シリーズ記事 スタジアム問題
3月3日午後3時、「3本の矢」にあやかりサンフレッチェ広島久保会長が、「サンフレ独自案」を記者会見の場で発表した。スタジアムの内容はともかく、個人的にいくつか驚いたことがあった。そのことも踏まえ、いつものように、中国新聞の要約記事紹介後にテーマに沿って検証したい。今回の久保提案、内容はさておき会長自身の覚悟のほどが伺えて概ね好意的に受け止めた。さて、要約文から紹介する。
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サッカー場「みなと公園なら使わない」
球場跡140億円に圧縮 サンフレ独自案久保氏「30億円拠出」
~3月4日中国新聞1面より~
画像 3月4日中国新聞1面より
広島市中心部への建設を検討中のサッカースタジアムについて、J1サンフレッチェ広島久保会長は3日、広島市内で記者会見を行い、旧市民球場跡地(中区)を候補地として140億円で整備する独自案を発表した。サンフレの筆頭株主で自身が社長を務めるエディオン(同)と久保氏個人で計約30億円を出す考えを表明した。広島県や市、商工会議所の作業部会が「優位性が高い」とする広島みなと公園(南区)に県つ呈した場合は、「サンフレッチェ広島のホームスタジアムとして使わない」と言い切った。現在、作業部会では広島みなと公園に候補地を実質1本化して各種調査を進めている。3者のトップが今月中に会談して、建設の是非を含めて判断する。今回の久保会長の独自案は、佳境を迎えた協議に一石を投じ、影響を与える可能性が出てきた。
今回サンフレッチェ広島が公表した独自案は、収容人数を作業部会想定の3万人を5千人下回る2.5万人に設定。整備費については、約120億円少ない140億円としている。収容人数を抑えれば、高さ制限で必要とされる地下掘削費用を減らせるとしている。整備のの概算は、エディオンと久保会長が約30億円、toto助成35億円、スタジアム使用料45億円、企業寄付20億円、個人寄付10億円、をそれぞれ見込む。行政からの補助金がなくとも建設可能な試算としている。国有地である旧市民球場跡地の利用費用については、言及しなかった。他にもサッカー以外の球技や音楽イベントなど幅広い活用法を提案。久保氏は、「市内中心部の賑わい性向上の起爆剤になり、国際平和の情報発信拠点にもなり得る。世界の観光客のハブ(拠点)に最適施設」と語った。サンフレッチェ広島の経営問題にも言及して、「みなと公園だとクラブ運営の採算が合わない。2年で債務超過になる可能性が高い。」と説明。仮にみなと公園にスタジアム建設がなされても現在のエディオンスタジアム(安佐南区)を利用する考えを表明した。最後にこう締めくくった。「(サンフレ会長として)身体を視野に入れてこの問題に臨んでいる」と。
画像 3月4日中国新聞29面より
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1 「みなと公園なら使わない」発言について
踏み込んだ発言と言うよりは、広島県・市・商工会議所に対しての宣戦布告とも受け取れる。「何を偉そうに!」と頭に血を上らせる前に、この発言の真意を知る必要がある。新聞記事には詳しく掲載されていないが、サンフレッチェ広島の深刻な経営問題が背景にあるらしい。サンフレッチェ広島の公式HPから、広島みなと公園に移転した場合のクラブ収支予測をみてみたい。
a 広島みなと公園移転後のサンフレッチェ広島への収支影響
サンフレッチェ広島の公式HPより
① みなと公園スタジアム建設費 180億円(借入金95.6億円+行政負担84.4億円)
② 借入金(市債発行) 95.6億円→年間5.6~7.65億円のスタジアム使用料
③ 現在と②前提の収支比較
・エディオンスタジアム
売上31.5億円、営業費用30.5億円(スタジアム使用料1.0億円)、営業利益1.3億円
・広島みなと公園新スタジアム
売上32.1億円、営業費用34、8~36、8億円(スタジアム使用料5.6~7.65億円)
営業利益-2.7~-4.7億円
となるそうだ。久保会長の「2年で債務超過になる」発言もこの試算に基づいている。この試算には、摩訶不思議な点がある。それは誰も、サンフレッチェ広島に対してスタジアム使用料を5.6~7.65億円も求めていない点だ。松井広島市長は1月の会見では、約1.0億円程度と言っている。それでは採算ベースに乗らないので、多機能、複合化して収入を増やす必要があると再三再四、言っている。スタジアム使用料の上限を1.0億円とした場合、以下の通りだ。これはブログ主が勝手に試算した。
④ スタジアム使用料1.0億円据え置きの場合
広島みなと公園
売上32.1億円、営業費用29.15~29.20億円(スタジアム使用料1.0億円)
営業利益 2.90~2.95億円
⑤エディオンスタジアムと営業利益比較
・エディオンスタジアム 1.3億円<広島みなと公園 2.9~2.95億円
となる。債務超過どころか増収となる。クラブ経営理由によるみなと公園使用拒否は、拠り所となる論拠が甘く弱いと言えるだろう。もう1つ言えるのは、カープが現在地のマツダスタジアムに移転して、都市公園法の縛りから解放され販売活動の自由を得たことを忘れてはいけない。サンフレもみなと公園に移転した場合、+α要因となる可能性が高い。次に発言自体が与える影響だ。サンフレ関係者以外、殆どの人間が不快感を示すだろう。サッカースタジアム検討協議会、その後の県、市、商工会議所の3者会議の流れでは旧市民球場跡地は候補地として完全に消えた。現在はみなと公園で具体化するための作業が行われている。今回の久保発言は、関係者からすれば「我々が誰のために、批判されながら汗をかいていると思っているんだ!」と、嫌みの1つでも言いたくなる。作業をする意味が、今回の久保発言で根底から覆ったとも言える。
私が懸念する点は、サンフレと地元広島の政財界との乖離だ。クラブ使用料の項目1つを見ても意思疎通不足が見て取れる。サッカースタジアム検討協議会が2014年11月に最適地候補を現在の2候補地の両案併記で最終答申をした。その後、県サッカー協会は自らの意思で、協議の場から離脱した。2015年4月の市長選挙にはクラブ前社長が、街中スタジアム建設を公約に掲げ立候補、そして落選。両者の関係はお世辞にも良好とは言い難かった。改善どころか今回の件で、決定的な亀裂が入った。私はカープ同様にサンフレも地域全体で支える公共財の1つだと思う。その公共財が、地元行政、経済界と意思疎通が図れず孤立している。好ましい状況ではないと思うが、サンフレ自らその道を突き進んでいるように見える。意図的に追い込まれたとの見方が一部にはある。その論拠は、会長の「我々の意見が~」である。県サッカー協会が協議の場から退場したときに、その代わりに協議の場に参加すれば良かったのだ。あの時点でサンフレがすることは、市長選に刺客候補を送り付けるのではなく、意思を汲む人間を協議の場に送ることだった。それもしないで、今更この種の発言に違和感を感じる。
画像 サンフレッチェ広島公式HPより
公の場で、宣戦布告をしてしまった。スタジアム議論の根底を覆す暴論だと思うが、反則技を使った以上はとことん極めた方が良いだろう。「毒を食らわば皿まで」である。自らの退路を断った。みなと公園案の広島県・市・商工会議所の3者を追い込みたいのであれば、「みなと公園なら使わない」ではまだ弱い。サンフレの県外移転とエディオンのサンフレからの撤収を言外に匂わせた方がより効果的だ。県外移転となったら困るのは、サンフレも含めた全員だが、相手の譲歩を引き出すのであれば、徹底抗戦して困らせるに限る。どこぞの国がいつも使う「瀬戸際外交」である。「みなと公園なら使わない」だけでは、「分かりました。説得が大変なみなと公園を拒否してくれて有難う」で終了する。このやり方は1つ間違えれば、わが身も破滅するのだが。今回の久保発言で跡地スタジアムの可能性が0%から、5%くらいになったと思う。これをより確実なものにするにはどうしたらいいのか、を考える。
サンフレ跡地スタジアム実現の奇跡を起こす方法
① 県外移転、エディオンの撤退を言外に匂わす発言をする。
② 現在の広島県、市、商工会議所の3者会議への参加。最適地決定延期を勝ち取る。屋根付きイベント緑地広場の工事着工を無期延期させる。
③ 広島市南区選出県議、宇品、出島地区の物流業者との密な連携を取り、反対運動を加速させる。マツダをはじめ自動車関連会社との連携も取り知事を追い込む。
④ ③の状況を見ながら地元経済界の支持を取り付ける。
⑤ 跡地スタジアム反対の関連団体に多額の寄付を送り付けて、懐柔を図る。
⑥ ①~⑤で時間を稼ぐ。中央マスコミに取り上げてもらう機会を増やして、無関心層の関心層化を図る。「巨悪に立ち向かう、正義の味方サンフレ」の構図を作り上げる。
これくらいしないと跡地スタジアムなど絶対に実現しないと思う。「十年戦争」とまでいかないが、「三年戦争」覚悟で臨めば、もしかしたらもしかするかも知れない。冷静に考えれば、エディオンスタジアム20年固定で決まりだ。中途半端にケンカを売るくらいであれば、双方の誤解を解く努力をするべきだし、受け入れるのが耐え難いのであれば、滅亡覚悟の「カミカゼアタック」でもいいだろう。「みなと公園なら使わない」発言の考察が長くなったので、2以降は次回の記事に回したい。次回は、詰めの甘さはあるが評価に値する事業スキームについて触れる。
続く。
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コメント
コメント一覧
悲しいことですが「県外移転&エディオン撤退で市を揺さぶる」という狙いが、揺さぶるどころか「どうぞどうぞ」になりそうで怖いんですよね(・_・;)
お世辞にも市民全体にサンフレが応援されてるとは言えないと思いますし。
コメント有難うございます。それはないと思いますよ。カープよりは存在感はありませんが、市民レベルはさておき行政・地元経済界レベルだと慌てふためくと思いますよ。Jリーグ発足時には、市民の盛り上がりよりも行政・地元経済界主導で誘致した経緯があります。大手大企業の工場が撤退検討するくらいの騒ぎにはなるでしょう。
今回の一件は、相手が行政と地元経済界ですので市民の民意はさほど気にする必要はないでしょう。
久保会長本人の市民球場跡地に対する思い入れの問題じゃないのかと。
利益がでようがでまいが市民球場跡地に立てたいって思ってるんでしょ。
その思い入れの理由を推測する気はないですけど。
コメント有難うございます。会長自身の思い入れは相当のものでしょうね。覚悟は評価出来ますが、県・市・商工会議所と噛み合っていないような気がします。噛み合わない議論しても意味がないので、歩み寄ってほしい気持ちはありますね。ここまで啖呵を切ったので難しいと思いますが、今月中に出される結論がどうなるのか楽しみですね。
確か今回の久保会長の爆弾発言?で0だった跡地の可能性はわずかばかり出たと自分も
思いますが、正直相当分が悪い勝負に出たというの印象です。
言い方は悪いかもしれませんが内容としては行政に完全に喧嘩を売ったとも見える今回の
会見、どちらにせよ無難な着陸にはならず、極端な結果になると思われます。
そういう意味ではとても興味深い会見でした。
コメント有難うございます。仰るように分が悪い最後の賭けだと思います。流れ的には、実質スタジアム放棄宣言ですね。相互に妥協の余地はなさそうですし。広島市文化協会には跡地のイベント広場整備の催促もされています。
広島全体の事を思えば、久保提案がせめて昨年の夏であれば、誤解を解く時間があったと思います。さすがにこのタイミングでは互いの溝が埋まらないまま、喧嘩別れの「冷戦状態」がしばらく続きます。サンフレにとって大きなマイナスになると思うのですが¨¨¨¨¨¨。
運営費の試算は跡地に比べて宇品だと、シャトルバスの費用や臨時駐車場の確保、警備費用の増大等で
出費が高くなるそうです。
とりあえず、掛け算くらいはちゃんとしてくれ。と。
宇品の売り上げが移転効果で1.125倍と書いてあるが、明らかにそれよりも少ない値になっています。
1.125倍が正しいなら宇品の売り上げは35.4億円になり、黒字化の可能性も出てきます。
イメージ図に紫色を使っているが、本当に使えるのか?景観要綱を見る限り使えないのでは?
個人寄付の10億円は現実的ではないのではないか。
今回の案だと跡地でも、維持費2億円・償却費2億円・大規模修繕費2億円・都市公園法に伴う借上料0.8億円。
計年間7億円弱が必要。
宇品より移転効果が上がったとしても、赤字の可能性も否定できないはず。
コメント有難うございます。シャトルバス等の費用はサンフレのクラブ収支ですのでスタジアム使用料には直接は含めないと思うのですが。
http://www.hfa.or.jp/objects/category_l3/635/14195682500.pdf (P24参照)
の資料では、最大年1.4億円の負担となっています。よく精査したのかな、という疑問は残りますね。
コメントを有難うございます。仰る通りです(笑)みなと公園案の収支を殊更悪く見積もり、跡地案の収支は試算すらしていません。相当、どんぶり勘定の案だと思います。理念とサンフレ(久保氏個人)の思い入れ先行でこの時期に出す案としては、問題ありですね。
スタジアム検討協議会の最終答申から、1年4か月が経過しています。あの場所に執着するのであれば、もっと精査したものを出すべきだと思います。サンフレとその一部のサポータは、議論全体を結果ありきで誘導していると批判しますが、サンフレも同じことをしていると思います。
広島の入場料収入が大体5億だから、0.125倍したら6000万アップで32.1億の辻褄が合うらしいです。
意図して数字を誤魔化したのか、
最初からチケット分の数字を出すつもりが書き方が足らずこの様な紛らわしい数字になったのか判りませんが、
いずれにしろ悪い印象を与えてしまうのは、
跡地にスタジアムを望む自分としては残念です。
確かに意図は分かりませんが、半煮えのまま発表した感じがしますね。宇品でクラブ経営の危機を演出するのもいいのですが、跡地での黒字とされる収支計画もセットで出してほしかったですね。理念と久保会長の個人的な思いだけが先行の印象が強いです。行政に頼らないプランと言うのは一定の評価が出来ます。個人・企業寄付を過大に見積もっているところはありますが。
だからこそ、もう少し掘り下げて無関心層に訴えるプランだったら良かったのにな、と思いますね。ただ、時期が遅過ぎます。せめて、昨年の夏ぐらいだったらもう少し違う展開もあったでしょうね。
そういう事なら数字については納得しました。
しかし、なおさら跡地での収支計画は気になりますね。
市民球場より大きいですから、借上料も割り増しですし、武道館やハノーバー庭園、その他の施設の移転費を考えると、とてもではありませんが、黒字に出来るとは思えません。
ここまで言っておいて、移設費等は自治体でよろしく!とはいかないでしょうし・・・。
後半部分のコメントは私宛だと思うので返信します。
いずれにしても中央公園内諸施設の統廃合論議は避けれませんね。もっと気になるのがサンフレ独自案のイメージ図です。商工会議所とPLビルが見当たりません。移設前提のスタジアム建設だと思いますが、誰が移転交渉をして費用負担するのか?スタジアム建設発注者のサンフレか?行政なのか?謎です。
久保会長の本気度は十分伝わりましたが、案自体は何度も言いますが半煮えですね。市・県・商工会議所の今後の対応に見守りたいですね。
吹田スタジアムを建設したガンバ方式だと、ガンバが指定管理業者となって、土地の賃借料、維持管理費、大規模修繕費を支払うこととしています。(その額、5億円+大規模修繕積立金という報道あり)
久保会長が平和公園と一体管理という発言をされたのは、指定管理業者になるつもりがないという意味なのかなと感じます。
「建設」では市や県に迷惑はかけないという強い意志は感じますが、建設してからの話は、正直あいまいだと思います。
別記事で書きましたが、平和公園との一体管理は場所柄、概念的なイメージだけだと思いますね。平和公園は施設ごとに管理業者が違うので、指定管理業者は跡地スタジアムだけで募集するのかな、と思うのですが、憶測なので自信がありません(笑)
ななしさんが言う通りとりあえず建設ありきで、「後の事はまたゆっくりと考えましょう」のようですね。案としては色々と半煮えだと思うのですが、久保会長の退路を断った本気に行政がどう対応するか注目しています。色んな意味でサプライズ的な会見でした。跡地移転のクラブ収支は出すべきでは?、と思いましたが。
ただ、イメージ図のスタジアム西端は総合体育館とファミリープールの間の道路くらいですから、地図と照らし合わせると、取り壊さないと建てられないことになります。
スタジアムの寸法がわからないので、イメージ図を計測してみました。
芝面ををJリーグ基準の下限(横78m以上・縦115m以上)と仮定。
横はイメージ図では、メインスタンド2.5cm、芝面6.5cm、バックスタンド2.5cm。
6.5:5.0=78:X
で、X=60
つまり、スタンド部分は60m。
合わせて138m
ゴール裏も同じスタンド規模だとすると、縦は175m。
吹田スタジアムとの比較で、スタンド部分の客席は2万7千強になりそうです。
原爆ドームが見えるように窓を付けても、2万5千人は収容できると思われます。
イメージ図通り、北側を限りなく総合体育館側に寄せると、高さ20メートル区域に引っかからないで建てられそうです。
横は青少年センターとの間が10mを切るくらいになりそうですが、何とか取り壊さずに建てれそうです。
建物面積もピッチを含めても2万4千㎡くらいなので、十分都市公園法の建築面積基準に引っかかりません。
あのイメージ図でそこまでの解析ですか!凄いですね。感心しました。
クロネコさんに商議所とPLビルの件は指摘されたので、関係する記述は別記事の方では削除しました。ご指摘有難うございます。配布用にはこの2つが描かれて、公式HPにはないのも変な話ですが、外向けと内向けに使い分けているのですかね?
土曜日の中国新聞よると松井市長がクラブ側との接触を試みているようです。