なでしこジャパン、リオ五輪出場を逃す。
先日、リオデジャネイロ五輪を目指すサッカー女子アジア最終予選にて、なでしこジャパンの3位以下が確定し、2つしか無いリオ五輪の出場権を逃す事になった。
女子サッカーは、最近になって世界的にも環境が改善されてきたとはいえ、五輪予選は中一日の連戦が続く常軌を逸した日程だった。男子もかなり酷い日程ではあったが、とにかくこれが「アジアの女子サッカーのいま」を如実に表している。
初めて女子サッカーに興味を持ったというか、メディアで目にしたのは25年以上前のサッカーマガジンだった。
「日本女子サッカーに天才少女」
たしかそんな内容だったと思うが、正直詳しくは覚えていない。白黒の紙面に載っていたのは、ショートカットの年端もいかない少女だった。日本女子サッカーリーグで中学1年生にしてリーグ戦デビューを果たしたという記事だった。勿論、その少女とは澤穂希だった。
1995年。前年に男子が出られなかったW杯(当時はまだFIFA女子世界選手権)に日本女子代表が出場していた。ドイツ、スウェーデン、ブラジルと同居する厳しい組み合わせだったが、日本は3位の中でも成績上位に入りグループリーグを突破。トーナメントの1回戦でドイツに敗れはしたが、手応えを感じる大会になった。
澤以前の中心選手は、半田悦子であったり高倉麻子であったり野田朱美であったり大部由美だったり大竹七未だったりした。殆どメディアには取り上げられなかったが、僅かばかりに伝わってくる女子サッカーの現状はかなり厳しいものだった。
かつては前座だった女子サッカー。
90年台後半、東京で就職し、月イチかそれ以上の頻度でサッカーを見に行くようになった。Jリーグも代表も見に行った。
いつだったか、多分男子五輪代表の試合の前座かなんかで女子代表の試合を見た。相手はどこだったかもう覚えていない。豪州だったかな? とにかく、その試合ではパワーで押されてあっさり失点を喫し、なす術なく敗れた。
自分はその頃漫画を描いていた。そして、そんな女子サッカーを舞台にした漫画を描こうと思って設定を考えた。
ある日、日本女子代表は北欧のチームと強化試合を行う。日本はパスワークとドリブルを中心に攻めるが、相手のパワーに屈し、完敗を喫する。
ピッチサイドではあるサッカージャーナリストが試合を見ていた。男子の試合の前座で行われたその試合は、特に盛り上がるわけでもなく、ゴール裏ではサポーターが男子の試合の横断幕などを貼っている途中だった。
ふとスタンドを見ると、一人号泣している少女がいた。少女は悔しかった。ひとりひとりの個人技は相手に負けていないのに、ゴリ押しのパワーサッカーの前に、日本がサッカーらしいサッカーをさせてもらえなかったのが悔しかったのだ。ジャーナリストは、そんな少女の泣き崩れる姿が強烈に焼き付いて離れなかった。
その数週間後、ジャーナリストは知り合いの草サッカーチームの監督が急用でその日来られなくなったということで、代わりにチームを率いることになった。そのチームに、あの号泣していた少女がいた。だが、どうもレギュラーではないらしい。年上のチームメイトに言わせると「アイツは何も分かってない」とのこと。
試合はまるで話にならないレベルで、ジャーナリストはどうしていいかわからなかった。次々とゴールを決められ、半ばダメ元であの少女を出場させる。久しぶりに出場機会を得た少女はファーストタッチで凡ミスを犯し、失点のキッカケになる。
だが、その後彼女は驚くべきプレーをみせる。柔らかいタッチ、足に吸い付くようなドリブル、そして、2列、3列先まで俯瞰で見えているかのようなパス。ただ、最後のところがどうしても合わなかった。受け手が下手過ぎたのだ。
ジャーナリストはすぐ知り合いのサッカー協会関係者に連絡を取る。
「素晴らしい選手を見つけた! 彼女は女子サッカーの歴史を変えるぞ!」
そして、後に彼女は女子高生サッカー選手として名を馳せることになる。
この漫画は、ずっと構想を暖めていて、2001年くらいに実際に描こうと思ってキャラデザまでした。だが、時間がなくて結局描けなかった。
※ちなみに、当時考えていた主人公。名前も決まっていなかった。
想定していた展開は、W杯のアジア予選で主人公が怪我をしながらもなんとかW杯に導くが、無理がたたって長期離脱になり、本大会には出られずに惨敗。その後、メディアにちやほやされるなどのお約束の展開もありながら、サッカーをする歓びを捨てきれずに、サッカーに対して真摯な心を取り戻して再びW杯予選に挑み、大活躍…というものだった。
本大会での優勝は考えていなかった。正直、3位くらいならフィクションでも許されるかな?みたいな風に考えていた。アメリカに準決で敗れ、3決で最初の北欧のチームに完勝して最終回…という展開が美しいかな?なんて考えていたのだ。
現実は想像を遥かに超える。
2011年、ドイツで開催されたFIFA女子W杯で、日本女子代表あらためなでしこジャパンは、ドイツ、スウェーデン、アメリカなどの強豪を打ち倒し、世界の頂点に立った。
W杯前の最新のFIFAランキングでは4位だった日本は、一応優勝候補の一角ではあったが、あくまでダークホース扱いだった。最有力は勿論アメリカ、次いでホスト国のドイツか、ブラジルもしくはフランスといった感じだった。
今日はなでしこの試合を見る。世界大会で日本が優勝候補の一角にあげられるなんで滅多にないことだし、頑張って欲しい。
— ゆきぼう (@dosei2010) 2011年6月27日
澤はこれが最後のW杯かな…
— ゆきぼう (@dosei2010) 2011年6月27日
※当時のW杯初戦前の自分のツイート。まさか優勝するとは思わなかった。
W杯に優勝して、ユニフォームに星がついて、次から次へと強豪国が日本とマッチメイクしてくるようになって、「ああ、これがW杯で優勝するってことか」と実感した。
※記念に買っときましたよ! ワッペン&星付きユニ!
日本がW杯で優勝し、澤が得点王とMVPを獲得し、その年のバロンドールを澤と佐々木監督が受賞する。たとえばキャプテン翼で2011年以前に翼くんがそんなことをやったら、「いやいや、夢見すぎだよw」と言われたに違いない。
なでしこのW杯優勝は、サッカーの世界で不可能はないということを証明した。優れた選手を育成し、しっかりとした決断の出来る監督を招聘し、全ての実力を発揮して、そこに幸運が舞い込んでくれば、日本もW杯で優勝することが出来るのだ。
シドニー五輪の出場を逃した時、今ほどではないが多くの人が落胆した。Lリーグからは次々と企業が撤退し、多くの選手がサッカーを辞めていった。
その時、誰が今のような世界を想像しただろうか。当時は女子サッカーの単独の強化試合のTV中継などされていなかった時代なのだ。
確かに五輪出場を逃したのは打撃だ。だが、それで全てが終わってしまうわけではない。これは終わりではない。始まりなのだ。このリスタートが今後の女子サッカーの未来を決めるのだ。
恐らく後任は高倉麻子監督になるだろう。2014年にリトルなでしこを率いてU-17W杯を制した監督であり、個人的には福島県の星だと思っている。
2012年のロンドン五輪では、ドイツが出場できなかった。地元開催のW杯で日本に敗れた為だ。だが、その後ドイツのサッカーが終わってしまったかというとそんな事はない。現在のドイツの女子FIFAランキングはアメリカに次いで2位である。
もちろん、ドイツと日本では女子サッカーの置かれた環境がまるで違うのは承知している。だからこそ、ここからの強化と普及が大事なのだ。これまでの努力を無にすることなく、正しい道を歩んでいけば、再び世界の頂点に立つだけのポテンシャルは備えている。
そんなの夢物語だって?
そんなことはない。
いつだって現実は想像を越えていくのだから。