“インフルエンサー”を探し出せ!
3月7日 19時20分
いま企業のマーケティングの世界で”インフルエンサー”という人たちが注目されています。英語の影響力(influence)が語源で、ツイッターなどの発信が、多くの人の消費行動に影響を与える人たちです。この“インフルエンサー”をSNS上のデータ解析によって特定し、マーケティングにいかそうという手法が関心を集めています。
データ解析は、企業の炎上対策にも使われています。SNSの膨大な口コミを自動的に監視して、異変が起きるとすぐに企業に通知。炎上による被害を最小限にとどめようとします。
データ解析のプロ集団を率いるのは塚本良江さん。彼女が社長をつとめる「NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション」は、これまで1000社以上にサービスを提供してきました。どのようにインフルエンサーを探し出して、企業の集客、売り上げの向上につなげるのか、経済部の小田島拓也記者が聞きました。
マイクロソフトから再びNTTグループに
塚本社長は、1986年にNTT入社後、主に新規事業の開発に携わりました。アメリカ留学をへて、検索サービス「goo」を立ち上げ、他社に先駆けてフリーメールサービスを始めました。
育児休暇を取得後、キッズgooや教えてgooなどのサービスを相次いでスタート。その後、2002年にマイクロソフトの日本法人に転職。ポータルサイトの運営に関わり、執行役員を務めました。
2008年、NTTグループから「ネット事業を強化してほしい」と誘われ復帰。2012年にNTTコム オンライン・マーケティング・ソリューションの社長に就任しました。
クリック前のデータをSNS解析で
オンラインで、モノを売る時代。対面販売が中心だった時代と違って、企業は顧客のことが分かるようで分からない時代になっています。
この時代に不可欠なのが、データ解析によって顧客のニーズを的確に把握することです。会社では、ネットでの購買履歴とともに、ツイッターなどのビッグデータを解析しています。
Q:なぜ、ツイッターなどのSNSの解析に力を入れているのでしょうか。
塚本:購買履歴などお客さんがクリックしたことで取れる情報というのは、すでに行動した後のものです。これに対して、ソーシャルメディア上のつぶやきは、顧客が購入する手前のところで何に興味が感じているか、いろんなデータを取ることができ、最も適切なマーケティング施策を打つことができます。いまや、データ解析がなければ、マーケティングもなかなか成果を出すことができない時代になっています。購買履歴とSNSの解析、両方を組み合わせることが重要です。
ターゲットは“インフルエンサー”
塚本さんの会社では、ツイッターなどのSNS上で、話題がどう拡散しているかを解析して、マーケティングにいかすビジネスを展開しています。鍵となるのは、大きな影響力を持つ“インフルエンサー”です。
Q:どのようにして、インフルエンサーを見つけ出すのでしょうか。
塚本:SNSを解析すると、投稿が集まるクラスター(塊)があらわれます。ある商品やサービス、話題について、多くの人たちがツイートしているのです。クラスターができる時には、大きな影響力を持つ人のツイートがきっかけになるケースが数多くあります。そこで、SNS上で拡散していった過程を可視化して、元を辿っていき、“インフルエンサー”を見つけ出します。
Q:インフルエンサーをマーケティングに生かしているのですか?
塚本:インフルエンサーがどういった情報を発信したのか。それに反応したユーザー層はどんな人たちなのか。どんなサイトが紹介され、よく見られているのかを解析します。こうしたデータを参考に、企業が商品やサービスのキャンペーンを展開する時、タイミングよく情報を提供することで効果的に口コミを普及させることができます。また、実施したキャンペーンが期待どおりの効果を得ているかの検証や、どこに広告を出すかの選定にも利用することができます。
訪日外国人の中にもインフルエンサー
インフルエンサーを活用したマーケティングは、訪日外国人の集客にも活用されます。あるレストランに関する投稿が拡散したきっかけは、来日していたアメリカ人の俳優や、有名な美術家のツイートでした。
彼らが、来日前から何を気にしているか、興味、関心はどこにあるか。来日中には、どんなことを感じたのか。投稿や、ことばに表されない写真までが解析の対象になります。
Q:訪日外国人の集客にも活用が広がっていますね。
塚本:日本を訪れる外国人観光客の増加にともなって、インフルエンサー・マーケティングのニーズも高まっています。影響力がある彼らに日本の商品や店舗、サービスの情報をうまく提供して、どんどん発信してもらえれば、集客に大きな効果があります。また、訪日外国人の投稿に付加されているGPS「位置情報」を活用し、人気スポットや潜在的にニーズがあるスポットを発掘することも可能で、私たちも力を入れてサービスを展開しています。
Q:今後はどのようなビジネスを展開されますか。
塚本:日本の広告市場は6兆円、販促市場は13兆円とも言われますが、こうした企業の予算が、データ解析を活用したマーケティング市場にものすごい勢いで流れ込んでいます。私は、インターネットれい明期から消費者向けのネットサービスにずっと携わってきましたが、いま企業向けのネットビジネスこそ大きなビジネスチャンスになっています。中長期的にはビッグデータを解析して、売り上げ向上につながる提案までをワンストップで行う会社として日本ナンバーワンになりたいと思っています。
取材を終えて
商品やサービスに不満があっても、直接店舗や企業に文句を言う人はそれほど多くはないかもしれません。一方で、店を出た後、ツイッターなどで不満を打ち明ける人は少なくないでしょう。その投稿が、インフルエンサーのものであれば、企業にとって影響ははかり知れません。
インフルエンサーは選挙でも関心を集めそうです。この夏に行われる参議院選挙では、選挙権を得られる年齢が18歳に引き下げられます。若い有権者の関心をどう拾い上げていくか、インフルエンサーの発信をどう分析していくか。マーケティングの世界にとどまらず、データ解析にますます注目が集まりそうです。