田中陽子、河合真美江
2016年3月4日10時21分
通学電車で痴漢に遭い続けた女子高校生が、痴漢を防ぎたい一心で、母と一緒にバッジを作り、身につけ始めた。「私は泣き寝入りしません」。その行動が共感を呼び、デザインを公募したバッジが今月、製品化される。「痴漢は男の敵でもある」と男性も立ち上がった。
バッジを作ったのは東京都の高校2年の女子生徒(17)。入学以来、往復30分の電車でほぼ毎日痴漢に遭い、苦しんでいた。
最初に考えたのはカードだ。「私は泣き寝入りしません!」と書き、痴漢が警察につかまる絵を添えた。昨春からかばんにつけ、後ろから見えるようにすると痴漢に遭わなくなった。
母親(49)の友達で、大阪市のライター松永弥生さん(50)が、バッジにしたらと提案。女子生徒は母と相談し、ネットでメーカーを探して昨夏、最初のバッジができた。
「痴漢の被害を訴えられない人、バッジを必要とする人はたくさんいる」と松永さん。「Stop痴漢バッジプロジェクト」と名付け、11月からクラウドファンディングで資金を募ると同時に、ネットで仕事を受発注するクラウドソーシングでデザインを公募した。
製作資金は3カ月で212万円集まった。デザインは443点寄せられ、支援者の投票などで5点を製品化することになった。
デザインを寄せた人の4割は男性。特別賞として採用されたデザイナー小坂浩人さん(50)は「男として加害者への怒りがあった。被害に周囲が気づけるよう、痴漢に対する意識が変わってほしい」と話す。
電車での通学や通勤を4月から始める人に間に合うよう、3月中に公式サイトでネット販売を始める(税別380円の予定)。
■「泣き寝入りしません」
この高校生によると、痴漢はいつも違う人だった。満員の車内でどうにもできなかった。下校時は女性専用車両がなく、特に被害に遭うことが多かった。ドアに押し付けて逃げ道を塞がれ、降りるはずの駅を降りられなかったこともある。パニック状態で、降りた駅も覚えていない。
気持ち悪かった。自分の価値を下げられたようで悔しかった。「自分がクズだからしょうがない」。そんな気がしてきて母にぶつけると、「悪いのは犯人」と必死で否定してくれた。
最初は痴漢に遭っても怖くて何も言えなかった。痴漢かどうかわからず、冤罪(えんざい)を生んでしまうかもしれないと思うとためらわれた。
声を上げられるようになったのは1年ほど経ってからだ。「やめてください」と勇気を振り絞って言っても、無視されたり、「やってないよ」と逃げられたりした。「この人痴漢です。助けて下さい」と叫んでも誰も助けてくれず、自力で「犯人」を駅員に引き渡したこともある。
こんな思いを二度としたくないと、母とカードを考えた。「泣き寝入りしません」は自然に出た言葉。私は「やめて」と言える。そう示したかった。つけていると「ださいよ」と言われたり、「痴漢する方も相手を選ぶよな」と話すのが聞こえたり。でも痴漢に遭わなければ、構わなかった。
昨年8月、母がネットで発信したのを機にバッジに変えた。反響の大きさに戸惑いもある。だが、同じ目に遭い、我慢している人がいっぱいいるとわかった。
社会には、痴漢を軽く考える風潮があると感じている。「被害に遭わないように。遭わない人が被害に遭っている人を守ってあげられるように。そういう社会になるといい」と話す。
■「男性も痴漢の被害者なんです」
首都圏に住む男性会社員(30)は、この高校生のことをネットで知り、男性がつけるバッジを2月に作った。ピンクの地に「痴漢は俺の敵」と書いた。胸元やかばんにつけて痴漢行為を思いとどまらせ、困っている人の味方だと伝えたいという。
男性用バッジを作りたいと年末にツイッターで発信すると、「作ろう」「お金を出すよ」と好意的な反応が相次いだ。文言やデザインを妻と考えた。大きさは3種類。12日午後1時、東京都渋谷区のクラウドワークスで初めての販売イベントを計画している。
「痴漢を黙認する社会の空気を変えたい」と会社員。「男性にもひとごとじゃない。痴漢がやりづらくなれば冤罪(えんざい)も減る。男性も痴漢の被害者。ノーと言いませんか」(田中陽子、河合真美江)
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