過ちを犯した捜査当局が身をただすどころか、開き直っているようにしか見えない。

 北海道で18年前に判決が確定した銃刀法違反事件をめぐり、札幌地裁が再審開始を決めた。警察が違法なおとり捜査をし、裁判で偽証していたことを非難したうえでの結論だった。

 これに対し検察はきのう、決定を不服として即時抗告した。当時、警官の偽証を知りながら不起訴処分を繰り返した検察の責任をどう考えているのか。

 捜査当局が取り組むべきは、再審への反論ではなく、自らの過失の検証である。強引な捜査に走り、公判でもその手法を隠した経緯こそを調べるべきだ。

 再審が認められたのはロシア人の46歳男性。来日した97年、拳銃と実弾を持っていたとして逮捕された。公判で警察はおとり捜査を否定し、一審のみで懲役2年の実刑になった。

 だが判決の4年後、事件に関わった元警部が「違法なおとり捜査だった」と証言し、道警が調査した。浮かびあがったのは、ゆがんだ捜査の実態だ。

 元警部は捜査協力者に「何でもいいから銃をもってこい」と指示。協力者の一人は男性に「銃があれば車と交換する」と、日本への持ちこみを誘いかけた。逮捕後、元警部や上司らは協力者の存在を書類から消し、法廷で偽証を繰り返した。

 警察が個人を犯罪に誘い、組織ぐるみで隠蔽(いんぺい)工作をした、としか言いようがない。「犯罪を抑止すべき国家が自ら新たな銃器犯罪を作りだした」と地裁が指弾したのは当然だ。

 警察内では捜査活動などでの成績が問われるノルマ主義があり、その弊害は繰り返し指摘されてきた。各地の警察も他山の石とすべきだろう。

 拳銃の押収はここ10年、年間400丁前後で横ばいだ。水面下で進む銃犯罪を取り締まるうえで、局面によっては、おとり捜査の有効性は否定できない。

 ただし最高裁は04年、それが許されるのは、(1)直接の被害者がいない犯罪(2)通常捜査では難しい(3)機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者を対象とする場合に限った。

 今回の事件の男性は、(3)に該当しなかった公算が大きい。

 拳銃を持っていたのが事実でも訴訟手続きに問題がある、と再審を認めたのは異例だ。今後のさまざまな事件で再審の余地を広げる可能性もある。

 偽証までして有罪に持ちこんだ当局のふるまいは、司法全体の信頼を傷つけるものだ。道警と検察は問題点がどこにあったか真剣に省みるべきだろう。