさむため、毎月新たに29万円借金しなければならない。そうして積み上がるローン残高は8664万円!これは国の財政を家計に例えたもので、私たちの国の懐事情は厳しさを増しています。
もう1つ厳しさを表しているのが「基礎的財政収支=プライマリーバランス」という指標で、これは20兆円もの赤字。政府は、2020年度までに黒字化する目標を掲げていますが、最新の試算では見通しが悪化し、財政健全化はまた一歩遠のいています。経済部の柴田明宏記者の報告です。

月収52万円でローン残高8664万円

日本の財政を家計に例えたら・・・。
新年度予算(2016年度)の歳出総額(一般会計)が96.7兆円なので、これを年間支出が967万円の家計にみなすと、月収は52万円あるものの、月の支出が81万円に上るため、毎月新たに29万円の借金をし続けなければならない。そうして積み上がる、ローン残高は8664万円に上り、借金が膨らみ続ける非常に厳しい懐事情が浮かび上がります。

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話を国全体に戻しますと、国と地方をあわせた長期債務残高(借金)は、来年3月末には日本の経済規模を表すGDP=国内総生産をはるかに超える1062兆円に達する見込みで、対GDP比の債務残高は200%を超え、ギリシャよりも悪い、先進国で最悪の水準です。

財政健全化の指標=プライマリーバランス悪化

そこで政府は、財政悪化に歯止めをかけようと、ある指標の改善を目標に掲げています。
それが冒頭に記した「基礎的財政収支=プライマリーバランス」です。
この指標は、社会保障や公共事業など、国民生活に欠かせない政策・事業を実施するために必要な財源を、借金(国債発行など)ではなく、収入(税収など)でどれだけ賄えているかを示すものです。

政府は、昨年度(2014年度)に20兆円の赤字だった基礎的財政収支を2020年度には黒字に転換させることを目指しています。去年7月に示した試算では、基礎的財政収支は2020年度時点で6.2兆円の赤字でしたが、これが1月に示された最新の試算では6.5兆円の赤字と、約3000億円悪化しました。

最大の要因は、来年4月の消費税率10%の引き上げと同時に導入される軽減税率です。生鮮食品と加工食品などに軽減税率を適用することで生じる税収減を補填(ほてん)する財源を確保できていないことが基礎的財政収支の赤字拡大をもたらしたのです。

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財政健全化へ歳出改革工程表

また一歩遠のいた財政健全化。
そこで避けて通れないのが、歳出を抑える「歳出改革」です。
政府は、2016年度から3年間を歳出改革の「集中改革期間」と位置づけ、経済財政諮問会議で、社会保障や教育、地方行政など80項目で今後5年間の目標や期限を定めた「工程表」を作りました。

この中では、医療費の自己負担に上限を設けている「高額療養費制度」の見直しに向けた検討をし、今年中に結論を出す。現在、自己負担が原則1割になっている、75歳以上の高齢者の医療費の窓口負担について、見直しの検討の結論を3年後までに出すなどと結論の期限を決めました。

また、2008年度におよそ1400万人に上ったメタボリックシンドロームの人口を2020年までに25%減らして医療費の削減を目指す。
2017年度に約1000の自治体で「クラウド」を導入し、コストの削減を進める。2020年にすべての自治体が、学校の小規模化の対策の検討を始めるといった目標も掲げていて、今後、いかに実行していけるかが財政健全化の帰すうを握ると言っても過言ではありません。

アベノミクス「税収増」の使い方

「歳出改革」の「工程表」が示される中、年明け以降、新たに浮上したのが“税収の増加分をどう扱うか”という議論です。

1月21日に総理大臣官邸で開かれた経済財政諮問会議。
このなかで民間議員は「アベノミクスの成果を一億総活躍社会の実現などのために活用していくべき」と提言しました。景気回復による税収の増加分は、財政健全化のため国の借金返済に充てるべきという意見があるなか、諮問会議の民間議員は子育て支援など一億総活躍社会の実現に向けた政策などに、より多く充てていくべきだとしたのです。

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これを受け安倍総理大臣は、みずからの経済政策=アベノミクスで実現した税収の増加分を一億総活躍社会の実現に向けた新たな施策の安定財源などとしてどの程度、活用できるか、検討するよう指示しました。背景にあるのが「成長と分配の好循環」です。アベノミクスによる経済成長の成果を、子育て支援や社会保障の充実などに分配し、それが人口の増加などを通じてさらなる成長を促すという考え方です。

その一方で、税収の増加分を、軽減税率の財源に充てることも検討すべきという意見も出ています。財政健全化のため歳出抑制が待ったなしの一方で、税収増を借金返済に充てるのではなく、有効に使うべきという声が高まる最近の動きに、私はちぐはぐさを感じてやみません。

日本財政の信認維持を

日銀が史上初めて導入した「マイナス金利」の損得を巡る議論がこのところにぎやかになっています。

こうしたなか3月1日に実施された満期10年の国債入札では、平均の落札利回りが初めて0%を割り込み、マイナス0.024%となりました。
この日、発行が決まった国債は2兆3992億円分でしたが、平均落札利回りがマイナス0.024%、つまり額面100円に対し平均落札価格が101円25銭となったことで、財務省は最終的に約60億円のもうけが生じることになります。

このようにマイナス金利導入に伴う国債利回りの低下は国債の利払いという点においては国の負担を軽減する効果があります。しかし、新年度予算で、国債の償還や利払いに充てる「国債費」が23兆円余りに上るなか、マイナス金利の効果は微々たるものです。

今、日本国債、そして通貨・円は比較的安全な資産とみなされ、世界の金融市場が大荒れになるなか、投資家のリスク回避先となっています。その裏付けとなるのが日本の財政に対する国際的な信認です。
今、世界経済の不安定化を受け、政府内外で消費税率10%への引き上げ延期や景気対策の財政出動が取り沙汰されています。その動向が、日本財政の信認を毀損するものとならないよう議論の行方をしっかりウオッチしていきたいと思います。

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