【梅田・車暴走事故1週間】運転男性、約1カ月前から複数の医療機関を受診…直前に携帯通話形跡なく、心疾患で路肩に停車か
大阪・梅田の繁華街で乗用車が暴走し歩行者10人が死傷した事故で、車を運転して死亡した奈良市のビル管理会社経営、大橋篤さん(51)が、事故前に複数の医療機関を受診していたことが2日、捜査関係者への取材で分かった。
また、事故直前に大橋さんの携帯電話で通話した形跡がないことも判明。大阪府警は、大橋さんが体調の異変を感じて停車した前後に心疾患を発症し、車を暴走させたとみている。
捜査関係者によると、大橋さんの健康保険証の使用履歴などを調べたところ、事故の約1カ月前から直前までに複数の医療機関を受診していた形跡があった。大橋さんが通っていた奈良市内のクリニックは「大橋さんには高血圧の症状があり、定期的に検査に来ていた」としており、府警は受診歴のある医療機関に受診時期や受診内容、投薬状況などを照会し、事故直前の健康状態を調べている。
また、事故直前に大橋さんが携帯電話で通話した記録は残っておらず、府警は大橋さんが事故の直前に現場の西約100メートルの路肩で停車したのは、携帯電話の着信などでなく、その時点で体調が急激に悪化したためとみている。
事故では、交差点の先の歩道にいた大阪府寝屋川市の園尾幸治さん(65)が死亡。同府高槻市の女性(28)が意識不明の重体となり、21〜75歳の男女8人が重軽傷を負った。
■いびつな交差点、被害拡大の遠因に
事故発生から3日で1週間。事故の直接原因がほぼ明らかになるなかで、再開発のためいびつな形状になった交差点の形状も被害拡大の遠因となったと指摘される。誰もが遭遇する可能性のある悲劇的な事態をどうしたら防げるのか。くみ取るべき教訓は重い。
急病事故「誰にでも起こる」
「急病による交通事故は誰にでも起こり得る」。交通事故の予防医学を専門とする滋賀医科大の一杉正仁教授(社会医学)は警鐘を鳴らす。
警察庁によると、平成26年に発生した交通事故は57万3842件。うち運転手の急病・発作が原因とされているものは209件だが、一杉教授によれば「海外では交通死亡事故の約1割が何らかの体調変容が原因というデータもある」という。
平成25年には三重県亀山市で観光バスの40代の男性運転手が、宮城県蔵王町では高速バスの30代の男性運転手がそれぞれ走行中にガードレールに接触して死亡したが、いずれも死因は心疾患で衝突前に死亡していたとみられる。走行場所によっては歩行者らが巻き込まれていた可能性もあった。
高齢化社会が進行する現代、持病を抱えた高齢ドライバーらによる事故の増加も懸念される。一杉教授は「教習所や免許証の書き換えなど、あらゆる機会を通じて体調に異変を感じたときは絶対に運転しないよう呼びかけるべきだ。万全の体調で運転することは、ドライバーの義務だ」と強調する。
急病事故防ぐ技術開発も
自動車業界も、急病による交通事故を防ぐ技術開発を進めている。トヨタ自動車グループは、ドライバーの体が大きく倒れるなど異常が続いた場合に車を路肩に止めるシステムを開発中。日野自動車は、正面を向いていない状態が続くと警報を鳴らすトラックを市場に投入しているが、こうした技術が一般に普及しているとはまだ言い難い。
一方、事故現場となったスクランブル交差点は、西側から一番左端の車道を直進すると、歩道にそのまま乗り上げる変則的な構造だった。今回、前方に信号待ちの車もなく交差点を突き進み、被害が拡大した。捜査関係者によると、以前は通常の十字路だったが、付近の再開発や道路拡幅などによって、現在のいびつな形状になったという。
交通安全の研究・啓発を進める安全教育研究所(東京)の星忠通所長は「道交法では事故原因が全てドライバーにあるとされるが、事故を誘引する道路形状、信号などの管制の問題も見逃せない。こうした視点も踏まえた交通行政を考えるべきだ」と指摘する。