政府は、「1億総活躍社会」に向けた「介護離職ゼロ」実現のための具体策として、特別養護老人ホームなどの介護施設を増やすため、首都圏の国有地90ケ所を早ければ年内にも事業者に安く貸し出す方針だという。これはないよりはましだが、優先すべき政策ではない。
介護離職を減らすためには介護を頼める施設を増やす必要があるという認識は正しい。財政難を理由に近年、施設介護から在宅介護へのシフトを誘導する国策が採られてきたが、政府もようやく間違いに気づいたのかも知れない。在宅介護をしたい人への支援は充実すべきだが、介護離職による職場と家庭の崩壊を食い止めるためには、施設介護を頼める先を地元に確保する以外の決め手はない。
しかし土地の確保は最優先策ではない。首都圏で施設建設の場所が不足しがちなことは確かだが、介護業界の経営者の声を聞く限り、最大の課題は人手不足なのである。施設介護に対する需要は旺盛だが、そこで働いてくれる介護スタッフの確保がままならないため事業拡大が難しい、というのが現場の嘆きなのである。増設どころか現状維持すら(人手不足で)ままならないという介護施設の悲鳴もよく聞く。
昨今はどの業界でも人手不足が叫ばれているが、介護業界は不況期から続く慢性的な人手不足業界である。正確に言うと、「需要が急拡大する中、供給が追い付かない」のであり、決して介護業界への就労数が減っているわけではなく、むしろ着実に増えている(下記URLにある資料のP.5を参照されたい)。
とはいえ社会的要請が急務である職業でありながら、期待ほど人が増えていないのも事実である。介護業界の有効求人倍率は全産業のそれを遥かに上回り続けているのが実態である(下記資料のP.10~11を参照されたい)。
介護人材の確保について(社会保障審議会資料)
ではなぜ人は介護業界への就労をためらうのであろうか。実は若い人たちの中で介護職というのは人気のない仕事ではないのである。むしろ目の前にいる人のためになることができ、「やりがいを感じる」職業の一つなのである。しかしいざ実際の職業選択の場面になると、必ずしも選ばれないのである。当人がその気になっても、親兄弟が説得し断念させることも少なくないとされる。他の職業から転職を考えている人にとっても選択肢に残りにくいのである。
なぜか。介護の仕事に「低賃金で重労働」とのイメージが強いことが主要因であろう。内閣府の「介護保険制度に関する世論調査」(平成22年)によると、ネガティブな面としては「夜勤などがあり、きつい仕事」(65.1%)、「給与水準が低い仕事」(54.3%)、「将来に不安がある仕事」(12.5%)の3つが高い割合を示した。
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パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
当社は新規事業・新市場進出・業務改革の3つのテーマを中心に、企業改革をお手伝いします。代表である私は、30年弱にわたる戦略・業務コンサルティングの経験と実績を基に、ハンズオンの姿勢で、実践的かつスピーディな課題解決を心掛けています。またBPMのエヴァンジェリストとして、BPMアプローチ(KPIを軸に狙いと手段を整合させた上で、PDCAサイクルに沿った継続的プロセス改革を進める手法)による「空回りしない」業務改革/IT改革を唱えております。