ヤフー人事に聞いた、進捗管理で終わらせないための「1 on 1」

少人数で始まったスタートアップも、いつかは組織になるタイミングがやってくる。そんなとき、組織化のための一手として注目されているのが「1on1」(ワン・オン・ワン)だ。

「『1on1』は、単に上司・部下が仲良くなるための時間ではありません。“明日からの自分をもっと良くするためにはどうすれば良いか”を考えるための時間です。いわば、部下の“気付き”や業務を振り返って“内省”“経験に基づく学び(経験学習)”を支援するためのものですね」(ヤフー 人財育成リーダー 小向洋誌さん)。

小向さんは、ヤフーが2012年4月に新経営体制を発表した後、それに伴う組織開発・人財開発を進めてきた人物の一人だ。さっそく、1on1の定義や具体的なやり方について話を伺った。

小向洋誌(Hiroshi Komukai)。ヤフー株式会社 ピープル・デベロップメント統括本部 人財開発本部 組織・人財開発部 人財育成リーダー。起業経験があり、マネジメントに興味を持つ。「3年前の新体制スタート時、自分から手を挙げて人財開発本部に異動しました。マネジメントで、この会社を変えたいと思ったんです」と話す。

小向洋誌さん:

スタートアップのような起業家を中心とした組織の場合、ありがちな1on1の失敗例として、

  • MBO管理(目標管理)、業績管理と混同してしまう
  • 世間話で終わってしまう

などがあります。

僕自身、起業経験があります。だからこそ、上記の失敗例は身にしみてわかります。僕にも勘違いしていた時代がありましたから(笑)。意地でも売上を出さないと会社がなくなってしまうかもしれないなか、人財育成に力を入れるのはハードルが高いものです。とはいえ、中長期的な成長を目指すには、起業家だけでなく社員それぞれが自ら活動できる組織にする必要があります。

そもそもヤフーが1on1を始めた理由には、会社として「組織」の壁にぶつかったからという背景があります。

ヤフーはスタートアップから始まり、ベンチャー気質のまま大きくなった会社です。そのため社内には、「俺の背中をみて仕事を覚えろ」的な上司が多かったんですね。上司の指示を待っている部下だけでは、組織としても弱いものです。

ヤフーは2012年の新体制以降、社員の「才能と情熱を解き放つ」を人財育成のコンセプトとして掲げています。会社を成長させていくには、社員個々の才能とエネルギーを最大化していく必要があり、そのために、上司は“部下の”「才能と情熱を解き放つ」ことが役割とされています。

1on1とは

1on1は、ティーチング・コーチング・フィードバックの3つの要素を使い分けた個人の能力を引き出すためのアプローチです。

簡単に言うと、自分が経験した仕事で「なんとなくうまくいった」「失敗した」ものについて、上司が「そこから何を学んだのか」を引き出すことが目的です。

仕事は、毎日めまぐるしく動き続けるものです。どんどん目先の数値を追っていかなければならないことが多く、自分が「その仕事から何を学んだのか」を言葉にしないまま毎日が過ぎ去っていきます。そうすると、個人の成長スピードもあまり上がらない。そんな事態を阻止し、個人の成長スピードをさらに加速させるのが、1on1です。

業務報告や進捗管理ではないので、やったことの成功や失敗を問う場ではありません。それに対して褒める・叱るではなく、「私にはこういうふうに見えていて、あなたがやっていることに対してこう思った」とフィードバックすることが大切です。

1on1を始める前の「前提条件」

前提として必要なのは、

  • 実践する上司・部下間に信頼関係があること
  • 「なぜ1on1をやるのか」など、目的を共有していること
  • 実践者側(上司側、もしくは管理者)が1on1の力を信じていること

です。

実践する上司・部下間に信頼関係があること

前提として、上司・部下間の信頼関係を築いておくことが重要です。そもそも、信頼関係ができていないと成立しません。

上司・部下で1on1を行うメリットは、日ごろから観察しているという点にあります。仕事でうまくいったこと、いかなかったこと。時にはプライベートでなにか悩んでいそうだ、ということを観察したうえで1on1に臨むことができます。1on1が上手な上司は、部下が何気なく話す会話はもちろん、勤怠状況や部下の表情などを常に観察しています。

信頼関係がないまま進めると、「これからどうしたいと思う?」と聞いても、「あなたに言われたくない!」と思われてしまいます。

これをクリアする方法の一つに、「上司側から自己開示する」があります。自分のこと、それも本音に近いことを話します。そうすると、相手も本音を話したくなるものです。

なぜ1on1をやるのか、目的を共有していること

1on1の目的について、実践する上司・部下の間でしっかり共有できているかどうかも重要です。

なぜやるのか、なぜ必要なのか。背景やストーリーがしっかりしていない状態では「突然、上司と話せと言われても!」となってしまいます。特に、人事部からの発令となると「人事部がやれと言っているから」としか聞こえないんですよね、やっぱり。やらされ感満載でやったところで、何の効果もありません。

ヤフーの場合、経験学習を通じて部下にとって成長機会を見つけてほしいという目的があります。そのための1on1であることを事前に共有しています。

実践者側(上司、管理者)が1on1の力を信じていること

1on1に関わっている人自身がその力を信じている必要があります。半信半疑はすぐバレます。さらに言うと「やらされているんだ」と部下に思われてしまう可能性もあります。

ヤフーでは社長の宮坂をはじめ、ピープル・デベロップメント統括本部長の本間が「1on1でヤフーを変えられる」と強く信じています。このやり方でうまくいく、と信じている人が中心となっていることも大切です。

1on1の進め方

基本的には、下記の2ステップです。

  1. 相手の話を聞く(傾聴する)
  2. 質問をする

1.相手の話を聞く(傾聴する)

上司・部下の関係になると、どうしても上司側が「アドバイスしてやろう」「いいことを言ってやろう」となりがちです。部下の役に立とうと思えば思うほど、その気持ちは強くなります。

まずは傾聴することです。傾聴とは「傾いて聴く」こと。英語でいうと「アクティブリスニング」です。意外にみんな「聞いているつもり」で、部下が本音を言えるような環境を作れていなかったりします。部下としては、まずしっかり話を聞いてもらいたかったりします。

また「部下が上司に話すこと」は部下がフォロワーシップを発揮するためにとても大切なことです。

部下が自ら話すようになって初めて、フォロワーシップを発揮できる「強い組織」になります。なので、どんどん部下に話してもらいましょう。

2.質問をする

次のステップは「質問をする」です。

傾聴して話を聞き…だけではとりとめのない流れにはまってしまうことがあります。ポイントは興味本位で「あの仕事どうだった?」と聞くのではなく、本人に気づきを与えられるような質問をできるかどうかです。

先述のとおり、1on1は経験学習の一つです。起きた出来事から何を学んだのかに気づくことが目的です。

たとえば、熱々のやかんに触るとやけどします。そして「熱いから二度と触らないようにしよう」と思います。ですが、仕事上では火傷するような経験はあまりないので「あの仕事、なんでうまくいったんだと思う?」と聞かないと、自分ではなかなか振り返りません。

部下が「これがうまくいったんです」と話したら、「その要因はなんだろう」と質問してください。失敗に対しても「だめじゃん」ではなく「もう一度やるなら、どうやる?」と投げかけるようにしましょう。

実例:ヤフーの場合

ちなみにヤフーでは、仕事の経験を振り返るとき「この一週間、どういう仕事をしていたの?」といった投げかけからスタートすることが多いです。

  • 「こんなことやっていました」→「うまくいったことは?」
  • 「これがうまくいきました」→「なんでうまくいったんだろうね」

と、話をふくらませていきます。こういったことを上司が意識して質問できるかどうかが、部下にとっても大きく影響します。

1対1のコミュニケーションができれば「1on1」と呼んでいます。会議室な真面目な場所でやるときもあれば、カフェやミッドタウンの芝生でやっている人たちもいます。目安としては1週間に1回、30分程度。そこは現場の判断に任せています。

1on1がうまくいかないパターンとは

弱いところをみせられないとか、部下に負けていられないとか。競争意識を持っていては、1on1は成り立ちません。上司と部下の1on1でうまくいっていないケースとして、このパターンは非常によくあります。

これは1on1に限らない話ですが、自分がいつまでも部下と同じ目線で勝ち負けを競っていては、部下が成長しません。良いプレーヤーはいつか、マネージャーとして選出されます。その際、プレーヤーではなく、マネージャーとして思考を切り替える必要があります。

いい上司の元で、部下は育つ

一週間に一度、とタイミングを決めなくても、たとえば毎朝「おはよう」の続きとして「あの仕事、うまくいった?」みたいな感じで細かく聞くだけでも違います。

いい質問を投げかけられる上司につくと、部下にとって毎日良い研修を受けているようなものです。2〜3時間の研修より、上司に良いマインド、良いスキルがあると、毎日良い研修を受けているようになります。

1on1のスキルにセンスは必要ありません。誰でも上達できる後天的スキルです。上司の“ちょっとした意識”でスタートできるものなのです。


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