• GIZMODO
  • Kotaku
  • gene
  • cafeglobe
  • MYLOHAS
  • Glitty
  • TABROID
  • roomie
  • GIZMODO
  • lifehacker
  • gene
  • cafeglobe
  • MYLOHAS
  • Glitty
  • TABROID
  • roomie

ライフハッカー編集部ライフハッカー編集部  - ,,,,,  11:00 PM

日本を捨てる決心なんて要らない。私が選んだ「オランダに完全移住しない」という道

日本を捨てる決心なんて要らない。私が選んだ「オランダに完全移住しない」という道

160301rotterdam_mizusako1.jpg


日蘭通商航海条約によって日本国籍者はオランダで労働許可なく就労できるようになり、海外移住先として熱い視線が注がれるようになりました。そんな中、フリーランスの編集者・ライターとして働く私は、オランダで個人事業主として仕事をする許可を得ていますが、あえて完全移住はせず、2国間を交互に滞在しながら仕事をするライフスタイルを選んでいます。


移住しなくても活用できる条約のメリット


東京とオランダを行き来するスタイルは最初から計画していたわけではなく、図らずもそうなったという感じです。2012年、東京で9年間一緒に暮らしていたオランダ人パートナーがオランダに帰国することになったのですが、当時、私は家庭の事情で日本を離れられませんでした。機会を見つけて彼が東京に来たり、私がオランダに行ったりしていたのですが、オランダを含むシェンゲン領域国では180日のうち90日間滞在可能というシェンゲン国境規制があります。つまり、3カ月滞在すれば、次の滞在まで3カ月待たなくてはならないわけです。制約を気にしながら行き来するのは腰が定まらず、大げさに言えば、人生の選択権が自分の手にない感じがありました。そんな時、この条約の存在を知り、どちらかではなくどちらも拠点にすることができると、申請することにしました。「数カ月滞在して帰る」から「住む」というスタイルに変えることで、物の見え方も変わってきました。

実際、「東京とオランダを行き来するスタイル」は、旅行関係の仕事をする私には有利です。例えば、旅行の媒体を作る際、その国の日本での浸透度・類書の多さなどを考えながら、現地でしかとれない情報を挟み込むことが求められます。今までは、海外在住ライターさんからの情報が良質なのにもかかわらず、観光客のニーズの先を行きすぎて紙面が割けずに泣く泣くお蔵入りにしたり、数週間の滞在だけでは基本情報の向こうにあるその国の魅力になかなかたどりつけなかったりと、ジレンマを抱えることがよくありました。ところが、2つの拠点を持つことで、暮らしながらも生活にどっぷり浸からずに旅行者の目線で物事を見ることができ、興味がある対象に対し、時間をかけて観察・取材できます。つまり、日本在住者・海外在住者、編集者・ライターの中間に立っていられるわけです。日本とは全く異なる文化や習慣を持っている国でも、長期で住めばいずれは慣れてきます。慣れること自体は現地の文化に溶け込むことなので悪いことではないのですが、同時に日本人(旅行者)の視点を失ってしまうことにもなるのです。

私の場合、完全移住していないおかげでこの日本人の視点を保てていると思います。実際、スーパーやショップに行くたびに「こんなの見たことない!」とか「日本でウケる!」と、毎回新しい発見があります(笑)。


160301holland_mizusako1.jpg

(左)書店で見つけた、床から積む斬新なデザイン平積み。(右)トイレを飾る、インテリア便座。


オランダはじわじわと良さがわかる国


オランダに長い知り合いが言うには、オランダは「2回目のヨーロッパ旅行で訪れたい国」だそうです。確かに、ガイドブックも他の西欧諸国に比べて少なく、あってもベネルクス(オランダ・ベルギー・ルクセンブルグ)で1冊にまとめられている書籍がほとんどです。フランス、イギリス、ドイツという大国に挟まれて、魅力が見えにくいのかもしれません。実際、友人に「オランダっていい?」と聞かれて「風車、チューリップ、自転車」という「オランダ典型3大アイテム」とは異なる良さを伝えようとすると、分かりやすい単語を見つけるのが案外難しいことに気づきます。暮らしていると、じわじわとくるあの感じ。改めて私にとってのオランダの魅力を考察してみました。


いつも自然体

オランダの人々は、外からやってきた人を抵抗なく受け入れますが、かといって過度にもてなすわけでもない微妙なバランスがあると思います。去年の夏、オランダ人の友人のご両親の家にお呼ばれしました。ご両親共に80歳を超えており、アジア人に会ったことはないとのことでしたが、普通に出迎えてくれて、普段の晩御飯が食卓に並び、友人の通訳付きで普通の会話を楽しみました。パートナーの友人たちもざっくばらんに私を迎え入れてくれますが、ご老人でさえ初アジア人を部外者として扱わず、だからといって無理やり会話をしようと努力することもなく、ごくごく普通に応対してくれたことから、これは国民性なんだなと思いました。この「構えない感じ」は外国人にとって、とても心地良いものがあります。


フリーダムサイクル天国

私は普段は自転車に乗らないのですが、オランダにいる間は自転車をフル活用します。電車には自転車専用車両というものがあり、この車両では人より自転車が優先されます。また、折り畳み自転車なら特別料金を払う必要もありません。家から駅まで自転車で行き、自転車ごと電車に乗りこみ、降車駅から目的地まで漕ぎ、自転車を横に置いてオープンカフェでひと休みできる気軽さ。自転車用道路が整備されているのはよく知られているところですが、道だけではなく、ルートマップ標識も各所にあります。以前、電車に乗っていた時、少々変わった形の自転車と一緒に1人の青年が乗り込んできました。彼は足が不自由なようで、自転車は手で漕ぐように改造されていました。足をひきずりながら自転車を置いて座席に座り、バックパックから本を取り出す彼。自転車でスムーズにあちこちを移動できるのは、便利なだけではなく、自由を手に入れることにもなるのだと本を読みふける彼の姿を見て思いました。


160301bike2_mizusako.jpg

足の不自由な青年の愛車。車両にのせる時、当然のように他の乗客から手が差し伸べられるのもオランダらしい。


160301bike_mizusako2.jpg

デルフト郊外の自転車道。風光明媚なルートを案内する地図が整備されている。


大衆消費から離れた価値観

オランダでは「新品」にあまり価値を置いていないようです。使えれば、気に入れば、セカンドハンドでも一向に構わないようで、パートナーの家でも勉強部屋にある作業机は道端でゲット、庭のベンチも道端で、ランプは義理の兄の父が道端で拾い、兄がしばらく使い、今は彼の家に落ち着いています。友人の家のダイニングテーブルは、ヒビが入って使えなくなった大きなガラスドアを加工したもので、他の友人は、廃棄されていた学校の教室のドアを自転車でひきずってオフィスに取りつけたそうです。いらなくなった家具を粗大ゴミとして道に出すと、通りかかる人が興味深けに眺め、数時間後には消えてなくなっているということもよくあります。道端に宝物を見つけて重いなーと言いながら嬉々として運ぶ姿に、モノは買って消費するだけではなく、人の間でぐるぐる回すという楽しみもあるのだと思いました。


160301mizusako_market1.jpg

当然のようにフリーマーケットも盛ん。青空、コミュニティセンター、教会、通りとさまざまな場所で開かれる。


運河と広い空

真冬のオランダは朝8時でも真っ暗、夕方4時ですでに真っ暗で、日中も天気が悪い日が続きます。同じような気候のイギリスに1年いたことがあり、冬は陰鬱になったものですが、オランダでは不思議と気分が沈まない。なぜだろうと考えると、運河に思い当たりました。広い空から光が注ぎ、それがまちにあちこちに走る運河に反射して、辺りを明るくしているからではないか。一転、夏になると日に光る水面がきらきらと美しく、休暇を楽しむ人々のボートが通りすぎ、頭上では青い空に無数のちぎれ雲が流れていきます。夕方になると、茜色に染まる空が幻想的な風景を水面に映します。郊外に行かなくても、ふつうの暮らしの中でそんな贅沢な風景が見られるのは、シアワセなことではないかと思います。


160301sunset_mizusako1.jpg

7月下旬、夜10時の車窓から。日が沈んでもしばらくの間美しい夕焼けが広い空を染める。


暮らすからこそ見える情報を発信


現在私は、自分で立ち上げたオランダの観光情報を提供するサイト「ikganaar」、パンのブログ「オランダの茶色いパン」の2つのサイトの運営に取り組んでいます。2015年は、ガイドブックの仕事をいただくことができ、夏の間、オランダで取材、改訂作業に費やしました。取材を通してアムステルダムのトレンドが北に移動していることや、ロッテルダム、ハーレムなどアムステルダム以外の街を歩き倒すことで、それぞれの魅力を肌で感じることができました。紙媒体のガイドブックではどうしても主要観光物件にページが割かれてしまいます。週末になればどこかの街で開かれているイベント、おもしろい場所が紹介されないのは本当にもったいない。九州ほどの広さで交通網も発達しており、自転車であちこち行ける。取材して回りたい私には最強の国です。暮らすからこそ見えてくる切り口、濃い内容を丁寧にすくって発信しています。


160301food_holland1.jpg

代表的なオランダ料理とは?と質問すると「インドネシア料理」と答える人も多いほどインドネシア料理が浸透している。


160301parade_mizusako1.jpg

7月末にアムステルダムで開催されるゲイパレードの「Amsterdam Gay pride」。何ものからも解き放たれて自由な自分を謳歌する喜びが街中に満ち溢れる。


「海外移住」に、一大決心は必要ない


現在のところ、私の仕事の発注元は日本の企業です。顔を合わせなくてもこなせる仕事がほとんどなので、締め切りさえ守ればどこにいようが気にしないクライアントさんもいます。会議もSkypeのビデオチャットで済ませられますしね。一方で「まずお会いしましょう」という会社もまだまだ多いですから、日本にいる間に関係を構築することも大切です。今までは日本での生活60%、オランダ40%でしたが、今年はそれを逆転させる予定です。計画を話すと「オランダに骨をうずめるの?」とか「一大決心だね」と言われることがありますが、インターネットのおかげで、20年前なら考えられない仕事スタイルが可能になっているわけだから、そこまで深刻にとらえなくてもいいのかなと思っています。

私の場合はパートナーの家がオランダにあり、自分のオフィスも友人の事務所を間借りさせてもらっているのでコスト面でかなり恵まれていますが、オフピーク時期なら8万代の航空券もあるし、日本での拠点を実家やシェアハウスなどを利用して、オランダと日本の両方合計で、平均的な1カ月分の家賃まで抑えることは可能だと思います。オランダは物価が日本より安いですし、無料のイベントも多いので、娯楽にコストもあまりかかりません。通信料なども抑えれば、1人で暮らすコストに航空券のプラスアルファ程度で済ませることも可能だと思います。

パートナーの友人でも、オランダと南米を行き来している人、移り住んだフランスの家を売り払い、次に行くところは決まっていない人などがいます。ひとりは50代、もうひとりは60代。歳に関係なく自由に生きる人たちを見て「移住!」と片ひじ張って考えなくてもいいのだと思うようになりました。今ではオランダ行きは北海道くらいのノリになっています。この先どうなるのかわかりませんが、オランダの友人がよく言うKeep your options open(最終的な決定をしない=先をまっさらにしておく)で、この二拠点生活の利点を積極的に利用していきたいと思っています。

著者プロフィール

水迫尚子(みずさこ・しょうこ)LinkedIn

出版社2社、1年のイギリス留学を経て、フリーランスの編集者・ライターとなる。編集者としては主に実用書、ライターとしては旅行雑誌/書籍に関わり、その他に企業のCSRの英文編集/チェッカーも行う。旅行媒体の編集者・ライターとして関わった主な書籍に『わがまま歩き 香港』『わがまま歩き マカオ』『わがまま歩き オランダ ベルギー ルクセンブルグ』がある。オランダの観光ガイド「ikganaar」、パン好きが高じて立ち上げた「オランダの茶色のパン」を運営している。

  • ,, - By ライフハッカー編集部LIKE

    IoTに必要なのは好奇心。世界を変える「デジタル・トランスフォーメーション」人材とは?

    Sponsored

    IoTに必要なのは好奇心。世界を変える「デジタル・トランスフォーメーション」人材とは?

    IoTに必要なのは好奇心。世界を変える「デジタル・トランスフォーメーション」人材とは?

    IoT全盛の昨今。すべてがインターネットにつながっていることを踏まえれば、これからのビジネスパーソンにますます求められる要素は、顧客のニーズや市場と、テクノロジーをリンクして見渡すことのできる"デジタル・トランスフォーメーション"の能力でしょう。 では、このデジタル・トランスフォーメーションとはどのような概念なのか? 改革の最前線で活躍する、アビームコンサルティングの渡辺巌氏、高松和正氏に話を聞  11:00 AM

MORE FROM LIFEHACKER

powered by

Kotaku

© mediagene Inc.