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追放
更新をお待たせして申し訳ありませんでした。メタトロンとの決着です。
「くくく……やった! とうとう放蕩者ドンコイを殺してやった! 」
アーシャの声で狂喜するメタトロンは、足裏に張り付いた小さな指輪に気がつかなった。
「次はシンイチだ・・・ん? 」
足裏から何か違和感が伝わってくる。足裏にドンコイの血にまみれた『吸光の指輪』が貼りついていて、そこにメタトロンの『清光』が吸い込まれていくのだ。
「な、なんだ! 」
メタトロンは急に倦怠感を感じて不審に思う。
吸い込まれた『清光』はコードを伝って、周囲を取り囲んでいるスーパーコンピューターに吸い込まれていく。次の瞬間、コンピューターが起動して、地面に光の線が走っていった。
それは瞬く間に島じゅうに広がり、メタトロンを包囲する正方形を描く。
同時に四大精霊による極大封印魔法が展開された。
「四大精霊封印魔法『四精封魔壁! 』」
ウンディーネ・ノーム・シルフ・そしてイフリートが魔力を振り絞り、光でできた壁を作る。
それは四方からメタトロンに迫っていった。
「ふん。どんな魔王や勇者でも大地に封印できるといわれる極大封印魔法か。小賢しい 」
伝説の究極封印魔法を見ても動揺することなく、メタトロンは翼を広げた。
次の瞬間大きく羽ばたいて、大空に飛び立つ。
「この世界に存在する魔法など、何を持ち出してもお見通しよ」
「ならば、新しい魔法で貴様を封じるまでよ! 」
突然声が響き渡り、メタトロンの頭上に一人の男が現れる。
次の瞬間、地上のパソコンからレーザー光線が放たれ、その男に当たった。
「五大精霊封印魔法 『五精金字塔 』」
メタトロンの光の魔力を吸収し、一時的に光の精霊となった男―魔王イワンが声たかく叫ぶ。
次の瞬間、五つの基点が光で結ばれ、黄金色に輝くピラミッドが出現した。
「ぐぁぁぁぁぁ! 神である余の力を吸い取るとは……」
ピラミッド内部で急激に魔力を失い、メタトロンは地上に落下していく。
ものすごい勢いで地面に激突し、全身の骨が砕けて力なく横たわった。
相手の魔力を吸い取り、その魔力を使って相手を封印する究極封印魔法をかけられて、メタトロンはピクリとも動かない。
「『五精金字塔 』は世界のすべての力の結集。たとえ絶対神であっても封じることができるはずです……メアリーさん。今なら魔法が通じるはず。動きを封じている間に、早く封印を! 」
「任せて! 」
ウンディーネに元気よく答えると、メアリーは一目散にメタトロンの所に飛んでいく。
動かないメタトロンに対して、渾身の魔力を売り絞って『時空の杖』を振った。
「 邪悪なるモノよ! 永遠なる時の氷に覆われよ。極大時間停止魔法『時空凍霧』」
メアリーの右腕から白い霧が発せられ、今結界に動きを封じられたメタトロンを覆っていく。
その霧に触れたメタトロンの体が凍っていった。五人の精霊の力で時間停止魔法が究極まで強化され、一瞬でメタトロンの体内に流れる時を止めた。
メタトロンの巨体が霧に覆われ、真っ白く凍っていく。
その巨体が完全に氷に覆われ、封印されようとしていた。
「「や、やったのか……」
メタトロンの魔力が完全に消えたのを感じ取り、魔王ノームが心底疲れ果てたという風に地面にへたり込む。
「わ、私はここまでだ……皆、また会おう……」
幽霊であるイフリートの姿が、力尽きたように薄くなって消えていく。
「……もうだめ……きゅぅぅぅ」
アースは、魔力切れでフラフラだった。
「俺は役目を果たしたぜ……」
イワンも元の魔族の姿に戻り、地面に降り立った。
「メアリーさん、ありがとう……シンイチ様……あとは頼みます……」
ウンディーネも安心して、その場に座り込んだ
「ふう。なんとかなったね。これでシンイチにあの処置をしてもらえば完璧だ」
メアリーが安心しかけた時、不気味な声が響いた。
「ふふふ……虫けらどもがここまでするとは。だが……」
メタトロンの体が、黒く染まっていく。
「俺にはこの力が残っている。この『闇』がな! 大暗黒天トモノリ様を舐めるんじゃねぇ! 」
メタトロンの体から黒い霧が出てきて、時空の霧を侵食していった。
それは地面にも広がっていき、『五精金字塔 』の光も打ち消していく。
「へっ! シンイチはどうした! 女を戦わせて、自分はどこかに隠れているのか? 」
トモノリのあざ笑う声が響き渡る。
しかし、メアリーの顔に恐怖はなく、勝利を確信していた。
「ふん。そんなの予想してたよ。『シンイチ召喚』!! 」
メアリーが右手を振ると、この場にシンイチが現れる。
「ああ、行こう! 」
メアリーとシンイチの二人は、超スピードでメタトロンに近づいていった。
シンイチとメアリーは、マーリンがいた場所の『瞳』に到着する。そこはムーラーダーチャクラと呼ばれる、人間の胴体で一番下の位置にあった。
主をなくした『瞳』は、虚しく黒い穴が開いているのみである。
「シンイチ! 早く! 」
「わかっている。『尾帝骨』よ、伸びろ! 」
シンイチが握っている柄のない真っ白い剣が巨大化し、ムーラーダーチャクラに突き刺る。
そのまま一直線に伸びていき、他の天使たちがいる『瞳』を貫いた。
『ぎゃぁぁぁぁぁ! 』
剣に体を貫かれた天使たちの叫び声が伝わってくる。
しかしシンイチは手を緩めることなく、手に持った二つの究極の秘宝に意識を集中した。
「『小槌』の力を全開! 」
右手にもった小槌が輝きはじめる。
「『道具袋』の力を全開! 」
同時に、道具袋も輝き始めた。
「頼むぞ! 成功してくれ……」
底の穴から左手を出し、『尾帝骨』に触れて力を伝える。
二つの秘宝の力が、メタトロンに染み渡っていった。
勇者や魔王たちによる直接攻撃も、アンスたちによる近代兵器攻撃も、マーリン救出作戦も、ドンコイと五大精霊による魔力封印も、そしてメアリーによる時間停止もすべてダミーである。
何重にも罠を張り、絶対に倒せないメタトロンをひきつけたのは全てこの一瞬のためであった。
『な、なにをするつもりだ……ぐっ、動けぬ! 』
体内を貫く『尾帝骨』から、究極の二つの秘宝の力が伝わってきて、メタトロンは焦る。
しかし、どうがんばってもあと数十秒は体を動かせそうになかった。
シンイチは道具袋の『取り出し』と、小槌の『転送』の力を信じて、力いっぱい叫ぶ。
「天使王メタトロンを、『この世界』から、取り出して、外の世界に捨てろ! 」
次の瞬間、メタトロンの巨大な体は一瞬で消えていった。
ドクロ島
多くの戦士たちが傷付き、地面に倒れていた。
まだこの場に立って劣化天使と戦っているのは、勇者級の力を持っているものたちであるが、彼らも多勢に無勢で追い詰められていた。
そして、今まさに一つのカップルが死を迎えようとしている。
「く、ここまでか……」
あまりにも激しい戦いで、ついに『大地の鉾』が折れる。
「王子様……いや、あなた。私は今世でも一緒にすごせて、幸せでした。
ウェルニァと背中合わせになっているシビデレアがつぶやく。手に持っている『雷光のムチ』はあまりの酷使によりちぎれ飛び、かなり短くなっている。
胸に下げている竜のお守り『竜血結石』も、激しい戦いで粉々に砕かれていた。
彼らの周りには圧倒的な数を誇る劣化天使が取り囲んでいる。
すでに抵抗しているのは、彼ら二人だけであり、奮戦していた森の国の王子リチャードや光の国の王クアルも重傷を負って地面に倒れていた。
「シビデレア。生まれ変わっても、また俺と出会ってくれ」
「私の心は、永遠に貴方と共にあります」
二代にわたって恋人となったバカップルが、お互いに向き合って微笑む。
そのままこの世の名残に最後のキスを交わそうとしたとき、いきなり周囲の劣化天使たちの動きが止まった。
「ん? なんだ? 」
劣化天使達たちが、光り輝く羽に変化して消えていく。
「こ、これは? もしかして……」
平原のほうをみると、あれほど目立っていたメタトロンの巨体が影も形もなかった。
「シビデレア! 助かったぞ!」
「王子様! 」
二人は抱き合ってキスを交わす。
「勇者シンイチ殿が……ドンコイ殿が……メタトロンをついに倒した!」
「勇者万歳! 」
傷付き倒れていた戦士達が、傷む体を起こして歓喜の声を上げる。
こうして、『勇者戦役』と呼ばれた長い戦いは終わりを迎えたのだった。
メタトロンが消えた後、非戦闘員による必死の救護活動が行われている。
ドクロ城にいたものは身分の高低にかかわらず、全員が協力して戦士たちの傷を癒していた。
「ほら。しっかりしろ。『エリクサーモドキ』を飲んで元気をだせ」
「『オメガヒール』! よくたたかいましたね。もう大丈夫ですわよ」
カリグラか倒れている戦士達に薬を飲まし、セレームが傷を癒す。
「カリグラ陛下のお薬はよく効きますね。セレーム陛下もありがとうございます」
二人のコンビに助けられて、戦士達は感謝するのだった。
「まあ、俺にはこんなことしかできないからな。治療と薬を配るのを手伝ってくれ」
「はい。みんな、もう大丈夫だぞ!」
二人によって、瀕死状態だった者たちも回復していった。
「『薬師大王』カリグラ陛下 万歳! 』
「『看護女王』セレーム陛下 ありがとうございました! 」
戦士達は二人を囲んで、敬意をこめて二つ名を送るのだった。
「いや……なんだ。お前達、助かって良かったな」
人生で初めて賞賛されて、照れたように頭をかくカリグラを見て、セレームは再び頬を染めた。
(この人との子供なら、けっこう優秀な子供が生まれるかもしれない。身分もつりあうし、頭いいし。薬剤師とナースって、仕事も近いし)
セレームはいつのまにか、カリグラを尊敬の目でみていた。
「しかし、なぜ『エリクサーモドキ』なのですか? 普通に回復してますが……」
戦士たちの質問に、カリグラはニヤリと笑った。
「実は、ちょっと副作用があってな。体の奥から無理やり元気をひっぱりだすやばい薬なので、男はイ○ポになる。女は不妊になる」
「ぶっ! 」
それを飲んだ者達がいっせいに吹き出す。
「そういうことは飲む前にいってくださいよ! 」
「ひどい! 俺達の感謝をかえせ! この『放蕩大王』」
賞賛から一転して戦士達から罵声をあびても、カリグラは恐れ入らない。
「まあ、薬なんて所詮そんなもんだ。効果が強いほど、副作用も大きいのさ。心配するな。不能になったら強精剤を作ってやるから。金とるけど」
相変わらず役にはたつが、迷惑もかけまくるカリグラだった。
そんなカリグラの前に、怒りのオーラをまとわせたナース服の美女が立つ。
「あ、あなたは、なんということを! 最果ての国の女王の私を、ふ、不妊にするなんて! 」
セレームは、バチーンと音を立てて力いっぱいカリグラをビンタした。
「お、落ち着けって。一時的なもんだよ。多分」
「た、多分ってなんですか! 責任とりなさい! 貴方が私の子を産むのです」
どこまでも無責任なカリグラに、セレームの怒りが爆発する。
「そ、それだけは勘弁してくれ! 」
「お待ちなさい! 」
逃げ出すカリグラをを追い回すセレームだった。
突如はじまった国王同士の追いかけっこに、戦士たちから笑い声が沸きあがる。
「やれやれ、もう一組王族のカップルが出来たみたいだな」
「カリグラさん……ご愁傷様です……元気な子供を産んでください」
ウェルニアはにやりと笑い、リチャードは微妙な顔になるのだった。
『反逆の勇者と道具袋』五巻が7/28日に発売されます。
詳しくは活動報告をごらんください。

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