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予防医学研究者・石川善樹の、ビッグデータ解析を成功に導く「問い」の設計法

イノヴェイションを起こすビッグデータ解析は、「問い」の設計法が鍵を握る。現代のビジネスパーソンには、データサイエンティストを使いこなすスキルこそが必要だ。『WIRED』本誌でも連載執筆いただいている予防医学研究者・石川善樹が、4月開講の“WIREDの学校”でわれわれに共有してくれる「知」とは。

 
 
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PHOTOGRAPHS BY KAORI NISHIDA
TEXT BY AKIHICO MORI

石川善樹|YOSHIKI ISHIKAWA
東京大学医学部卒業後、ハーヴァード大学公衆衛生大学院修了。「人がよりよく生きるとは何か」をテーマに学際的に研究を行う。専門分野は、行動科学、計算創造学、マーケティング、データ解析など。講演や雑誌、テレビへの出演も多数。NHK「NEWS WEB」第3期ネットナビゲーター。著書に『疲れない脳をつくる生活習慣』〈プレジデント〉、『最後のダイエット』〈マガジンハウス〉、『友だちの数で寿命はきまる』〈マガジンハウス〉など。

ビジネスシーンでの集中力向上や目標設定に対するメンタルコントロールにはじまり、睡眠やダイエットなどの健康法においても多彩な活躍をみせる予防医学研究者・石川善樹。彼は4月に開講となる“WIREDの学校”、「WIRED Business Boot Camp」で、ビッグデータ解析の講義を担当することが決まっている。

研究者として膨大なデータから仮説を生み出し、検証してきた実績をもつ石川は現在、ビッグデータをもつさまざまな企業とともに研究を行っている。

共同研究をこなすなかで石川は、現在のビジネスシーンのビッグデータ解析で最も難しいのは、データを使って何をするのかという「問い」の設計方法であることに気がついたと言う。ビッグデータ解析を成功に導く問いの設計方法とは、どのようなものなのか?

40名限定!「WIRED Business Bootcamp」受講者募集中

『WIRED』日本版とデジタルハリウッドが、20〜30代の次世代を担うビジネスパーソンに向けて提供する、「WIRED Business Bootcamp」。半年にわたって開催されるプログラムでは、「データ」「コミュニティ」「メディア」「ストーリー」そして「デザイン」の5分野の最先端にいる講師陣が、それぞれの専門領域をテーマに連続3回の講義とワークショップを行う。本プログラムの第2回説明会は、3月6日(日)の11:00〜12:30に実施予定だ。詳細はこちらから。

──データ解析をビジネスで使うことが、どうして重要視されているのでしょうか? 「データを使おう」「ビッグデータ解析をしよう」と、よく言われていますが。

まず、データ解析をビジネスで使うときのプロセスを整理すると、データを使って解く「問い」を立てる〈Question〉、問いをもとに、データ解析によって予測、分類、検証、因果関係の解明、創造を行う〈Solution〉、ビジネスにおける本質、未来への提案を行う〈Presentation〉の3段階に分けられます。

ふつう「データ解析」と聞くと、〈Solution〉のプロセスを意識されることが多いのではないでしょうか。つまり「主成分分析」や「クラスター解析」、最近だと「ディープラーニング」といった専門的な解析のノウハウを知っていなければいけないという意識がある。なかには勉強されている人もいるかもしれません。

でも、実はそんな細かいことは知らなくていいんです。そうした〈Solution〉のツールを使って、ビジネスに対して何ができるかさえ知っていればいい。ビジネスパーソンは、データ解析が仕事ではないからです。データを使って、日々のマネジメントを効率化したり、イノヴェイションを創出するのが仕事のはずです。

誤解を恐れずに言うと、ビジネスパーソンは、“データ解析屋さん”に向けてわかりやすい発注書を書ければいい。そのためのノウハウこそが、データ解析をビジネスで使うためには必要です。

──現代のビジネスシーンで、データ解析はどれくらい必要ですか?

うーん、それは難しい質問ですね。これはヤフーのCSO(Chief Strategy Officer)・安宅和人さんと議論したことなのですが、おそらくビジネス課題の多くは、複雑なデータ解析よりも、単純なデータそのもので十分解決できるんじゃないかと。

そういう意味でいうと、極論すれば、データ解析はほとんど使わなくていいといえます。では、なぜ使おうとするのか。それはイノヴェイションを起こすためだと考えられます。

これはぼくなりの定義ですが、そもそもイノヴェイションには、大きく分けて3つの段階があると考えています。キャンペーンなどの施策の効果を最大化するなど、既存ビジネスを日々改善していくための〈微修正〉、既存の要素を組み合わせ、革新的なビシネスを生み出す〈再構成〉、ビジネスを新たに定義することで、大きな変化を生み出す〈再定義〉です。

よくデータが使われるのは、このうち〈微修正〉についてです。データ面からビジネスを客観的に捉え、数値化することで、効率化や大きなメリットがあります。

でも、それだけがデータの使い道ではないのです。ビジネスパーソンならば、まさにスティーブ・ジョブズがiPodやiPhoneを生み出したような、ビジネスの〈再構成〉や〈再定義〉にもデータ解析を使っていってもらいたいと、ぼくは期待しています。

──そのためには何が必要なのでしょう?

〈Question〉、つまり「問い」の設定です。データを使って何を解くかを決めるプロセスです。創造的な〈Solution〉と〈Presentation〉を生む「よき問い」は、ビジネスにおけるデータ解析の成否を決めます。

──石川さんにとっての「よき問い」の条件とは何でしょう?

まず「解けること」。そして「面白いこと」です。面白い問いであっても、解けなければそれは問いではない。そして解けたとしても、簡単に解ける問いは面白みに欠けます。そうしたよからぬ問いに基づく解析は、いかに優秀なデータサイエンティストによってなされたとしても、ビジネスの本質や未来への提案力をもちません。

「よき問いは、解ける」ということに、案外多くの人が、気づいていないのかもしれません。それは逆説的になりますが、データの解析手法を知らないばかりに、本来は解けるはずの問いを解けないと決めつけているかもしれません。もちろん何においても葛藤や困難はつきものですが、そのなかで何が解けて面白いと思えるか。それがデータを扱うビジネスパーソンに求められていることではないでしょうか。

──問いをつくっていくには、どんなことから始めればいいのでしょうか?

これも(前出の)安宅さんと議論したのですが、まずは「経営の意思決定に必要な情報とは何か?」という問いを考えてみるのが大事だと思います。

もう少し言うなら、自分の会社のビジネス課題を考えたときに、経営陣に意思決定してもらうためにはどのくらいのデータで十分なのか、それをどのように見せたらいいのか。そういったことを考えてみると、そもそも取るべきデータをとっていないんじゃないかということに気が付くことも多いようです。データ解析以前の問題だったということですね。

──石川さんは「よき問い」を生み出すには何が大事だと考えてらっしゃいますか? 例えば石川さんは、TEDでお話されているように、予防医学研究者として「21世紀は何が寿命を決めるのか」という大きな問いに挑み、それが「人とのつながり」であることを突き止めている。このようなイノヴェイティヴな答えを生むためのよき問いは、果たして体得できるものなのでしょうか?

うーん、それ自体、すでによい問いですよね(笑)。これは研究者としてトレーニングされる過程で叩き込まれるのですが、よき問いを生むためには理性を捨てろとよく言われます。むしろ情緒を豊かにすることが求められます。

ここでいう情緒とは、もっとわかりやすく言うと、喜怒哀楽などのさまざまな感情を経験するということです。実際、最近のクリエイティヴィティに関する脳科学の研究を見ていると、ポジティヴ感情とネガティヴ感情を行ったり来たりすることが、創造性を産み出す大事なポイントだと報告されています。

たとえば最近、とあるファッションの会社から、「ファッションによって心が躍るとは何なのか研究してほしい」というお題を与えられました。研究者の立場からすると、これはもうとんでもなく素晴らしい問いですね(笑)。

ただ、ぼくはファッションに関心をもったことがないし、残念ながらファッションの才能はゼロに近い。しかし、無関心は何も生まない。だから情緒を働かせて、ファッションを面白がる、不思議がる、時には怒りすらもって見てみる。

2012年のTED×UTokyo で石川は、「寿命」と「人のつながり」との関係を解き明かし、長生きの秘訣を披露した。

例えばすごく失礼な言い方になりますが、原宿などのオシャレな街に行くと、ものすごくファッションセンスのある容姿端麗な女の子1人とダサい女の子2人からなる3人組のグループを見かけたりします。

誰がどう見たって“引き立て役”にしかならない2人の女の子たちは、いったいどんな気持ちなんだろうか? 逆に真ん中で輝いている女の子は何を感じているのだろうか? 相手の立場に立ちながら、さまざまな感情を交錯させつつ、原宿の街を眺めていくと、不思議とファッションについてどんどん興味がわいてくるのです。

このようにして情緒豊かにいろんな出来事を自分の経験のなかでつなげていくことが、よき問いをつくるうえで重要なプロセスなのです。

──原宿を観察した結果、ファッションに関してどのような問いが生まれましたか?

いろいろな紆余曲折があったのですが、最終的にものすごく面白い問いに出合いました。そのおかげで「心が躍る、すなわち“トキメク”とは何か?」に関して、感動するような発見をすることになるのですが、ここで言ってしまうともったいないので、実際のWIRED Business Bootcampでお話ししますね(笑)。

ただ、繰り返しになりますが、本質的なイノヴェイションを起こしてくれるのはデータ解析ではなく、よき問いだということです。それはどれだけ本を読み、セミナーに参加したって生まれるものではなく、人間ならば当たり前にもっている感情をうまくつかいこなすことで自然に沸き起こるのだと思います。

よき問いさえ設定できれば、あとはみんなで力を合わせれば何とか解けます。難しいのは、そもそもよき問いを思いつくことなのです。

現在受講生を募集中! WIRED Business Bootcamp

5組の豪華講師による体験型のビジネススクールを、『WIRED』日本版とデジタルハリウッドが開講! 石川が担当する講義は全3回で構成される。1回目には、理論編として問いの具体的な設計方法を、2回目、3回目の講義では、実践編として、Amazonの「おすすめ商品」を表示させるための「協調フィルタリング」などを使った、実際のデータ分析を行う予定。

定員
限定40名

対象
20〜30代の次代を担うビジネスパーソンで、新規事業の立ち上げを検討している方、もしくは新しいビジネスに興味のある方

募集期間
2016年3月31日まで

受講開始日
2016年4月15日(金)予定

講義スケジュール
全20回・4〜9月の金曜日 19:30〜21:30(一部講義は土曜日に実施)
※授業内容と合わせて後日詳細を公開します

受講料:298,000円(税別)

会場
WIRED Lab.(※ 2016年4月オープン予定)
東京都港区六本木1-3-40 アークヒルズ アーク・カラヤン広場

お問い合わせ
wired-bbc@dhw.co.jp(デジタルハリウッド担当川本)

詳細
http://www.dhw.co.jp/wired-bbc/

 
 
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