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逆風も振り返れば追い風になる!!――『咲-Saki-』における『咲-Saki-阿知賀編』の位置付け。


軌跡


 早いもので、『咲-Saki-阿知賀編』が完結した2013年3月12日からもうじき3年。一時はバラバラの道を歩むことになった少女たちが再び集まり、本編とは逆のブロックで全国の頂点を目指す少女たちを描いた『咲-Saki-』のスピンオフ作品『咲-Saki-阿知賀編』が最終話を迎えてから既に3年近い月日が流れました。そして、偶然か否か、そんな時期に『咲-Saki-』本編もついに準決勝を終え、最新話では阿知賀編との合流を迎えようとしています。




咲-Saki- 第155局 「証果」 感想  - ふわふわな記憶咲-Saki- 第155局 「証果」 感想 - ふわふわな記憶

 さて先日、第155局の感想を書いた際に、

阿知賀が一気に優勝候補筆頭みたいになってるのに若干の違和感を覚えるのは阿知賀編を知っているからなんだろうね

 というコメントを頂きました。そして、これに似た感想を抱いた人がわりと周りにもいて、読んで感じたこと――つまり感想に正しいも間違いもないので、他意はなく、読者が多くいればもちろん違和感を覚える人がいても自然だと思ったんですが、僕個人はあまり違和感はなく、「阿知賀女子が清澄高校にとって最大のライバル校のように描写される」ことに対して違和感がないのはむしろ阿知賀編を知っているからこそじゃないかなぁ...と感じたのがこの記事を書いた発端です。


『咲-Saki-』本編と『咲-Saki-阿知賀編』の共通点と相違点



運命が回りだす
 
 第155局の感想でも触れましたが、『咲-Saki-』本編は主人公の咲さんが疎遠になってしまった姉の照ともう一度会って話をするために全国を目指す物語であり、『咲-Saki-阿知賀編』もまた、旧友である和の活躍をテレビで目撃した主人公の穏乃が和と同じ舞台で遊びたいと奮起したところから物語が動き出します。過去の「別れ」を起点として、「再会」を一つの到達点とする点は本編も阿知賀編も共通しているところですよね。



 『咲-Saki-』本編と『咲-Saki-阿知賀編』の物語を繋ぐ役割を担っている和もまた、奈良から長野へと引越し、そして再び父親から東京の進学校へと転校するように言われます。麻雀なんてほぼ運で決まる不毛なゲームだと、遊びはほどほどにしておきなさいと。母親の仕事の都合で転校――「別れ」を繰り返してきた和がそれでも「ここに残りたい」と、おそらく初めて「別れ」を突っぱねます。



一度きりの・・・

 だからこそ、普段は理詰めの和が部長に「たった一回の人生も論理と計算ずくで生きていくの?」と言われ、刺さるものを感じたのだろうと。デジタルの化身である和が、咲さんや清澄高校の仲間たちとの「今」を守るために、環境の良い進学校へと転校することを拒む。もう「別れ」は嫌だと。『咲-Saki-』本編の主人公である咲さんや『咲-Saki-阿知賀編』の主人公である穏乃だけでなく、2つの物語を繋ぐ和が全国の頂点を目指す理由もまた「別れ」を起点としている点は非常におもしろいなと思います。


『咲-Saki-阿知賀編』の「軌跡」に見る『咲-Saki-』本編の到達点


 阿知賀編が終了したとはいえ、無論阿知賀女子の闘いが終わったわけではなく、彼女たちの物語はひとまず決勝戦まで続くことは言うまでもありません。ですが、『咲-Saki-阿知賀編』という物語において準決勝第1試合はひとつの到達点であったことに相違はないと思います。


 そして、「別れ」というワードで連想するのはもちろん松実玄さんでしょう。


別れることはよくあることで 私は慣れてるはずだったんだ

今まで自分から別れを決めたことはなかったけど 前に向かうために 一旦お別れ

帰ってこなくても 私は待ってる

 絶対王者である宮永照に突き刺さった予想を超える一撃。王者の連荘という未来を改変するために限界を超える園城寺怜さんと一番へこんでいるにもかかわらず誰よりも明るく振る舞う花田煌さんのアシストを受けて、思い出を大切にする玄さんが選択するのは「前に向かうための別れ」だった。ここで初めて玄さんは過去を過去のものとして向き合い、「今」を闘う力に変えて見せます。準決勝を通して彼女の成長が最もよくわかるシーンなだけにとても印象的ですね。


 もちろん過去の思い出を胸に秘めながら前に向かうために「別れ」を選択した、あるいは「過去」を乗り越えて前に進んだ少女は前述した穏乃や玄さんだけではありません。

 穏乃や和との「別れ」を選択し、阿太峯中学に進学することを決意した憧ちゃん。自分のヒーローであった赤土晴絵の想いを乗せて、準決勝という大きな壁を前にして「10年越しのリベンジ」を果たす灼ちゃん。幼い頃に母との「別れ」を経験し、阿知賀こども麻雀クラブの輪にも入れずいつも妹に守られていた宥姉が「今日はお姉ちゃんががんばる番!」と妹の失点を取り戻そうと奮起するシーンも印象的だった。


 阿知賀女子はみんなが「過去」に「別れ」を経験し、準決勝という舞台でそれを乗り越えることで「今」を闘うチームになりました。対して、始まりこそ似た清澄高校は準決勝終了時において、部長の「過去」も未だ断片的にしか描かれず、和も負ければ「転校」という事実を部のみんなに打ち明けられずにいます。

 また、Aブロックの準決勝が行われた日。「過去」に起こった出来事の整理を付けられないままでいる咲さんは照との「再会」を果たせなかったのに対し、準決勝を前にして穏乃は和との「再会」を果たすのも対照的な見せ方でした。これはもちろん、阿知賀編が準決勝を乗り越えるべき一つの到達点としていたのに対し、物語の構造上、清澄高校が乗り越えるべき到達点が決勝戦にあるからというのはあるのですが。
 
 


 阿知賀編は「過去」を見つめていた少女たちが準決勝において「過去」を乗り越え「今」を闘い、そして、「未来」へ向かって歩きだす物語でした。そういう意味において、OPテーマの「TSU・BA・SA」にある「解き放つ思いと 追い風が重なる場所」という歌詞はまさに言い得て妙だと思いますね。

 逆風も振り返れば追い風になる。阿知賀編に込められたテーマはやはりこれだったと思うし、清澄高校にとっても受け継がれるテーマになるだろうなと。だからこそ、清澄高校にとって決勝戦における最大のライバルはやっぱり阿知賀女子なのだろうなとそう思うのでした。
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