中国の国防費 低成長に合わぬ軍拡だ
毎日新聞
中国の国防費が前年実績比7・6%増の約16兆7000億円になった。伸び率が2ケタを割ったとはいえ、米国に次ぐ世界2位の国防費は巨額だ。日本の3倍を超える。科学技術費などに計上される国防関連予算を含めれば、実態はさらに大きい。
李克強(りこくきょう)首相は全国人民代表大会(国会)の報告で、今年の経済成長率目標を昨年より引き下げ、6・5%から7%と表明した。成長を上回る国防費の増加が続く限り、国内外から経済よりも軍拡を優先するのかという批判はなくならないだろう。
習近平(しゅうきんぺい)国家主席(中央軍事委主席)は今年、陸軍中心の従来の体制を改め、陸海空3軍を統合運用するための大規模な組織改革に踏み切った。7大軍区を五つの戦区に再編成し、中央軍事委の指揮機能を高めた。米軍などをモデルに現代戦に備える狙いだ。
経済発展に伴い、軍の近代化を進めるのはどの国も同じだろうが、中国の場合、あまりにも急速で規模が大きい。意図も不透明だ。過去四半世紀にわたり、国防費の大幅増を続けてきたが、何を最終目標にしているのかが見えない。軍の政治的発言力が大きいことも気にかかる。
昨年9月の軍事パレードでは米露にもない対艦弾道ミサイルなど最新兵器が登場した。ウクライナから購入し、改造した空母「遼寧(りょうねい)」に続き、初の国産空母の建造も進む。南シナ海の南沙諸島では巨大な人工島を造成し、西沙諸島には対空ミサイルや戦闘機を配備した。
もはや防衛の範囲を超え、海洋覇権の確立を目指しているようにしか見えない。中国は日米などのミサイル防衛に「自国の安全のために他国の安全に損害を与えてはならない」と反対してきたが、中国の軍拡こそ、周辺諸国に脅威を与えている。
大洋州を含めたアジアの軍事費は欧州を上回り、増加している。自国の安全追求が軍拡競争につながり、かえって安全を脅かすという安全保障のジレンマを自覚すべきだ。
中国経済は正念場を迎えている。李首相も報告で「困難はより多く、試練はより厳しくなる」と述べた。構造改革や都市と農村の格差是正など山積した内政課題に集中するためには安定した国際環境が必要なはずだが、それは軍備増強で得られるものではない。米国や日本を含めた周辺各国との協調、協力が不可欠だろう。経済のグローバル化が進む現代ではなおさらだ。
中国が変わらなければ、周辺諸国の連携強化が進むだけだ。日本は米国や関係諸国とともに、軍拡は反発を生むだけで、繁栄にはつながらないことを粘り強く説得していく必要がある。