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被災文化財 修復の歩み 各地で披露3月6日 9時07分
東日本大震災で津波の直撃を受けた博物館などの収蔵品。この「被災文化財」の劣化を食い止め、後世に残す地道な作業が、今も続けられています。
前例のない取り組みを、どのように多くの人に知ってもらうか。その1つが、応急処理を終えた資料の「出張展示」です。
現在、被災地から遠く離れた2つの博物館で、被災文化財を紹介する展示会が開かれています。
前例のない取り組みを、どのように多くの人に知ってもらうか。その1つが、応急処理を終えた資料の「出張展示」です。
現在、被災地から遠く離れた2つの博物館で、被災文化財を紹介する展示会が開かれています。
被災文化財を身近なものに
絵画や着物、仏像に考古資料。劣化を食い止める処理を終えたさまざまな被災文化財が、福井県立歴史博物館(福井市)で展示されています。
展示資料はおよそ110件。そのほとんどは、岩手県陸前高田市で被災した文化財です。
陸前高田市では、市立博物館と図書館、海と貝のミュージアム、そして埋蔵文化財保管庫が津波の直撃を受け、収蔵品が海水や汚泥につかりました。
その後のレスキューで回収された収蔵品は、4施設で合わせて46万点。各地の大学や博物館などが参加して、今も保存・修復が続けられています。
陸前高田市は福井市からは直線距離で500キロ以上離れていますが、福井県立歴史博物館で展示を担当した水村伸行さんは、こうした被災文化財の「身近さ」を強調します。
「災害はいつ来るか分かりません。文化財に限らず、家族のアルバムなど自分の家の大切なものが被害に遭っても救える方法があるということを、展示を通じて知ってもらいたい」
展示資料はおよそ110件。そのほとんどは、岩手県陸前高田市で被災した文化財です。
陸前高田市では、市立博物館と図書館、海と貝のミュージアム、そして埋蔵文化財保管庫が津波の直撃を受け、収蔵品が海水や汚泥につかりました。
その後のレスキューで回収された収蔵品は、4施設で合わせて46万点。各地の大学や博物館などが参加して、今も保存・修復が続けられています。
陸前高田市は福井市からは直線距離で500キロ以上離れていますが、福井県立歴史博物館で展示を担当した水村伸行さんは、こうした被災文化財の「身近さ」を強調します。
「災害はいつ来るか分かりません。文化財に限らず、家族のアルバムなど自分の家の大切なものが被害に遭っても救える方法があるということを、展示を通じて知ってもらいたい」
多様な文化財の処理方法
津波に巻き込まれた収蔵品は、「安定化処理」と呼ばれる作業で劣化を食い止めます。例えば古文書などの紙資料の場合、洗浄、殺菌、脱塩、水分除去、乾燥、消毒、応急修理、デジタル化といった工程をたどります。
中でも大切なのが脱塩です。海水につかったものを単に乾かすだけでは塩分が残り、カビが発生する原因となってしまいます。そこで、洗浄液などに何度もつけて塩分を取り除く作業が不可欠となるのです。
福井の会場では、紙のほか、木、布、金属など材質ごとにコーナーが分けられ、実物資料とパネルによって、それぞれの処理方法が紹介されています。
中でも大切なのが脱塩です。海水につかったものを単に乾かすだけでは塩分が残り、カビが発生する原因となってしまいます。そこで、洗浄液などに何度もつけて塩分を取り除く作業が不可欠となるのです。
福井の会場では、紙のほか、木、布、金属など材質ごとにコーナーが分けられ、実物資料とパネルによって、それぞれの処理方法が紹介されています。
修復の成果が一目で分かるのが、昆虫標本です。修復を終えた標本箱と被災した状態のまま残された標本箱が並べて置かれています。
陸前高田市立博物館が収蔵していた標本は海水や泥にまみれ、全国の20か所の博物館や昆虫館に運ばれました。それぞれの館で工夫しながら、昆虫を一つ一つ取り出して丁寧に洗浄したということです。
陸前高田市立博物館が収蔵していた標本は海水や泥にまみれ、全国の20か所の博物館や昆虫館に運ばれました。それぞれの館で工夫しながら、昆虫を一つ一つ取り出して丁寧に洗浄したということです。
ワークショップやガイドブックも
この被災文化財の出張展示、現在、福井県立歴史博物館のほか、名古屋市博物館でも行われています。
関係する博物館などが修復の現状を広く知ってもらおうとプロジェクトを立ち上げ、文化庁の補助金を受けて開催しているのです。展示は2年目で、昨年度は3か所で行いました。
このプロジェクトでは、安定化処理のワークショップも開いています。今年度は全国の4か所で実施。地域の博物館の学芸員などが、多いところでは30人ほど参加して、実際に紙資料や植物標本などの処理を経験しているということです。
また、その名も「安定化処理」という、250ページに及ぶA4版のガイドブックも発行しました。収蔵品が被災した状況や救出活動などについて当事者が解説し、処理の方法については、かつらや郷土玩具、動物の剥製標本などに至るまで、日本語と英語による具体的な記述が並びます。
津波被害に遭った大量の文化財の保存という初めての取り組みについて、ノウハウを共有することで、次なる災害に備えるのがねらいです。
このプロジェクトの今後について、取りまとめ役の日本博物館協会は、申請中の補助金が採択されれば、新年度は2つの会場で展示会を開くとともに陸前高田市での展示を実現させたいとしています。
「博物館の再興には長い時間がかかりますが、被災文化財はちゃんとよみがえるという理解は醸成できました。地域の再生を考えたとき、博物館の役割はもっと認識されてしかるべきです。今後もこのプロジェクトを続けていきたい」(日本博物館協会・半田昌之専務理事)
福井県立歴史博物館で開催中の「よみがえる文化財」は、今月21日まで。
名古屋市博物館の特別展「陸前高田のたからもの」は、今月27日まで開かれています。
関係する博物館などが修復の現状を広く知ってもらおうとプロジェクトを立ち上げ、文化庁の補助金を受けて開催しているのです。展示は2年目で、昨年度は3か所で行いました。
このプロジェクトでは、安定化処理のワークショップも開いています。今年度は全国の4か所で実施。地域の博物館の学芸員などが、多いところでは30人ほど参加して、実際に紙資料や植物標本などの処理を経験しているということです。
また、その名も「安定化処理」という、250ページに及ぶA4版のガイドブックも発行しました。収蔵品が被災した状況や救出活動などについて当事者が解説し、処理の方法については、かつらや郷土玩具、動物の剥製標本などに至るまで、日本語と英語による具体的な記述が並びます。
津波被害に遭った大量の文化財の保存という初めての取り組みについて、ノウハウを共有することで、次なる災害に備えるのがねらいです。
このプロジェクトの今後について、取りまとめ役の日本博物館協会は、申請中の補助金が採択されれば、新年度は2つの会場で展示会を開くとともに陸前高田市での展示を実現させたいとしています。
「博物館の再興には長い時間がかかりますが、被災文化財はちゃんとよみがえるという理解は醸成できました。地域の再生を考えたとき、博物館の役割はもっと認識されてしかるべきです。今後もこのプロジェクトを続けていきたい」(日本博物館協会・半田昌之専務理事)
福井県立歴史博物館で開催中の「よみがえる文化財」は、今月21日まで。
名古屋市博物館の特別展「陸前高田のたからもの」は、今月27日まで開かれています。